PIVOT TALK BUSINESS
北欧型ガバナンスは日本の土壌に合う
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2025年7月29日

日本の企業経営・ガバナンスを考える上で、有力なモデルになるのが北欧企業だ。フィンランドで時価総額トップを誇る、エレベーターの巨人、KONE。同社の分析を通じて、財務戦略アドバイザーの田中慎一氏が日本企業へのヒントを探っていく。
コネ社のROEはなぜ33.7%?北欧型資本主義から日本が学ぶべきこと
フィンランドのエレベーター大手「KONE(コネ)」は、ROE33.7%という驚異的な資本効率を実現している。日本のフジテックのROE12.9%と比較しても圧倒的な差がある。一方で同業のアメリカ企業「Otis」はROEがマイナスという不思議な状況にある。北欧型の資本主義モデルと欧米型の違いは何か?日本企業が学ぶべき点はどこにあるのか?財務戦略アドバイザーの田中慎一氏に詳しく聞いた。

Q. エレベーター大手のコネ社がROE33.7%という高い資本効率を実現しているのに対し、アメリカのオーティス社がROEマイナスなのはなぜですか?
アメリカの大企業によく見られる特徴ですが、オーティス社は自社株買いを積極的に行いすぎた結果、債務超過の状態になっています。スターバックスやマクドナルド、ボーイングなども同様の状況です。
日本の感覚からすると「債務超過にしてまで株主を持て囃す必要があるのか」と思うかもしれませんが、これらの企業は安定した収益が入ってくるため資金繰りには全く支障がありません。

アメリカ企業のCEOは報酬の大部分が株式で支払われるため、株価を上げるインセンティブが強く働きます。オーティス社の場合も同様で、資金繰りが詰まる心配はほとんどないでしょう。
ただしボーイングのようにパンデミック時に需要が激減すると、一気に資金繰りが厳しくなり、結局は政府に救済を求めることになります。これは一般国民からすれば「なぜ税金で救済する必要があるのか」という不満が生じる要因となります。
Q. 日本企業と海外企業では、従業員一人あたりの営業利益にどのような差がありますか?
従業員一人あたりの営業利益を見ると、オーティス社が最も高く年間約340万円です。一方、フジテックは約120万円と、海外企業に比べると見劣りします。
この指標が重要な理由は、企業の人的生産性を端的に示すからです。例えばフジテックの一人あたり営業利益が月10万円ということは、全従業員の給料を月10万円上げるとその利益が吹き飛んでしまうことを意味します。
日本企業が賃上げを実現するためには、欧米企業のように少ない人数で高い利益を上げる方法を考える必要があります。現状では、業界によっては日本と海外で一桁違うケースもあります。
これは日本企業が一種の「ワークシェア」状態にあることを示しており、生産性向上の必要性を端的に表しています。人手不足が進む中で、こうした「隠れ失業」状態の人材が他のセクターに移ることで、経済全体の最適化が進む可能性があります。
Q. コネ社が競争優位性を確立している秘訣は何ですか?
コネ社の強みは、DXを活用して事業を再定義し、顧客のプロジェクトの上流工程から関与している点です。通常、エレベーターメーカーは建物の計画・設計が終わった後に入札などで選ばれるケースが多いのですが、コネ社は「人流ソリューション」という観点から企画・構想段階から参画しています。
例えば中国の新空港建設プロジェクトでは、いかに人の歩行距離を最小化するかという設計段階から関与することで、単なる競争入札を回避し、高い付加価値を提供しています。
また、「ウルトラロープ」という従来の鋼鉄ロープの約1/10の重さしかない革新的な技術を開発し、省電力化を実現しています。現在、サステナビリティの観点からZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の構築が重要なテーマとなる中、ビル全体の省電力化に貢献できるコネ社のソリューションは高く評価されています。
このように上流工程から関与することで競合を減らし、付加価値を高めています。単にデジタル化するだけでは機器の耐久性が向上するため売上機会が減る恐れがありますが、事業範囲を広げることでその問題を解決しているのです。
Q. 北欧型の資本主義と英米型の資本主義にはどのような違いがありますか?
北欧型と英米型の資本主義には、株主の役割や投資視点、ガバナンスなどに大きな違いがあります。
まず株主の役割について、英米型では「利益の最大化を追求する」ことが重視されますが、北欧型では「長期的支援者・お目付役」としての役割が強調されます。投資視点では、英米型が時にショートターミズム(短期主義)に陥りがちなのに対し、北欧型は長期的・持続的成長や社会的責任を重視します。
ガバナンス面では、英米型は機関投資家やCEOの権限が強いのに対し、北欧型では創業家や財団が安定株主として監督役を果たしています。会社観についても、英米型が「株主の所有物」という考え方なのに対し、北欧型では「社会的制度」という捉え方が強いです。

北欧型は単に「緩い」わけではなく、社会的責任や公共性を重視しながらも、しっかり利益を出すという厳しさも合わせ持っています。スウェーデンのWallenberg家は「会社は社会に責任を負う存在」、フィンランドのHerlin家は「ヒューマンセントリック(人間中心)」「社会との調和を重視した経営哲学」を掲げており、世代を超えた持続的成長を志向しています。
Q. コネ社の創業家であるHerlin家はどのようなガバナンス体制を構築していますか?
コネ社の取締役会は8名で構成され、創業家のHerlin家から3名(Antti Herlin会長、Jussi Herlin副会長、Iiris Herlin)が就任し、残り5名は専門性の高いプロフェッショナル人材です。これは創業家が取締役会に関与しながらも、過半数はプロ人材に委ねるというバランスの取れた体制を意図的に構築しているといえます。また、取締役には女性も含まれており、ダイバーシティの観点からも配慮されています。
Herlin家はメディア露出を嫌い、「静かな影響力」を行使することを好みます。創業家としての責任を果たしながらも、目立たない形で企業を支える姿勢は、北欧の名家に共通する「ノブレス・オブリージュ(高貴な者の義務)」の精神を体現しています。
コネ財団は配当を受け取り、それを社会活動や芸術家支援、学術研究への貢献などに活用しています。このように利益を社会に還元する仕組みを通じて、国全体の豊かさにも貢献しているのです。
Q. 日本企業は北欧型と英米型のどちらの資本主義モデルを目指すべきでしょうか?
日本は現在、長い低成長期を経て機関投資家が企業に対して収益性向上を求める段階にあります。これまで日本の機関投資家は銀行系や生保系が多く、メインバンク関係にある企業に対して強く要求することができませんでした。言い換えれば、投資家としての役割を十分に果たしてこなかったとも言えます。
まずは機関投資家がフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)を果たし、スチュワードシップ・コードに沿って企業に対して適切な働きかけを行うことが必要です。その上で、日本の社会・文化に合致した資本主義モデルを構築していくべきでしょう。

北欧諸国と日本には、王族が存在し、権威と権限が分離している統治システムなど、社会規範の合意形成がしやすい土壌という共通点があります。また、日本の地方には上場していなくても「三方よし」の精神で経営を行い、地域社会に貢献している優良企業が多数存在します。
長期的には、北欧型の「長期的視点」「社会との調和」「世代を超えた持続的成長」という価値観は、日本の文化や社会に馴染みやすいと考えられます。まずは企業の成長力や収益力を高め、その上で北欧型のガバナンスモデルを参考にしていくことが、日本企業の進むべき道ではないでしょうか。