
パナソニック、衰退の本質。ソニーとの勝負の分かれ目
パナソニック衰退の本質とは?決定的だったのは中村改革、プラズマ事業への集中と松下通信工業の統合
かつての日本を代表する電機メーカーだったパナソニック。現在もなお名門企業だが、そのブランド力は以前ほどではない。パナソニックはどこで道を誤ったのか。日本経済新聞デスクの藤本秀文氏に「パナソニック衰退の本質」をテーマにインタビューした。

パナソニックとソニー、なぜ明暗が分かれたのか
Q: パナソニックとソニーの対比はよく言われますが、どこが決定的な分かれ目になったのでしょうか?
決定的だったのは中村邦夫氏の時代だ。中村氏は「創造と破壊」を掲げていたが、実質的には「破壊」だけで終わってしまった。プラズマパネルへの大規模投資が失敗し、松下通信工業など松下グループの子会社を本体に統合したことも大きな転機となった。
ただ、その前から衰退の兆候はあった。松下の4代目社長だった山下俊彦氏は先見の明があり、1980年代に家電市場の飽和を見越して「アクション61」という計画を立て、デバイスや産業機器、ソフトウェア分野への転換を図ろうとした。しかし、その後の不祥事で頓挫し、森下洋一氏の社長時代に再び家電回帰してしまう。

中村改革が衰退を決定的にした理由
Q: 中村氏の経営手法はどのような問題があったのですか?
中村氏は海外経験が長く合理主義者だったが、その合理主義が「破壊」の方向に働いてしまった。彼はグループ内の様々な会社をひとつにまとめたが、そこからシナジーを生み出すことができず、単なる重複事業の整理になってしまった。
特に大きかったのは松下通信工業を切り捨てたことだ。同社は東京・津島に拠点を置き、大阪だけでは限界のある通信分野で先端情報にアクセスしていた。当時は携帯電話が普及し始め、松下通信工業は着信バイブレーション機能など様々な機能を開発していた。しかし中村氏は「NTTの下請けなんか関わらない」という姿勢でこの分野を切り捨てた。
一方、ソニーはエリクソンと提携するなど、通信分野を重要視し続けた。パナソニックはネットワークという概念が分断され、その後のスマートフォン時代に大きく出遅れることになった。

プラズマテレビ投資の失敗
Q: プラズマパネルへの投資はどのような影響を与えましたか?
中村氏の後任である大坪文雄氏も「プラズマ以外の選択肢はない」という姿勢で中村路線を継承し、尼崎に大規模な工場を建設した。しかし、この時代にはすでにiPhoneが登場し始め、モバイルとネットワークの時代が到来していた。
パナソニック幹部会議で「これからはモバイルネットワークの時代だ」と説明しても、経営陣は理解を示さなかった。技術に関するアンテナの低さ、新しい時代に対する想像力が決定的に不足していた。
ソニーが常に「人と違うことをやろう」という姿勢だったのに対し、パナソニックは考え方が硬かった。「これはこうだ」と決めると、それを覆すことができなかった。

津賀体制と赤字脱却
Q: 津賀一宏氏の時代はどうだったのですか?
津賀氏の時代は「慢性的な赤字体質からどう脱却するか」という課題に集中せざるを得なかった。事業をABCDにランク分けし、数字だけで切り捨てていくアプローチをとった。
津賀氏自身はネットワーク技術の専門家だったが、「そんな発想はないし、社内にそんな技術者もいない」と諦めてしまった。通信技術やコンテンツへの関心はすでに薄れており、「何をしたい会社なのか」という明確なビジョンを持てなかった。
このあたりがソニーの平井一夫氏と対照的だ。平井氏は「感動」を定義し、エンターテイメントを核にした戦略を明確に打ち出した。苦しい時期に思い切った決断をし、シーモスというスマホのセンサー事業に集中投資した。

テスラへの出資と電池事業
Q: テスラへの出資や電池事業についてはどう評価しますか?
テスラへの出資は津賀体制でのホームランと言える。しかし、パナソニックはテスラの株を結局売却してしまった。電池事業についても、トヨタと一緒に「パナソニックEVエナジー」を設立したが、両社の関係がうまくいかず、結局分離してしまった。
松下電池は名門として知られ、三洋電機買収の際も電池技術が目的の一つだった。しかし、事業を絞り込んで投資する決断ができなかった。ソニーはリチウムイオン電池を自社開発し、一時は村田製作所に売却したが、その後「何を残すべきか」を考え、CMOSセンサーに集中投資して大成功を収めた。
パナソニックの問題は、選択と集中が徹底できず、どっちつかずの状態が続いたことだ。経営指標だけを見て「この事業は採算が悪いから切ろう」という発想だけで、将来を見据えた戦略的判断ができなかった。
今後のパナソニックはどうあるべきか
Q: パナソニックが再生するには何が必要でしょうか?
2023年2月に発表された「2028年度ROE10%」という目標と、ソリューション領域への注力は一定の方向性を示している。長年こだわってきたテレビを非主力にしたことはビジネスモデルの転換を示唆しているが、「パナソニックはどういう会社なのか」というイメージが明確になっていない。
エネルギーやサプライチェーンに注力するとしても、競合が多い中でパナソニックの独自性をどう打ち出すかが課題だ。パナソニックは現在分断されており、それをまとめ直し、どこに投資していくかを明確にする必要がある。
ソニーが「感動」を軸に組織を再編し、エンターテイメント企業としての一貫性を持たせたように、パナソニックも明確なアイデンティティを確立することが求められる。
かつて松下幸之助は「水道哲学」を掲げ、戦後日本を豊かにするという使命を持っていた。では現代のパナソニックの使命は何か。その問いに答えることが再生への道だろう。
