
円高はどこまで進むのか?130円割れの可能性
「ドル円はどう動く?政治的為替調整、過去と今の違いとトランプ政権の影響を徹底分析」
歴史的な円安から一転、トランプ政権の誕生で急速に円高が進む為替市場。この変化はなぜ起きたのか、そして今後ドル円はどのように動くのか。マネックス証券の吉田恒チーフ・FXコンサルタントが解説する。


「円は不当に安い」—歴史から見る為替調整と現在の位置づけ
Q: 円に関わる代表的な為替調整にはどのようなものがありましたか?
円が関わった代表的な為替調整には大きく2つある。1つ目は1985年のプラザ合意。これは実質的なドルの切り下げにより大幅な円高を引き起こした。2つ目は1990年代のクリントン政権時代に行われた円高誘導政策だ。プラザ合意は多国間でドルの切り下げを行った為替調整である一方、クリントン政権時代の円高誘導は日米間だけでの通貨調整だった。
両者の共通点は「輸出物価の購買力平価」まで円高が進んだことだ。購買力平価とは物価を基準にした為替の適正水準を示す指標で、どの物価(輸出物価、生産者物価、消費者物価)を使うかで値が異なる。プラザ合意とクリントン政権時の円高誘導では、いずれも日本で最も競争力の強い「輸出物価の購買力平価」まで円高にすることで、日米間の貿易不均衡を是正する狙いがあった。
為替と購買力平価の歴史的関係
輸出物価の購買力平価は現在約75円、生産者物価では95円、消費者物価では110円程度だ。過去の政治的為替調整に倣えば、輸出物価の購買力平価である80円を割るようなレベルまで円高に誘導する必要があるが、今回はそうはならないだろう。
「構造的円安論は嘘?」—歴史的円安の真実とバブル崩壊
Q: 昨年の歴史的な円安(161円)はなぜ起きたのですか?
2022年から2023年にかけての150円を超える円安は、初期においては完全に日米金利差の拡大によるものだ。グラフを見ると、2022年と2023年に150円を超える円安が進んだ局面では、金利差の拡大とほぼ連動している。2022年から2023年までの円安は金利差だけが理由だった。
しかし、2024年に入ると状況が変わった。金利差のピークは2023年よりも低いにもかかわらず、ドル円は161円まで上昇。これは当期筋(ヘッジファンドなど短期売買を行う投資家)のドル買い円売りポジションが過去最大規模まで拡大したためだ。2022年には11万枚、2023年には13万枚だったドル買い円売りポジションが、2024年には18万枚(過去最高水準)まで拡大した。

拡大する円売りポジション
この急増の背景には、アメリカ財務長官イエレンの「介入はsparsely(たまに)しかやるべきでない」という発言がある。市場はこれを「アメリカは日本の為替介入に反対している」と解釈し、日本が介入できなくなったと考えた。介入の脅威がなくなれば、日米金利差が依然として大きい中で円売りは安全だと判断され、円売りが暴走的に拡大したのだ。
しかし、7月に日本が為替介入を実施すると、それまで膨らんでいた当期筋の円売りポジションはわずか1か月で消滅。その結果、ドル円は161円から141円まで20円もの大暴落を起こした。これが昨年の歴史的円安とその後の急落の真実である。
「トランプショックで円高はどこまで進む?」—円高はどこまで行くのか
Q: 今後のドル円相場はどうなると予想されますか?
現在、日本経済は1980〜90年代と比べて相対的に衰退している。そのため購買力平価とドル円の関係も変化している。1990年代までのドル円は輸出物価と生産者物価の購買力平価の間で推移していたが、2000年代以降は生産者物価の購買力平価を超え、消費者物価の購買力平価までドル高円安になるように変化した。
今回のトランプ政権による為替調整の目標としては、消費者物価の購買力平価(約110円)付近が現実的だ。輸出物価の購買力平価である75円付近への円高は、もはや日本経済に実力がない。そのため、100円を割り込むような円高になることは非現実的だろう。
現在の状況に影響を与えているのはヘッジファンドのポジションの変化だ。トランプ政権誕生後、ヘッジファンドは円売りポジションを大幅に減らし、逆に円買いポジションを急速に積み上げている。去年までのドル売り円買いポジションの最高は2016年の7万枚だったが、今年は14万枚以上まで拡大している。

トランプ政権後の円買いポジション急増
去年の円売りポジションが急速に巻き戻されたのは、為替介入によってポジションが損失に転じたためだった。しかし今回の円買いポジションは損益分岐点(おそらく150円程度)から大きく離れており、含み益が出ている状態だ。そのため、急速に巻き戻されて円安に戻るという可能性は低い。
「海外投資はどうすべきか?」—長期的視点での通貨戦略
Q: 海外投資をしている人はどのように対応すべきですか?
長期投資家の観点からは、円高が進めばより良い価格で海外資産を買える機会になる。時間分散して買っていくことが賢明だ。既に150〜160円で買った人も、長期保有なら損失を恐れず持ち続けることを検討すべきだ。
円高方向と円安方向では状況が異なる。円高は昔ほど極端にはならず、75〜80円のような超円高には二度と戻らないだろう。一方、円安は時間がかかるかもしれないが、将来的に161円を超える可能性がある。5〜10年の時間軸で考えれば、円安トレンドは継続すると予想される。
個人投資家は頭の切り替えが必要だ。金利差だけで円を売るという戦略から転換する必要がある。海外の機関投資家はすでにその転換を行っており、トランプ政権の通貨政策に便乗する形で円買いポジションを構築している。
適切なタイミングとしては、ドル円が130円を割れるような水準になれば、そこからの円高余地は限られるため、海外投資の好機となるだろう。
結論として、現在のドル円相場は140円から100〜110円程度の範囲で推移する可能性が高い。しかし、長期的には再び円安に向かい、5〜10年後には161円を超える水準に達する可能性もある。
