
年金制度改革:何がどう変わる?
「年金制度崩壊」は40年前から言われているのに、なぜ今も続いているのか
日本の年金制度について、「破綻する」「もらえなくなる」といった話を耳にしたことがある人も多いだろう。実際に制度はどうなっているのか、ファイナンシャルプランナーで年金教育家の山崎俊輔氏に詳しく聞いた。

Q. 日本の年金制度は本当に大丈夫なのですか?破綻しないのですか?
破綻の定義にもよりますが、例えば年金の振込が滞ったことは過去一度もありません。財政検証という100年分ほどのシミュレーションでも、制度は破綻しないという結論になっています。
「年金制度は破綻する」という話は実は約40年前から言われてきました。少子高齢化によって日本の年金制度は持たないという予測は、20年前にも10年前にも言われていましたが、結局破綻していません。
現在の制度は第二次世界大戦後から続いていて、近代の社会保障制度としては歴史上最も長く続いている例です。みんな不満があるかもしれませんが、破綻しないように年金改正を少しずつ繰り返しているのです。
40年前に「年金は破綻する」と言っていた金融機関の人たちも、現在は自分が年金で暮らしています。制度は私たちを支え続けてくれるでしょう。

Q. 「老後2000万円問題」について、実態はどうなのでしょうか?
これは政治的なキャッチフレーズや金融機関のセールストークとして、実態から少し歪められて使われてしまったキーワードです。
正確に言うと、公的年金だけでほとんどの家庭は日常生活のやりくりはできています。何が足りないかというと「教養娯楽費」と「交際費」です。
例えば、年に1回旅行に行きたい、孫が遊びに来たらディズニーランドに連れて行きたい、お小遣いをあげたい、映画館や美術館に行きたい、などの費用です。こうした日常生活費以外の部分で年間約45万円ほど必要で、それを人生100年時代で積算すると、約2000万円必要というのがレポートの指摘でした。
面白いことに、実際の高齢者は平均的に2000万円以上持っています。2000万円実際に持っている高齢者に「ゆとりのために2000万円かかります」というレポートなので、本来はおかしなことを言っているわけではありません。
しかし、「2000万円なんて貯められない」「国の責任はどこにあるのか」という話や、「2000万円が不安だから金融商品で資産形成を」という形に使われてしまいました。
例えば、夫婦ともに正社員で退職金をもらう場合、その退職金だけで2000万円になる可能性もあります。また、毎月5万円も必要ないという人もいるでしょう。毎月1万円あれば月に1回映画を見に行く程度で十分という人なら、必要額は400万円程度かもしれません。
要するに2000万円は目安であって、「2000万円ないと老後が危ない」というイメージに染まりすぎた感があります。
Q. 最近成立した年金制度改革の関連法案で何が変わるのですか?
大きく5つの項目と、私的年金の改革があります。
1. 基礎年金水準の底上げ
2. パート労働者への厚生年金適用拡大(年収106万円の壁撤廃)
3. 遺族年金の改正
4. 厚生年金の標準報酬額上限引き上げ
5. 在職老齢年金の見直し

Q. よく「会社員のお金で自営業者を助ける」と言われる基礎年金の底上げとは何ですか?
インターネット上では「会社員のお金で自営業者を助ける」と書かれることがありますが、正確には基礎年金を支えるための改正です。
基礎年金は会社員も公務員も専業主婦も自営業者も受け取る制度です。現役時代、自営業者は国民年金に定額の保険料を払い、会社員や公務員は給料の18.3%(本人と会社で折半)を払います。
現在、厚生年金から約20兆円が基礎年金のために使われていますが、そのうち自営業者のための基礎年金分は1割程度と小さな割合です。制度全体では、厚生年金が減っても基礎年金が増えるため、シミュレーション上は99.9%の会社員に不利益はないと言われています。
基礎年金を充実させるのは、年収が高くない会社員のためでもあります。厚生年金はたくさん払った人がたくさん年金をもらえる比例関係がありますが、中程度の年収で働いていた人のための基礎年金が薄いと格差社会的な年金になりかねません。
現状では厚生年金は財政的に安定していますが、基礎年金だけを見ると給付と収入のバランスを取るために減額が必要な状況です。国会答弁では現状のままだと基礎年金を3割下げなければならないという指摘もありました。
なお、今回の法案では、この基礎年金底上げの部分は一度削除され、その後復活したものの、実際には4年後の次の年金改正で再議論することになっています。すでに成立したという誤解がありますが、実際はまだ実現していません。

