
富士山の噴火と被害 南海トラフが噴火を誘発する可能性が高い
富士山噴火は南海トラフ地震の余波?地球科学者が語る「もう準備すべき時」
地球の複雑な活動は、人間の想像をはるかに超える力と規模で私たちの生活に影響を与えることがある。南海トラフ地震、首都直下地震、そして富士山の噴火——日本が直面する3大災害リスクについて、地球科学者で京都大学名誉教授の鎌田浩毅氏に詳しく聞いた。特に富士山の噴火リスクについて、科学的見地から語られた内容は、私たちが考えるよりもはるかに現実的な脅威であることを示している。

「富士山はいつ噴火してもおかしくない」のは本当?
Q: 富士山の噴火はいつ起きてもおかしくないと聞きますが、今日行って噴火してしまったということもありえるのでしょうか?前兆として捉えることは何かできるのでしょうか?
富士山は単なる美しい山ではなく、活火山です。それどころか「噴火スタンバイ状態」にあります。しかし、実際に「今日行ったら噴火する」ということはありません。通常、噴火の約1ヶ月前から様々な現象が起き始め、その後に本格的な噴火に至ります。
火山の仕組みを理解するために基本的な説明をすると、富士山の地下約20kmにはマグマが存在します。マグマとは岩石が約1000度の高温で溶けた状態のもので、これが地上に流れ出ると「溶岩」になります。また上空に噴き上げられて粉々になって降ってくるのが「火山灰」です。富士山は溶岩と火山灰の両方を噴出する火山なのです。
マグマが地下20kmから上昇してくるには時間がかかります。その過程で地震が発生したり、山が膨らんだりといった前兆現象が現れます。こうした変化が約1ヶ月続いた後に噴火に至るため、突然の噴火はないと考えて良いでしょう。
南海トラフ地震と富士山噴火の関係性
Q: 南海トラフ地震や首都直下地震が起きることで、その振動に影響されて、2次被害として富士山の噴火があり得るのでしょうか?
その可能性はかなり高いと考えられます。実は次の南海トラフ地震(2030年代に予測される)によって、富士山のマグマが揺らされて噴火する可能性が非常に高いのです。
これは「誘発」と呼ばれる現象です。マグマには約5%の水が含まれており、この水が揺らされることで水蒸気となって体積が増加します。水は水蒸気になると約500倍に膨張するため、マグマ溜まりにいられなくなり、上昇して噴火につながるのです。これはサイダーやビールを振ると泡が噴き出す現象と似ています。
歴史的に見ても、前回の富士山噴火は1707年(江戸時代、徳川綱吉の頃)で、この時も南海トラフ巨大地震が起きた49日後に噴火しました。当時と現在は非常に似た状況にあります。
南海トラフ地震は100年に1回の周期で発生し、3回に1回は特に大きな地震になります。そして現在は、全域(静岡から宮崎・鹿児島まで)が震源域となる大規模な地震が起こる300年周期のタイミングにあたるのです。

富士山噴火が起きた場合の影響範囲と被害
Q: 300年前を振り返った時に、富士山の噴火で火山灰や溶岩はどの範囲まで広がり、どのような被害があったのでしょうか?
江戸時代の噴火では、江戸の町(現在の東京)に5cmの火山灰が降り、横浜には10cmも積もりました。1707年12月の噴火時、最初は白いものが降ってきたので雪だと思われましたが、それが消えないため「石の粉」だとわかり大騒ぎになりました。
現代において同様の噴火が起きた場合、首都圏全体の電気・水道・ガスといったライフラインが完全に停止するでしょう。自動車、船舶、バス、飛行機などの交通機関も全て止まります。つまり、富士山が噴火して火山灰が関東首都圏に降ってきたら、経済活動も日常生活も完全にストップしてしまうのです。
最悪のシナリオは、南海トラフ地震で社会基盤が麻痺した上に、その後富士山が噴火するというものです。地震の被害から回復に向かっている最中に、さらに火山灰による二次被害が加わることになります。
地震と火山灰の大きな違いは、被害の持続性にあります。地震は一度起きれば、命さえ助かっていれば瓦礫を片付けるなど復旧作業に移れますが、火山灰は降り積もったままでは除去する必要があります。晴れた日には風で舞い上がり続け、雨が降ると下水道に流れ込んで固まってしまいます。このため、地震よりも長期間にわたって被害が続くのです。

富士山噴火から身を守るために
Q: 噴火に対して私たち一般人ができる対策はあるのでしょうか?
噴火予知によって約1ヶ月の猶予があるため、その間に避難などの準備をすることができます。なお、これはあくまで「富士山の火山活動が始まってから噴火までの期間」であり、活動自体はまだ始まっていません。現在の予測では、南海トラフ地震(2035年前後と予測)が富士山のマグマを揺らし、その約1ヶ月後に噴火する可能性があるということです。つまり、今から約10年後に起こると考えられています。
もし火山灰が降ってきた場合の対策としては、まず火山灰を体内に入れないことが重要です。火山灰はガラスの破片のような性質を持っているため、喉や鼻を痛める原因となります。外出する際はゴーグル、マスク、レインコートを着用し、帰宅時には玄関の外で火山灰を払い落としてから室内に入るようにしましょう。室内に火山灰を持ち込むと、舞い上がって除去が困難になるため、家の中を密閉して外気が入らないようにすることも大切です。

