
東大生vs永濱
「東大生VS永濱エコノミスト」対談Q&A:デフレマインド脱却から財政政策まで
東大生と第一生命経済研究所首席エコノミスト・永濱利廣氏による対談が実現。経済学部の学生たちが日本経済の課題について鋭い質問を投げかけ、永濱氏が率直に回答した。デフレ脱却、国の財政政策、投資すべき産業、医学部偏重問題など幅広いテーマで議論が交わされた。

Q. 財政政策を行う際、国民感情にどう向き合うべきか
財政政策、特に増税のような国民に負担を求める政策を実施する際に最も重要なのは、バイアスのかからない事実に基づいた情報提供だ。例えば、基礎年金の底上げ問題では、厚生年金から基礎年金への資金移動について誤解が生じている。厚生年金を受け取る人も基礎年金を受け取るため、必ずしも負担が増えるとは限らない。
こういった政策を国民に説明する際には、データに基づいた納得できる説明が不可欠だ。一方、「政府債務が国民1人当たり1000万円」といった単純化された情報は、国民感情に悪影響を与える。政府側からの情報発信は、ごまかしのない事実に基づくものであるべきだ。

国民のリテラシー向上も重要な課題だ。最近ではPivotのような新しいメディアが登場し、より正確で深い情報を提供している。こうした流れが広がり、国民の経済リテラシーが向上すれば、安易な報道に惑わされない環境が整う。
Q. 石破首相の「日本の財政はギリシャより悪い」発言をどう思うか
石破首相の発言は正確とは言えない。ギリシャと日本では財政の性質が根本的に異なる。ギリシャの問題は外国から借りた国債を返済できずデフォルトに陥ったことだが、日本の国債は主に国内の家計と企業から調達している。このような違いを無視して単純比較するのは適切ではない。
実際、この発言は海外メディアからも批判を受けている。政治家には正確な情報に基づいた発言が求められる。このような不正確な発言が繰り返されると、国民に納得感のある政策を受け入れてもらうことが難しくなる。
Q. 日本の経済停滞を脱却するために投資すべき産業や政策は
日本経済が停滞している根本原因は国内の供給力が毀損されていることだ。かつての円高時代に生産拠点が海外に移転し、国内産業の空洞化が進んだ。現在はコロナ禍やロシアのウクライナ侵攻を経て、経済安全保障の重要性が高まっている。
この状況下で重要なのは、他国では供給できない製品やサービスを日本国内で生産する体制を構築することだ。特に半導体などのデジタル技術の基盤となる産業への投資が重要となる。TSMCの熊本工場設立やラピダスの半導体開発など、日本国内での半導体生産・研究の動きが出てきているのは良い傾向だ。
また環境分野への投資も世界的な需要が高まっており、国も積極的に資金を投入している。これらの分野は今後の日本経済の成長の柱となる可能性がある。
Q. 医学部偏重主義が日本経済の足を引っ張っているという見方について
日本の受験における医学部偏重主義は、経済の観点から見ると問題がある。優秀な人材の多くが医学部に進学する傾向があるが、医学は公的負担によって成立している産業であり、そこに優秀な人材が集中することは経済全体としては最適ではない。

例えば台湾では、優秀な理系人材の多くが半導体産業を志望する。これにより産業の競争力が高まる好循環が生まれている。日本でもこのような知的資源の最適配分が必要だ。
医学部人気の理由としては、安定した高収入が保証されることや、特に地方では女性が地元の国公立医学部に進学するケースが多いことなどがある。診療報酬の高さにより最低限の収入が保証されるのも大きな要因だ。
半導体技術者などの産業人材の給与を上げるべきだが、国の介入よりも産業界自体が努力する方が望ましい。最近では一括採用を見直す動きや、スタートアップ企業の成功事例が増えてきているのは良い兆候だ。
Q. 日本が外部要因でデフレを脱却したことをプラスと見るべきかマイナスと見るべきか
日本が外部要因でデフレを脱却したことはポジティブに捉えるべきだ。自力では脱却できなかったと思われる。日本は外圧がないと変化しにくい側面がある。
日本がデフレに陥った原因はバブル崩壊後の経済政策の誤りにある。同様の事態が2008年に欧米で起きたリーマンショックだが、欧米はデフレに陥らなかった。彼らは日本の失敗を反面教師にして対策を取った。
バブル崩壊後、資産価格が下がると企業や個人は債務超過に陥りやすくなる。借金返済に追われて投資や賃上げができなくなるため、経済は停滞する。欧米は積極的に資産価格を下支えする政策を取ったが、日本はそれが不十分だった。
現在、ロシアのウクライナ侵攻による価格上昇や少子化による人手不足などの外部要因でデフレは脱却できたが、国民のデフレマインドはまだ残っている。これが日本経済の最大の問題だ。
Q. 企業のデフレマインドはどう影響しているか
企業のデフレマインドは家計以上に深刻な問題だ。本来、企業は投資超過になるべき存在だが、日本企業は1990年代後半から貯蓄超過になっている。これが日本経済停滞の根源だ。

法人税率引き下げよりも、投資減税のように投資した企業に恩恵が与えられる政策が効果的だった可能性がある。企業の投資を促すためには、アクティビストの存在も一定の役割を果たしている。短期的視点に偏りすぎるリスクはあるが、企業の投資を促す圧力として機能している。
「東大VS永濱」の対談では、東大生たちの鋭い質問に永濱氏が経済の現状と課題を丁寧に解説。日本経済の課題は多いが、近年の株価上昇など明るい兆しも見えている。
