PIVOT TALK HEALTH
日常の“認知症リスク”
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2025年6月30日

高齢者の6人に1人が発症している認知症。ついに米国で、血液検査によってアルツハイマー病を調べる技術が登場。老年医学や認知症医学は今後どう変わるのか?山田悠史医師に聞いた。
座りっぱなしの生活が脳に与える影響とは?予防医学の専門家が語る認知症リスク低減法
認知症の発症リスクを下げるために今すぐできることがある。米国内科・老年医学専門医の山田悠史氏が語る最新の研究と日常生活での実践方法を紹介する。

Q. 認知症リスクを下げるために今すぐ取り入れられることは?
換気は非常に重要です。特に料理の後に換気扇を回したり窓を開けたりすることが効果的です。これは感染症予防だけでなく、認知症予防としても重要な習慣です。空気の質が脳の健康と密接に関わっていることが最近の研究で明らかになっています。
座りっぱなしの生活も認知症リスクを高めることがわかっています。座る時間が長いほど認知症リスクが上昇するという相関関係があります。これは体を動かさない時間が増えることで、運動による認知症リスク低減効果が失われるためです。また、一人で長時間パソコン作業をするなど、人とのコミュニケーションが減ることも問題です。人と会話することは高度な脳機能を使う行為で、脳の様々な部位を活性化させます。

運動に関しては、できる範囲で取り入れることが大切です。週末に1回だけでも定期的に運動する習慣をつけることが効果的です。プロフェッショナルでなければ、多ければ多いほど良いでしょう。理想的には、歯磨きのように毎日の習慣として30分程度の運動を取り入れることです。
Q. イヤホンの使用は認知症リスクと関係があるのか?
難聴は認知症の最も大きなリスク要因の一つです。耳が悪くなると脳への信号が減少し、脳の活動が低下するため認知リスクが増加します。年齢を重ねてからの難聴の主な原因は、騒音による内耳へのダメージです。

スポーツイベントの大歓声や音楽ライブなどの大音量環境では、わずか数十分の暴露でも内耳にダメージを与えることがあります。このダメージは蓄積性があり、音量が大きいほど、また頻度が多いほど悪影響が大きくなります。
特に注意すべきなのは、地下鉄などの騒がしい環境でイヤホンの音量を上げて聴く習慣です。これは耳の近くで大音量を出し続けることになり、長期的には耳へのダメージを蓄積させます。一度のダメージでは自覚症状がなくても、繰り返すことで徐々に聴力が低下し、50〜60歳頃に耳遠くなる原因となります。
難聴があると人との会話で情報を十分に受け取れなくなり、脳への刺激が減少します。脳は筋肉と同様に、使わないと衰えていくため、難聴による情報入力の減少が認知症リスクを高めることになります。
Q. 認知症と間違われやすい症状には何があるか?
耳垢が詰まって難聴状態になり、認知症と誤診されるケースがあります。ある患者は両耳に耳垢が詰まっていたため、家族とのコミュニケーションがうまく取れず、聞こえを隠すために取り繕っていました。そのため家族は認知症を疑い受診したのですが、耳垢を除去したところ聴力が回復し、認知機能検査では正常という結果になりました。
また、うつ病の患者も認知症と間違われることがあります。うつ病で心が落ち込み、コミュニケーションがうまく取れなくなったり、物忘れが増えたりすることで認知症と思われるケースです。うつ病の適切な治療を行うことで症状が改善するだけでなく、将来の認知症リスクも低減できます。このようにうつ病の治療は現在の症状改善だけでなく、将来の脳の健康を守るためにも重要です。
Q. 健康食品やサプリメントは認知症予防に効果があるのか?
2025年時点では、特定の食品やサプリメントが認知症リスクを減らすという科学的証拠はありません。動物実験レベルでは、例えばトマトの特定成分を大量に摂取したマウスが認知症になりにくかったという研究はありますが、ヒトでの有効性は確認されていません。将来的には有効性が証明される可能性はありますが、現時点では医師として推奨できる健康食品やサプリメントはないのが現状です。
認知症リスクを下げるためには、何かを足す「足し算」よりも、何かをやめる「引き算」の方が効果的です。例えば、タバコをやめる、アルコールを減らすなどの生活習慣の改善が重要です。また、認知症の疑いがある場合は、サプリメントに頼るよりも、まずは医療機関を受診することが推奨されます。
Q. 視力や高コレステロールと認知症の関係性は?
視力検査と目の治療、そして高コレステロール値の管理は、2024年に新たに認知症リスク要因として追加されました。

