
NIVIDIA経営の「3つの秘密」
「イーロンより人間を信頼」NVIDIA CEOのリーダーシップの秘密
NVIDIA創業者兼CEOのジェンセン・フアンは社員から98%の信頼を得ているという。これはIT業界では異例の高さだ。彼のリーダーシップとNVIDIAの成功の背後にある秘密とは?勃興期から取材し続けている日経BPシリコンバレー支局の島津翔記者に聞いた。

Q. なぜNVIDIAは半導体業界で圧倒的な存在になれたのか?
NVIDIAの強みは、半導体の開発と設計のみを担当し、製造は台湾のTSMCに任せるファブレス(工場を持たない経営)モデルを採用していることです。また、ハードウェアとソフトウェアの両方で影響力を持っている点も大きな強みです。WindowsとIntelが密接な関係を築いたように、NVIDIAは1社でそれを実現しています。
創業当初はグラフィック用の半導体メーカーとしてスタートしましたが、2000年代前半に画像処理用の半導体を他の用途にも使えるという気づきがありました。2006年にCUDAというプログラミング言語を開発し、GPUをグラフィック以外の複雑な計算にも活用できるようにしました。

Q. NVIDIAはどのようにしてデファクトスタンダードの地位を確立したのか?
NVIDIAはCUDAとGPUをまず一流大学に売り込みました。米国であればスタンフォード、ハーバード、MITなど、日本では東大や東工大といった先端研究をしている大学にアプローチしたのです。学生時代にCUDAに慣れ親しんだ人材が、卒業後にGoogleやMicrosoftなどの企業に入社しても、引き続きCUDAを使いたいと考えるようになります。
これがビジネス上のデファクトスタンダードになり、スーパーコンピュータやAIにも取り入れられていきました。2000年代後半には大学内である程度の知名度と標準化が進んでいました。彼らは「灯台型の顧客」、つまりある分野で先端を走り、市場を照らしてくれる存在を重視しています。既存市場に参入するのではなく、市場を自ら作り出すことがNVIDIAの強みです。

Q. ジェンセン・フアンのマネジメントスタイルの特徴は?
NVIDIAは非常にフラットな組織構造を持っています。CEO直属の幹部が60名もおり、通常の組織より3〜4階層が削減されています。一般的にCEOの直属の部下は多くても10人程度と言われていますが、ジェンセン・フアンは「1対1で伝えなければならない情報はない」という考えのもと、1対1のミーティングを行わない方針を貫いています。
すべての情報はオープンな場で共有され、従来の組織でよくある「根回し」のようなプロセスは全くのNGです。これは効率性を重視したアプローチであり、シリコンバレーの文化の中でも特異なスタイルです。
Q.「関心ごとトップ5」とは何か?
NVIDIAではすべての社員が「関心ごとトップ5」というメールを幹部に送っています。このメールには特別なルールはなく、インシデント対応など緊急性の高いものを一番上に書く以外は、基本的に何を書いてもいいのです。ただし、簡潔に書くことが求められます。ジェンセン・フアンはメールを見る際にスクロールしないので、最初の画面に収まるようにする必要があります。
興味深いのは、このトップ5の使い方です。幹部の中には特定のキーワードで検索ツールとして活用している人もいます。例えば「自動運転」というキーワードで検索すると、3万人の社員による多面的な自動運転に関する見方が得られます。これにより、同じ問題について多くの社員が言及している場合は、それが個人の意見ではなく会社全体の課題である可能性が高いと判断できるのです。
Q. NVIDIAはどのような指標で成功を測っているのか?
一般的な企業はKPI(重要業績評価指標)を設定していますが、NVIDIAはEIOFS(Early Indicator of Future Success:将来の成功のための早期指標)を重視しています。ジェンセン・フアンはKPIは過去のものだと考え、将来何が起こるかを予測する指標を重視しています。
例えば、スタートアップとの提携部署では、提携企業数ではなく、GPUによって効率化・高速化されたアプリケーションの種類を指標としています。種類が増えることで、将来的にキラーアプリが生まれる可能性が高まり、それがGPUの売上増加につながると考えているのです。各事業領域によってEIOFSは異なり、それぞれの分野で最適な先行指標を定義しています。
Q. NVIDIAの組織文化はどのような特徴があるのか?
NVIDIAの組織はアメーバのように柔軟で、固定されたリポートラインがあるわけではありません。あるプロジェクトが立ち上がると、様々な部署から人材が集まってバーチャルなチームが形成されます。これはコンサルティングファームに似た組織体験だと言われています。
社員から見ると、直属の上司が固定されているわけではなく、プロジェクトごとに評価者が変わることもあります。このような柔軟な組織構造により、経営資源を迅速に配分できる体制が整っています。また、中期経営計画は作らず、事業領域ごとに明確なミッションを設定し、それに向かって仕事をするスタイルを取っています。

Q. イーロン・マスクとジェンセン・フアンのリーダーシップの違いは?
ジェンセン・フアンはイーロン・マスクと比較して人間をより信頼していると言えます。マスクがリモートワークに否定的であるのに対し、フアンはフルリモートワークを許可しています。また、マスクがTwitter買収時に多くの従業員を解雇したのに対し、NVIDIAはほとんどレイオフを行わない会社として知られています。
フアンは「社員には可能性があり、チャンスを与ればより良い仕事をするはず」という信念を持っています。コロナ禍でオフィスに誰も来なくなった時も、ケータリング会社との契約を解除せず継続したという逸話もあります。こうした姿勢がグラスドアの調査で98%という異例の高い信頼率につながっているのでしょう。
Q. NVIDIAの今後の課題と可能性は?
AIの分野では、学習中心だった用途が推論中心に移行していく傾向があります。学習フェーズではNVIDIAのGPUが圧倒的なシェアを持っていますが、推論フェーズでは異なる種類の半導体が使われることもあり、GPUのシェアは下がる可能性があります。しかし、推論においても4〜5割程度のシェアは維持できるという見方もあります。
また、AIの次のビジネスとして、ロボットや自動運転など、物理的な世界とAIを組み合わせた「物理AI」の分野が注目されています。ジェンセン・フアンは、日本企業がロボティクスやメカの重要な技術の半分を保有していると言及しており、日本企業との連携にも大きなポテンシャルがあると考えられています。
