
日本人選手のリアル評価。最前線で見る欧州サッカー(後編)
6,652回視聴
2025年6月8日
イングランド2部でコーチを務める日本人、白石尚久氏。これまで、欧州で監督やコーチとして活躍、本田圭佑選手の個人分析官も務めてきた。最前線で見る欧州サッカーについて、話を聞いた。 <ゲスト> 白石尚久 1975年、香川県出身。選手としてアルゼンチン、フランスなどでプレー 【主な指導歴】 2008:F...
欧州屈指のビエルサ流を導入したコルベラン監督の独自トレーニング理論とは?

Q. チャンピオンシップで活躍する田中碧選手のプレースタイルについてどう評価していますか?
時計のようなサッカーをしている。明確にリズムよくボールを捌いていく。ミスが少なく、どんどんスペースに顔を出して嫌なところにパスを出してくる。チャンピオンシップで対戦した選手の中でも、田中選手と坂本選手はトップクラスの選手だと思う。
Q. イングランドのサッカー環境はどのような特徴がありますか?
イギリスのストラクチャーはスタッフの数が多い。仕事が細分化されている。フィジカルコーチはスポーツサイエンスのデパートメントがあって、コーチはトレーニング内容を作るだけ。それに対してフィジカルの専門家が適切な強度やリカバリー時間を設定する。
例えば、「ポゼッションなら90秒×6本で45秒のリカバリーでインテンシティを高くしてやるけど、これで大丈夫か」といったことをスポーツサイエンス側に聞く。コーチはコンテンツを作るだけで、細かい設定は専門家に任せる仕組みになっている。
Q. トレーニング中の怪我やコンディション管理はどうしていますか?
トレーニング中にGPSでコントロールしている。フィジカルコーチらが4〜5人ほどピッチにいて、選手の動きを監視している。また、インジュリーリスクも綿密にデータを取っており、「この選手は今週このトレーニングをするなら半分までにして、それ以降はジムに入れてほしい」といった具体的な指示がある。
GPSのデータと怪我の過去の履歴、年齢などから選手を3つのグループに分け、全選手のデータから今週の負荷を決定する。試合のタイミングに合わせて、リカバリーが必要な選手を適切に休ませる仕組みがある。
Q. 急な怪我や欠場が出た場合の対応は?
アンダー21の選手が同じ時間に隣のグラウンドで練習しているので、すぐに呼んで対応できる。セカンドチームは必ず同じ時間に練習しているため、選手交代が容易にできる環境がある。
Q. ビエルサ流のトレーニング方法について教えてください
カルロス・コルベラン監督はビエルサの第3コーチだった経歴があり、その影響を強く受けている。トレーニングのコンセプトは、一般的なバルセロナ式とは全く異なる。