Q. 年収106万円の壁撤廃とは何ですか?
これまで、パート労働者が厚生年金に入る条件は「月8.8万円以上稼ぐこと」と「週20時間以上働くこと」でした。これが「年収106万円の壁」と呼ばれています。
昨年、全国の最低賃金が平均1054円まで上がり、週20時間働くと年間で109.6万円になります。つまり、20時間働けば自動的に106万円を超えるようになったのです。
企業、特に中小企業の現場では、労働時間と収入の両方をチェックするのが負担になります。そこで、単純に「20時間働いた人は厚生年金に入れる」というルールに変更します。
実は、本来は働いた人には会社が厚生年金保険料や健康保険料を払うべきなのに、パート労働者は「一時的に働く人」「大体は夫が正社員の妻だろう」という理由で逃げ道が作られてきた歴史があります。
よく「負担増」と言われますが、それは専業主婦で夫が会社員だから負担がゼロだった人の話です。パートで働く独身者は、自分で国民年金保険料や健康保険料を払っており、厚生年金に入ることで負担が軽くなる場合もあります。さらに将来もらえる年金額も増えるメリットがあります。
Q. 遺族年金の改正はどのような内容ですか?
「遺族年金が5年でストップ」というインターネット上の批判がありますが、誤解が多いです。
例えば、高齢者の遺族年金(老齢年金を受給している人が亡くなり、配偶者が受け取る年金)には影響ありません。また、子どもが小さいうちに親が亡くなった場合、子どもが18歳になる年度末(高校卒業時)まで遺族年金がもらえる仕組みも変わりません。
変わるのは、30歳以上で配偶者を亡くした場合の遺族年金です。これまでは65歳までずっと遺族年金がもらえましたが、今後は5年間に限定されます。ただし、5年経っても就職できないなどの状況では、給付継続の配慮もあります。
また、この改正には男女差別の解消という側面もあります。これまで遺族年金は「女性がもらえるもの」と法律で定められていましたが、今後は男性も受け取れるようになります。共働きの家庭で妻の収入が大きい場合、夫が子育てをしながら遺族年金を受け取れることは大きなメリットです。
さらに、結婚期間中の厚生年金権利の分割も含まれており、総合的にはメリットの大きい改正と言えます。
Q. 標準報酬額の上限引き上げとはどういう内容ですか?
これもインターネット上では「年金負担増」と言われていますが、実態は異なります。
厚生年金保険料は給料の9.15%(本人負担分)ですが、月収65万円で上限があります。つまり、それ以上稼いでも厚生年金保険料は増えません。これは月収200万円、300万円の人がとんでもない保険料を払い、将来もとんでもなく高額の年金をもらうことを防ぐ仕組みです。
しかし、物価上昇や賃金上昇に伴い、この上限に達する人が増え、現在は約6.5%の人が上限に達しています。そこで上限を75万円に引き上げることになりました。
この変更によって影響を受けるのは6.5%の高所得者だけで、93.5%の会社員には影響がありません。また上限に達していた人も負担が増える分、将来の年金も増えるので、単なる負担増ではありません。
ちなみに健康保険料は月収139万円まで課されるので、年金よりも上限が高い状態です。
Q. 在職老齢年金の見直しとは何ですか?
在職老齢年金とは、年金受給年齢に達していても働いている人に関するルールです。現在、60代後半の男性の約半数が働いていると言われています。
現状では年金と給料の合計が月50万円を超えると、超えた分の年金が少しずつ減額されます。モデルケースで年金が月14万円程度だとすると、月36万円以上稼ぐと減額対象になる可能性があります。
こうした仕組みは「年金だけで十分な高所得者には年金を減らしても良い」という考えに基づいていますが、「減らされるなら働くのをやめる」という人も出てきます。
今回の改正では、年金と給料の合計額の上限を62万円に引き上げ、より多くの高齢者が働きやすくなるよう改善します。これは社会に貢献できる高齢者がより活躍できる仕組みへの変更です。
