
ファンドの要求を解読。フジテレビの生存戦略
フジテレビと投資家の対立、なぜ起きた?専門家が解説する日本企業の構造的問題
「投資家はシンプルな醤油ラーメンが好き、幕の内弁当はいらない」—企業経営の本質とは

Q. フジメディアホールディングスは、最近の不祥事以前からアクティビストファンドのダルトンインベスメンツからMBOなどを求められていました。なぜそのような指摘を受けているのでしょうか?
世界中のアクティビストファンドは企業に対して様々な提案をしています。例えばサードポイントはソニーやネスレに、バリューアクトはセブン&アイに提案を行っています。彼らの提案書は一般に公開されており、非常に分かりやすく論理的です。英語で書かれていますが、日本語に訳して読むと誰もが「そうだよね」と納得するような内容になっています。
アクティビストが企業に対して言っていることは、単に「君たちはダメだ」と叱っているわけではありません。例えばソニーに対しては、「エンターテイメント事業と半導体事業は素晴らしいが、これらの価値が顕在化していない」と指摘しています。
Q. 投資家は企業に何を求めているのでしょうか?
投資家はシンプルな「醤油ラーメン」が好きです。企業側は「豚骨ラーメン全部盛り」のように様々な事業を手がけた方が華やかに見え、経営者としても楽しいと思いがちですが、投資家は嫌います。
投資家の視点からすると、企業は得意な領域に特化して突き進むべきです。多角化やリスク分散は投資家自身が行うことであり、企業がやる必要はありません。「幕の内弁当」はいらないのです。ハンバーグが得意ならハンバーグを極めるべきです。
事業会社が複数の事業を持つことが正当化できるのは、シナジー効果を生み出す場合だけです。シナジー効果は投資家だけでは絶対に実現できないものです。
Q. アメリカの大手メディア企業はどのようにシナジーを生み出しているのでしょうか?
例えばコムキャストは、通信インフラ事業、メディア事業、映画スタジオ事業、テーマパーク事業を持っています。これらの事業には明確なシナジーがあります。IPを様々な形で活用できるのです。例えば映画で使ったキャラクターをテーマパークのアトラクションにしたり、テレビやストリーミングで配信したりできます。
一方、フジテレビの場合、例えば観光事業とテレビ事業の間にどのようなシナジーがあるのか説明するのは難しいでしょう。日本企業は縦割り組織になっていることが多く、リスク分散のために様々な事業を行っているケースが少なくありません。

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Q. なぜアクティビストは日本企業の株式を買うのでしょうか?
アクティビストは企業に対して「あまりにもひどいので改善効果がある」と見て投資します。メディア事業は利益率が低いものの、安定した事業です。プライベートエクイティファンドは安定した事業を好みます。なぜなら、彼らは通常、買収資金の8割以上を借入金で賄うため、確実に返済できる安定した事業が必要だからです。
特に現在は低金利の日本に世界中のファンドが集まっています。経済産業省などが改革を進めてきたことで「ジャパン・イズ・バック」と言われ、海外投資家からの評価も高まっています。ニューヨークやロンドンの投資家の間では「今、日本市場が一番面白い」という声も聞かれます。
Q. アクティビストの提案に対して、企業はどう対応すべきでしょうか?
アクティビストを「怖い人たち」と突き放すのではなく、話を聞くべきです。彼らの言うことを全て受け入れる必要はありませんが、「なるほど」と思える提案は多くあります。それを自社の事業計画や戦略に反映させていくのが賢いIR戦略です。
実際、投資家と対話して復活している日本企業もあります。日立製作所は集中と選択を行い、不採算事業から撤退しました。アシックスも体操服や体操靴などの事業から撤退し、ランニングなどに集中することで5年で株価が9倍になりました。日本企業には改善できる点が数多くあります。
Q. フジテレビに対するダルトンの提案はどのようなものですか?
ダルトンはフジテレビに対して、産経ビルを100%非公開化でスピンオフし、既存株主の持ち株比率に応じて分配することを提案しています。さらに年間配当金を純利益の100%に相当する額まで増やし、今後5年間それぞれ発行済み株式の10%の自社株買いを実施すべきだとしています。
これは特別な提案ではなく、アクティビストが一般的に行う提案です。基本的には、ビジネスモデルや必要とされる経営手法が全く異なるメディア事業と不動産事業を明確に切り分け、それぞれに専門的な経営者を配置して強みを伸ばすべきだという内容です。
また、株主還元やガバナンスの意識が弱いという指摘もあります。利益の100%を株主に還元するという提案は、アメリカの基準では珍しくありません。

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Q. 日本企業は上場する必要があるのでしょうか?
本来、株式市場は資金調達の場ですが、現在ほとんどの上場企業は資金調達をしていません。むしろ自社株買いを行っており、上場している意味が問われています。知名度の向上や銀行からの借入のしやすさなどがメリットとして挙げられますが、本質的なものではありません。
日本のプライム市場に上場している企業の多くは、上場している必要性が低いかもしれません。新規上場する企業が株主のエグジットの場として上場することは理解できますが、その後大型の資金調達をすることはほとんどありません。
一方で、上場していることでガバナンスが効きやすく、外部からのプレッシャーで変わりやすくなるというメリットはあります。
Q. アメリカ企業と日本企業の違いは何でしょうか?
日本企業は「シナジー効果」という言葉が大好きで、一緒になることで1+1が3になるという話をよくします。しかし、アメリカのファイナンスの教科書にはシナジー効果という言葉はほとんど出てきません。
アメリカ企業は「この業界でトップを取る」という明確な目標を持ち、ロールアップ(同業他社の買収による規模拡大)を積極的に行います。その際、株式を使った買収が一般的です。日本企業はこうした大胆な業界再編が起きにくく、自社株を買収のツールとして活用することも少ないです。
例えば本田技研工業は多額の自社株買いを行っていますが、成長投資に使った方が良いという意見もあります。日本企業で上場していることをうまく活用している企業は多くありません。
Q. フジテレビ問題の今後の展開はどうなるでしょうか?
フジテレビのスキャンダルはガバナンスの問題であり、人権侵害の問題でもあります。広告主は自社のステークホルダーからも注視されているため、簡単に広告出稿を再開することは難しいでしょう。出演者がフジテレビの番組に出演を断るという動きも出てきています。
フジテレビは現在約870億円のキャッシュを持っており、当面の資金繰りに問題はありませんが、広告収入が戻らなければ徐々に厳しくなります。銀行はすでに貸し付けているお金が返ってこないと困るため、追加融資をする場合には早期の改革を求めるでしょう。
真の改革には、日枝氏の退任だけでなく、幹部の入れ替え、指名委員会の設置、真の意味での独立社外取締役の選任など、ガバナンス体制の抜本的な改革が必要です。こうした改革なしには、広告主や投資家の信頼を取り戻すことは難しいでしょう。
フジテレビ問題、日産問題、そしてこれから加熱するであろうパナソニック問題—これらの日本を代表する企業の問題は、日本企業全体の改革を促す大きな波になりそうです。