ビエルサのコンセプトは、テクニックの回数を多くこなすこと。特別なタレントがなくても、誰でもできるようなトレーニングを何度もリピートする方式だ。サッカーに必要な動きを細かく分け、それぞれのメニューを延々と繰り返す。自然に体に染み込むまで継続する。
典型的なトレーニング構成は:
1. 個人のテクニックトレーニング
2. グループのトレーニング
3. コレクティブなゲームトレーニング
さらに、選手の特徴や左ウィングといったポジション別に必要なスキルを分析し、個別のトレーニングを組み立てる。それをチーム練習に組み込んでいく。
Q. バルセロナ式との違いは何ですか?
バルセロナのトレーニングは、テクニックを練習する際も判断の要素を入れる。目の前にディフェンスがいる状況でテクニックをどう使うかという判断力も同時に養う。例えばポゼッションや対人状況の中でテクニックを練習する。
対してビエルサ流は3段階に分ける:
1. テクニックのみの練習
2. パッシブなディフェンスを付けた状態での練習
3. ディフェンスがどこからプレッシャーをかけるかを決めた状況での練習
このように分析的にトレーニングを構築していく点が特徴だ。
Q. コルベラン監督の守備のアプローチについて教えてください
コルベランは守備ブロックを場面ごとに細かく分けている。相手のビルドアップの時、ペナルティエリア前のブロックの時、ペナルティエリア内のブロックの時など、状況によってストラクチャーが全て変わる。11対11、11対10、10対10と変化する中で、それぞれの状況に応じた守備形態を徹底的に練習する。
特徴的なのは「ナッシングスルー」というコンセプトで、中にボールを一切通さない守備をする。ボールは全て外に追い出し、サイドでボールを戻した時に一気にプレッシングをかける。選手が守備の時に何をすべきかが明確になっているため、自信を持ってプレーできる。
ボールを奪い返せる方法が明確だから、ボールを失うことに恐怖がない。これが守備面での大きな特徴だ。
Q. 攻撃面ではどのような特徴がありますか?
攻撃はブロックで区切って考えるのではなく、ゴールキックからフィニッシュまでを一貫した流れで捉える。ポジショナルアタッキング(ポジションを活かした攻撃)よりも、相手の弱点を狙った攻撃が特徴的だ。
例えば、相手がマンマークでハイプレスをしてくる場合、中央に選手を寄せておいて開くことでスペースを作り、そこにボールを入れてディフェンスラインの裏を一気に狙う。ゴールキックから約8秒で得点を狙うような速攻も多用する。
また、選手が対峙するマークマンの癖、ポジション、利き足などを徹底的に分析し、相手の苦手なところを攻める戦術を練習する。例えば、センターバックが後ろを向いて走るのが苦手なら、そこを狙って攻めるといった具合だ。
Q. 坂本選手のプレーについてはどう評価していますか?
坂本選手は自信を持ってプレーし、パスも出せるし、ドリブルも出せるし、得点も取れる。非常に怖い選手だ。試合後に話した時、彼らはディフェンスのトリガーとして坂本選手を狙っていたと聞いた。彼がボールを持った時に行くという指示がランパード監督からあったそうだ。

坂本選手はベルギーでプレーした経験があり、田中選手もドイツでプレーしていたので、外国でのサッカーの強度というものを理解している。そのため違和感なく適応できているのではないか。
Q. 日本人選手がチャンピオンシップで評価されている理由は何ですか?
坂本選手と三好選手がトレンドを作った。彼らがブレイクした時に「日本人選手はやばい」という評価が広まった。チャンピオンシップはフィジカル面でもタフなリーグだが、日本人選手は「時間差でプレーしている」ように見え、異なる時間帯でボールをコントロールしている印象があった。
これをきっかけに日本人選手や韓国人選手のスカウトが活発になった。チャンピオンシップのトップ8クラブはブンデスリーガの中位クラブくらいのレベルであり、Jリーグから直接移籍する選手はアダプト(適応)する時間が必要だ。
大橋選手との会話では、彼はJリーグ時代とプレースタイルを変えたと話していた。サンフレッチェ時代は前を向いてターンするプレーが多かったが、チャンピオンシップではそれが難しく、スタイルを適応させている。
Q. 三笘薫選手のプレミアリーグでの活躍をどう見ていますか?
三笘選手はずば抜けている。彼がボールを持った時のプレースタイルは一対一でディフェンスするのが非常に難しい。彼は自分の得意とするものをどんどん伸ばし、それをチームの中で活かせている印象だ。
日本代表クラスの選手は様々な経験があるため、プレミアリーグでもプレーできる日本人選手はこれからどんどん増えていくだろう。非常にレベルの高いリーグでも普通にプレーできる実力がある。
Q. 日本代表チームの指導について何か提案はありますか?
現在の日本人指導者は日本で指導されている方が多く、日本人の文化を理解した上でマネジメントしている。それはそれで結果が出ていて良いと思う。

ただ、今はこれだけ多くの日本人選手が海外の一流の監督の下でトレーニングをしている中で、選手のサッカーの知識も増えている。この共通理解を日本人指導者も持っていけるようになると、組織のストラクチャーも変わってくるのではないか。どのように融合させるのが良いかは一概には言えないが、それは時間をかけて考えていくべき課題だろう。
