PIVOT TALK BUSINESS
“定員割れ時代”の広報ファースト戦略
(321)
6,834回視聴
2025年6月27日

2024年度の出生数は70万人を割り込み、少子高齢化が止まらない。人口減少の危機に、大学業界はどう立ち向かっているのか?11年連続で志願者数全国1位を誇る近畿大学の世耕石弘氏に、その広報戦略を聞いた。 <ゲスト> 世耕石弘|近畿大学 経営戦略本部長 1992年 近畿日本鉄道株式会社(現・近鉄グルー...
11年連続志願者数日本一!近畿大学の「広報ファースト」戦略とは?
少子化の進行により、日本の大学は生き残りをかけた構造的危機に直面している。そんな中、11年連続で志願者数が全国1位という驚異的な成果を挙げている大学がある。その秘訣は「広報ファースト」という戦略にあるという。近畿大学経営戦略本部長の世耕石弘氏に、大学のブランディングや発信力について話を聞いた。

Q. 日本の大学が直面している最大の課題は何だと思いますか?
国際化の問題や学生の学力の問題など多くの課題がありますが、最大の問題は少子化による経営の危機です。18歳人口は私が18歳だった頃の約200万人から現在は100万人強まで減少しました。2024年度には全国の大学の入学者数が募集定員を1万1735人下回り、私立大学の約6割が定員割れという状況です。

この危機感を持っている大学と持っていない大学の差が出てきています。おそらく定員割れしている大学は、教育内容が悪いというわけではなく、危機感が足りなかったのでしょう。
Q. 近畿大学はどのような広報戦略で志願者数を伸ばしてきたのですか?
広報の基本中の基本であるプレスリリースを年間500本以上出しています。これは私立大学では圧倒的な量です。ニュースになる可能性があるものは全てニュースリリースにして発信しています。
また、SNSも全てのプラットフォームで積極的に活用しています。単に「フォロワーが増えた」と満足するのではなく、他の有名大学のフォロワー数を上回るためにどうすべきかを常に考えています。
広告戦略も重要です。電車内の広告を見ると、多くの大学が「未来に羽ばたく〇〇大学」「確かな教養を身につけるグローバル人材を育成する〇〇大学」といった、大学名を隠せばどこの大学か分からないような「空気コピー」を使っています。私たちは話題になる広告を作り、それをSNSで拡散してもらうことを意識しています。関西でしか出していない広告が、あっという間に全国に広まるのです。
Q. Z世代の若者に響く発信方法として、特に効果的だったものはありますか?
大学生自身が広報の担い手になっています。Z世代向けのマーケティングを行う学生グループが大学内にあり、彼らがTikTokなどのコンテンツを作成しています。私たち職員が考えるよりも遥かに効果的なコンテンツを作り出してくれます。
また、広報に登場する学生を選ぶ際も工夫しています。多くの大学は成績優秀で真面目な学生ばかりを前面に出しますが、実はそういう学生は一般的ではありません。大学以外での活動に熱心で充実した大学生活を送っている学生たちを積極的に起用しています。彼らの方が受験生にとって魅力的に映るからです。
Q. 大学のブランド力と教育内容の関係についてどう考えていますか?
多くの上位大学は「そこを出たらすごい」と言われますが、実際に何をしているかは誰も知らないという不思議なブランドを持っています。「マーチ」や「関関同立」といったグルーピングも、誰かが作った言葉が定着したマーケティングの一種です。
こういったグループに入ると、上がることも下がることもない環境になり、競争がなくなります。これは努力をしなくなる原因になります。

近畿大学は関西圏では京都や神戸という「面倒くさいブランド力」を持つ地域と競合しています。京都は「京都で学ぶ」という歴史文化を、神戸は「海、国際性、おしゃれ」というイメージを押し出してきます。一方、大阪はパッと見せるものがない。そこで私たちは「大阪=お笑い=コミュニケーション能力」という、他のエリアができない路線で攻めていくことにしました。
Q. 既存のブランド大学との差別化をどのように図っていますか?
すでに確立されているブランド力のある大学の真似をするよりも、彼らがやっていないことをやり続けることが重要です。近畿大学には「実学教育」という初代総長が掲げた考え方があります。その一つに「研究で金儲けして、それを次の研究に投資する」という言葉も残っています。これは大学設立当初では異質な考え方でしたが、私たちはそれを突き通してきました。
例えば、マグロの完全養殖で有名になりましたが、それは突然始めたわけではありません。真鯛やシマアジなど様々な魚の養殖を行い、それを販売して得た利益でマグロの研究に投資してきました。このような独特のモデルは他の大学、特に国立大学では絶対にできません。
Q. 高校生の大学選びの基準は変わってきていると思いますか?
昔は学校の進路指導の先生や塾の先生からしか情報が得られませんでした。しかし今はスマートフォンで自分のやりたいことを検索できる時代です。ブランド志向は薄まっていくでしょう。
本来あるべき姿は、「どこの大学を出たか」ではなく「大学で何を学んだか」が重視される社会です。大学のブランドではなく、自分のやりたいことができる教員がいるところを選ぶようになるはずです。今はインターネットで大学の先生が書いている論文も手元で見ることができますから、本気で調べようと思えばできます。
Q. 留学生の受け入れについてはどうお考えですか?
留学生を単に「日本人学生が足りないから外国人で埋める」という発想は適切ではありません。日本人学生が国内にいながらにして多様な文化背景を持つクラスメイトと学べる環境を作るために留学生を受け入れるべきです。
ただし、日本語の問題があるため、どうしても漢字を理解できる中国や台湾などアジア圏からの留学生が多くなります。まずは日本人学生の獲得に全力を尽くし、その上で留学生受け入れを考えるべきでしょう。

最終的な目標は関西トップの私立大学になることです。近畿大学は関西で医学部を有する唯一の私立総合大学です。いずれは関関同立と互角に戦える大学になりたいと考えています。
日本では国立至上主義のような考え方がありますが、アメリカではハーバードやスタンフォードなど一流大学のほとんどが私立です。国立大学は学費が安いから行くという選択肢があるべきですが、私立大学は学費が高くても「そこで学びたい」と思われる存在になるべきです。
私たちは「選んでもらえる大学になる」というビジョンを掲げています。そのために発信力を今まで以上に高めていきたいと思います。