コレステロール、特に悪玉コレステロール(LDL)が高い状態が続くと、血管内に動脈硬化(錆びのようなもの)が形成されやすくなります。これによって血流が悪くなり、脳への栄養供給が減少すると神経細胞にダメージを与えます。そのため、コレステロール値の適切な管理は心臓だけでなく、認知症リスク低減にも繋がります。
視力については、難聴と同様に情報を取り入れるアンテナの一つとして重要です。白内障などで視界が悪くなると、脳への情報入力が減少します。白内障手術でレンズを交換すると視界が改善するだけでなく、認知症リスクも低下することがわかっています。このような研究結果から、目の健康維持と適切な治療も認知症予防の重要な要素として認識されるようになりました。
Q. 頭への物理的な衝撃は認知症リスクに影響するのか?
頭への物理的衝撃は認知症リスクを高める可能性があります。サッカー選手のポジション別研究では、ヘディングの機会が多いディフェンダーで、特にキャリアが長い選手は他のポジションよりも認知症リスクが高いことがわかっています。
一般に考えられているよりも、ボールとの衝突などの軽い衝撃でも、繰り返されることで脳に微細な傷がつき、それが蓄積することで認知症リスクになる可能性があります。そのため、自転車に乗る際のヘルメット着用や、コンタクトスポーツをする場合の頭部保護など、頭を守る対策が重要です。
ただし、こうしたリスクがあるからといって、趣味や運動を完全に避ける必要はありません。リスクは相対的なもので、例えば20%リスクが増えるとしても、絶対的な確率の増加は小さい場合があります。自分の生きがいや幸福を損なわない範囲で、できる予防策を取り入れることが大切です。
Q. 感染症ワクチンと認知症予防の関係性はあるのか?
最近の研究では、インフルエンザやコロナなどの感染症に対するワクチンが、感染症予防だけでなく認知症予防にも効果がある可能性が示されています。
特に帯状疱疹ワクチン(シングリックス)は、50歳以上の人に有効で、一生に2回接種するだけで帯状疱疹になる確率を90%以上下げることがわかっています。このワクチンを接種した人は、接種していない人と比べて認知症の発症も少ないという大規模研究の結果があります。
また、新型コロナウイルスに感染した人では、感染後にアミロイドβやタウなどの認知症関連物質が急増することも観察されています。これは感染症が脳にも間接的にダメージを与えていることを示唆しており、感染症を予防するワクチンが脳を守ることにもつながる可能性があります。
その他、破傷風・百日咳ワクチンなども認知症予防に関連している可能性があります。これらのワクチンは子供の頃に接種していても時間とともに効果が減少するため、大人になってからの追加接種も将来的には認知症予防の観点から重要になるかもしれません。
Q. 認知症患者の介護者へのサポートはどうあるべきか?
介護者へのサポートは重要な課題です。アメリカでは、家族が仕事を減らして介護に時間を割くと、収入が減少する一方で介護にかかる費用が増加し、経済的困窮に陥るリスクがあります。
ニューヨーク州では、家族が介護した時間に対して給料を支払うCDPAPというプログラムがあります。これにより、仕事を辞めて介護に従事しても経済的な困窮を避けられ、同時に介護スタッフ不足の問題も緩和できる取り組みです。
日本でも介護スタッフ不足は共通の課題です。この問題に対しては、予防医学の啓発によって介護が必要な人を減らす取り組みが重要です。また、AIなどのテクノロジーを介護領域に活用することも今後の可能性として期待されています。