ECONOMICS101
投資に活かせる為替の基礎知識
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2025年3月6日

エコノミストの永濱利廣氏をはじめとする専門家から、経済の基礎知識をゼロから学ぶ番組。番組名の101とは、“基礎講座”を表す、英語でよく使われる表現です。 <ゲスト> 深谷幸司|為替アナリスト 1984年東京大学法学部卒業後、三菱銀行入行。チーフアナリスト、チーフエコノミストを歴任。ドイツ証券、クレ...
投資に役立つ為替の基礎知識Q&A -「為替は森羅万象で動く」元三菱銀行チーフアナリストが解説
為替相場は株や債券と違い、2国間の通貨の交換レートであるため本質的に複雑だ。多くの要素が絡み合い「森羅万象で動く」世界とも言われる為替市場について、30年の経験を持つ深谷浩二氏に基礎知識から今後の展望まで聞いた。

Q: 為替はなぜ難しいと言われるのですか?
為替は非常に特殊な市場です。株や債券には企業業績や金融政策など変動の「コア」となる要素があります。しかし為替レートは2国間の通貨の交換比率であり、明確な適正水準が存在しません。さらに為替市場には企業の実需取引、投機的な取引、機関投資家、直接投資など様々なプレイヤーが参加しています。それぞれが異なる動機や目的を持ち、見ている指標も違うため、世の中の「森羅万象」で動くとも言われています。
過去の研究では、市場関係者による為替予測の9割が結果的に外れていたというデータもあるほどです。これが為替の難しさを表しています。

Q: 最近の円安・円高議論の背景は何ですか?
長期的に見ると日本は円高の歴史を歩んできました。1995年頃には80円近辺まで円高が進みましたが、これは日本の貿易黒字が大きかった時代です。その後も円は強い状態が続きましたが、2022年頃に150円を超える水準まで円安が進みました。
この円安の背景には日米間の金利差拡大があります。日本がマイナス金利政策を含む超緩和的な金融政策を続ける一方、アメリカは利上げに転じたことで金利差が拡大し、円安ドル高が進行しました。
最近になって「円安は日本の国力低下の表れ」といった議論もありますが、これは必ずしも正確ではありません。例えば、東日本大震災で日本経済が危機的状況だった時は逆に円高でした。為替を単純に国力と結びつける見方は短期的には当てはまらないのです。

Q: 為替は今後どう動くと予想されますか?
ここ数年の円安傾向は修正局面に入ったと考えられます。2025年のドル円相場については、大きく円高には進まず、145円近辺で推移すると予想されます。ただし、今後の日米の金融政策によって変動する可能性はあります。
日本銀行は2024年7月にも0.25%の利上げを行う可能性があり、年末までには政策金利が1%程度になる可能性があります。一方、アメリカは利下げのペースが不透明ですが、内外金利差は縮小傾向にあり、これが円高要因となります。
しかし、劇的な円高になる可能性は低いでしょう。なぜなら、日本の貿易収支が赤字傾向にあることや、世界的にインフレ率が以前より高めに推移していることから、過去のような極端な円高(80円台など)は起こりにくい環境にあるためです。

Q: 円安と円高、どちらが日本にとって良いのでしょうか?
円安と円高のどちらが良いかは、見る立場によって異なります。輸出企業は円安が収益に有利ですが、輸入企業や海外で生産し国内で販売する企業にとっては円高が有利です。
日本全体の視点で見ると、かつては貿易黒字国だったため円安は輸出を増やすメリットがありました。しかし現在は貿易収支が赤字傾向にあり、特にデジタルサービスなどの輸入が増えています。そのため、急激な円安よりも、ある程度の円高の方が日本経済全体としては良い面もあるでしょう。
ただし、為替には「適正レート」が存在しないため、どの水準が最適かを一概に言うことはできません。重要なのは急激な変動を避け、安定した為替レートを維持することです。
Q: 投資家はこれからの為替動向にどう備えるべきですか?
海外資産に投資している投資家にとって、円高は投資リターンを減少させる要因となります。例えば、米国株式に投資している場合、ドルベースでプラスのリターンがあっても、円高が進めばその一部が相殺されることになります。
具体的な対策としては、投資先資産の「通貨ベースのリターン」をしっかり見極めることが重要です。例えば、米国債のように金利が高い資産であれば、たとえ円高が進んでも一定のリターンが期待できます。一方、米国株のような資産は、米国経済が悪化して株価が下落すると同時に、ドル安円高が進む可能性があり、ダブルでマイナスになるリスクがあります。
いずれにしても、為替レートの見通しだけでなく、投資先の資産自体のパフォーマンスも含めて総合的に判断することが大切です。
Q: 黒田前日銀総裁の金融政策をどう評価していますか?
黒田前総裁の金融政策については「やり過ぎだった」「引っ張り過ぎた」という評価があります。特に国債購入を大規模に行ったことや、マイナス金利政策の導入については効果に疑問が残ります。
政策修正のタイミングも遅かったとの指摘があります。他の主要国が利上げに転じた段階で、日本も少なくとも2年程度前から徐々に修正を始めるべきだったという見方があります。
一方で、2014年の消費税増税が経済に大きな打撃を与え、日銀の政策余地を狭めた面もあります。当時、消費増税によりインフレ率が低下し、それを補うために追加緩和(黒田バズーカー第2弾)が必要になりました。そして最終的にマイナス金利政策やイールドカーブコントロールといった特殊な政策に踏み込まざるを得なくなった経緯があります。
Q: 現在の上田日銀総裁の金融政策をどう見ていますか?
上田総裁は非常にニュートラルな人物で、黒田前総裁の政策を適切に修正していく路線は正しいと評価できます。ただし、政策変更前に「リーク記事」が出やすくなった印象があり、市場コミュニケーションの面では特徴的です。
こうした事前の情報提供には賛否両論あります。政策決定日に市場が大きく動かないという意味ではメリットがある一方、AIなどを使って中央銀行の発言を機械的に分析し、即座に反応するようなトレーディングが増えているため、コミュニケーションの難しさも増しています。
また「利上げしたのに円安になる」との批判もありますが、これは市場が事前に織り込んで先に円高が進んだ後、実際の発表では「噂で買って事実で売る」という動きが出ているためです。金融政策の円安抑制効果がないというわけではありません。
Q: 米大統領選挙と為替の関係はどうなりますか?
トランプ氏の政策は一見すると矛盾しています。一方で対日貿易赤字を縮小させようとする政策を進めようとしていますが、これは結果的に日本の貿易黒字を減らすため円安要因となります。他方でトランプ氏は「ドル高」を嫌う発言も繰り返しています。
しかし重要なのは、大統領がどれだけ為替相場に影響力を持てるかという点です。大統領は関税政策などは変更できますが、金融政策は独立したFRB(連邦準備制度理事会)の権限であり、直接的な為替介入も限られています。議長の人事権を通じて間接的に影響を与える可能性はあるものの、金融政策決定会合での個別の判断に政治が介入することは基本的にないでしょう。
米国経済の動向や政策金利の変更見通しなど、より構造的な要因の方が為替相場には大きな影響を与えると考えられます。