
企業が知っておきたいAI著作権:“契約”が肝
生成AIと著作権:企業の「うっかり侵害」を防ぐために知っておきたいこと
生成AIを使った「うっかり著作権侵害」が企業に突きつける新たなリスクとは?法律の専門家が語る対策と今後の展望について紹介します。

Q. 企業がAI利用で気をつけるべき著作権の「うっかり侵害」とは何ですか?
生成AIを利用することには常にリスクが伴います。例えば、AIで生成した画像を社内のアイコンに使用したところ、後になって誰かの著作物と酷似していると指摘されるケースが考えられます。

このとき「知らなかった」という言い訳は通用しないことがあります。AIは大量のコンテンツを学習しており、その学習データの中に生成結果と同じものがあった場合、たとえAIのユーザーが元コンテンツを知らなくても「依拠性」という著作権侵害の要件が満たされる可能性があります。これが通説的な見解です。
AIを使う際、世界中のどのコンテンツがAIの学習データに含まれているか知る方法はありません。AI開発会社に問い合わせても明確な回答は得られないでしょう。そのため、自分では新しいオリジナルだと思って使用していても、後に訴えられ、もし学習データに同様のコンテンツが含まれていた場合、著作権侵害とみなされる危険性があります。
Q. AIと人間の創作における著作権の扱いの違いは?
人間が作曲する場合、自分が聞いたことのない曲と偶然同じものを作ってしまっても、それは著作権法上問題ありません。しかしAIを使って作品を生み出す場合は状況が異なります。
ユーザー自身は知らなくても、AIが過去に学習したデータに含まれていた可能性があるため、「依拠性」が認められてしまう可能性があります。この「依拠性」の解釈については様々な議論がありますが、通説的にはAIが学習したデータに基づく創作物はたとえユーザーが知らなくても依拠したとみなされ、少なくとも将来的な使用は中止する必要があります。

過去の使用については、本当に知らなかった場合、著作権侵害における「過失」がなかったと評価される場合もありますが、少なくとも今後の使用は中止しなければなりません。これがAI活用時のリスクとして考慮すべき点です。
Q. このリスクに対して、サービス提供側はどのような対応をしているのですか?
最近の生成AI企業の中には、対策として「他人の著作物は学習しない」「ライセンスを受けたコンテンツのみを学習する」というサービスを提供する会社が出てきています。「このAIを使う限り、適法なコンテンツしか生成されない」と保証し、万が一法的責任が発生した場合は賠償金を肩代わりするという企業も登場しています。
このように、サービス提供側が責任を持つ代わりに、大企業と契約を結ぶビジネスモデルも増えてきています。これは新しい技術に対する動揺が徐々に落ち着き、皆が納得できる方向に進んでいる兆候とも言えるでしょう。
Q. 法律だけでなく契約も重要だと言われていますが、どういうことですか?
著作権法上の適法性の議論も重要ですが、それだけでは解決しないケースも多いです。現実的な解決策として、コンテンツを持っている権利者とAI開発会社の間で契約を結ぶという方法が重要になってきています。
実際に、出版社や新聞社がAI企業と契約を結び、データ提供の対価を得るという例が増えています。著作権法上は図書館で本をスキャンするだけでも学習データを集められるかもしれませんが、それでは綺麗なデータが得られなかったり、手間がかかったりします。そこで出版社と契約を結び、良質なデータを提供してもらう代わりに定期的に対価を支払うというビジネスモデルが広がっています。
文化庁の2014年の中間まとめでも「法律・技術・契約」の3点が重要だと指摘されています。法律だけで全てを解決しようとするのではなく、契約という枠組みも活用していくことが求められています。
Q. 2023年に発表された知的財産推進計画2023ではどのような政策が打ち出されましたか?
知的財産推進計画は毎年発表されており、近年はAIについての言及が増えています。最新の計画では、日本でのAI活用が諸外国と比較して進んでいないという問題意識から、AIの積極的活用を推進する方針が示されています。
2023年6月には「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」も制定され、日本が世界でもAIの開発・活用がしやすい国を目指していくという政府の方針が示されています。ただし、この計画はあくまで方針を示すものであり、明確な義務を課すものではありません。今後、関連法の整備やガイドラインの策定などを通じて具体化されていくことになります。
Q. 日本には「フェアユース規定」が導入される可能性はありますか?
フェアユース規定の導入については約10年にわたり議論が続いてきましたが、結局は導入しないという決断がなされました。代わりに著作権法30条の4という「柔軟性の高い権利制限規定」が導入されています。
アメリカのフェアユース規定は世界的に見ても珍しい規定であり、特に大陸法系の国々では判例よりも法律を重視する傾向があるため、フェアユース規定を持つ国は少ないのが現状です。しかし、新しい変化や多様性に対応するためには、より柔軟な規定が必要だという議論は今後も続くでしょう。それがアメリカ流のフェアユース規定なのか、より小規模な一般規定なのかは議論の余地があります。
Q. AIの普及とクリエイター育成のバランスをどう考えるべきですか?
AI開発や活用を促進することは重要ですが、同時に文化的創作という観点からクリエイターの育成も欠かせません。AIの過度な活用によってクリエイターが仕事を失うという懸念があります。
例えば、漫画やアニメの制作では、背景描写などの基礎的な作業を通じてクリエイターが育成されてきた歴史がありますが、それらの仕事がAIに取って代わられると、将来のクリエイター育成が困難になる可能性があります。

AIの活用を進めると同時に、日本で弱いとされる文化育成のための予算充実やクリエイター支援など、文化政策としての取り組みも併せて考えていく必要があります。技術の発展と文化的創造性のバランスを取ることが、今後の大きな課題となるでしょう。