地震予知の現状
Q: 地震の予知についてはどのような研究が進んでいるのでしょうか?電磁波や放射の波動による検知が可能と聞いたことがありますが。
大きな地震の前には「スロースリップ」と呼ばれるゆっくりとした断層のずれが発生することがあります。例えば、南海トラフ巨大地震の前にこうしたスロースリップを検知できれば、ある程度の予知が可能になります。
現在、静岡から宮崎沖までの海域に地震計が設置されており、わずかな地殻変動(数cm程度のずれ)を検知できるようになっています。本格的な地震では断層が50mほどずれることもありますが、その前兆としての小さな動きを捉えることができれば、警戒態勢を整えることができるのです。
昨年8月や今年1月に「南海トラフ地震臨時情報」が出されたのは、こうした前兆現象の一部が検知されたためでした。この情報は、「見逃し」を防ぐために設計されています。見逃し(地震が来ると予想せず無防備な状態で被災する)と空振り(警報が出たが地震が来なかった)では、見逃しのほうがはるかに危険です。
地震予知には限界がありますが、それは地球が「複雑系」だからです。複雑系とは、コンピューターで全て予測しても必ずしもその通りにならないシステムを指します。人間の行動が完全に予測できないのと同様に、地球の動きも完全には予測できません。しかし、「科学は万能ではない」としても、利用できる科学的知見は積極的に活用すべきです。

オフィス外で地震に遭ったら
Q: 高層ビルが立ち並ぶオフィス街を歩いている時に突然地震に遭ったら、地下に潜るのが良いのか、ビルに入るのが良いのか、ビルから離れるのが良いのか、どうしたら良いでしょうか?
まず注意すべきは上からの落下物、特にガラスです。大きな揺れ(震度7クラス)が起きると、ビルからガラスが落下してくることがあります。手元に本やカバンなどがあれば、それで頭を保護しながら、ひさしのある場所に避難しましょう。
室内にいる場合は、頭上の照明器具や家具からの落下物に注意し、机の下などに潜りましょう。地震の揺れは数分間続くことがあるため、その間は身を守る姿勢を維持することが重要です。
外に出るべきかどうかは状況によります。ガラスなどの落下物がすでに地面に落ちているなら外に出ても良いかもしれませんが、余震でさらに落下物が発生する可能性も考慮する必要があります。地震発生から15〜30分後に余震が起きることが多いため、頭上には常に注意を払いましょう。
地下街にいる場合は、大きな地震では停電が起きるため、真っ暗になることを想定しておく必要があります。非常灯に従ってゆっくりと地上に上がりましょう。特に地下鉄は深い場所を通っていることが多く(例えば大江戸線の六本木駅は地下43m、地下6〜7階相当)、そこから暗闇の中を上がる必要があります。
南海トラフ巨大地震の場合は東京湾にも3mの津波が2時間後に到達する可能性があります。また、地震による堤防の決壊で川から水が流入し、地下街や地下鉄が水没する危険もあります(下手をすると1フロアが15分程度で水没することも)。したがって、大きな地震が起きたら迅速に地上に出て、できれば1〜2階上に上がることが望ましいでしょう。
地学の魅力
Q: 地学という学問の面白さは何でしょうか?
地球は複雑系であり、良いことも悪いことも含めて様々な現象が起きます。例えば富士山は300年に一度噴火しますが、それ以外の300年間は静かな「恵みの時代」です。現在の富士山は世界遺産の候補地として注目され、周辺にはゴルフ場やリゾート施設、高原野菜の農場など豊かな環境が広がっています。
日本の国立公園の9割は火山地帯にあり、火山がもたらす風光明媚な景観を楽しむことができます。このように火山は「長い恵みと短い災害」をもたらします。災害が起きる時は前兆を捉えて避難するなどの準備をし、それ以外の長い期間は恵みを享受する—これが地球と人間の関係です。
地学は「長尺の目」を持つことを教えてくれます。人間関係においても、短期的な出来事だけでなく長い目で見ることで、より深い理解が得られるのと同じです。
日本は地震や火山活動が活発な「変動帯」に位置しているため、地球科学の研究テーマが豊富にあります。山に行けばすぐに研究対象となる現象が見つかり、それを研究することで論文にまとめることができます。このため、日本は地震学や火山学の世界的なメッカとなっています。
私たちが生きているこの日本という国がどのような場所なのか、地球科学の視点から理解することで、より豊かな生活と適切な防災対策につなげることができるでしょう。
