
地方経済の再生戦略
地方創生は公教育への投資が最善手?ビジネス視点で問い直す地域経済活性化
地方創生は喫緊の課題として度々議論される。しかし、長年の努力にもかかわらず、その効果は限定的であるとの認識が広まっている。既存の企業誘致やばらまき型の施策が奏功しない中、真の地域活性化には新たな視点とアプローチが不可欠だ。
本稿では、政治の質から教育への投資、そしてデジタル技術の活用に至るまで、多角的な視点から地方創生のあるべき姿を探求する。識者らの洞察を通じて、停滞を打破し、地域経済を再活性化させる具体的な道筋を明らかにする。
Q. 地方創生の停滞を招く根本原因はどこにあると考えるか?
これまでの地方創生は、補助金頼みや企業の自律的な投資を妨げる“ばらまき”政策に終始してきた。慶應義塾大学教授の中村麻紀子氏は、インバウンド需要の高まりにも関わらず、人手不足で十分対応できない地方の現状を指摘する。既存の枠組みでは対応が困難な課題が山積しているのである。
真の根本原因は、地方議会の議論の質の低さにあるという見解がある。住民生活に密接な教育や医療の意思決定が低レベルなままでは、どんな政策も空回りする。地方議会の低迷が、地域社会の停滞に直結する状況だ。
元広島県安芸高田市長の石丸慎二氏が立ち上げた「再生の道」は、この現状を打破する試みである。同団体は、高い志と能力を持つ人材を地方政治に呼び込み、政治そのものをアップデートすることを目指す。質の高い議員による意思決定が、住民本位の地方創生を実現すると石丸氏は主張する。
政治家を志す際の障壁となる「辞めた後のキャリア」問題を解決するため、「2期8年」を区切りとする提案もある。これにより優秀なビジネスパーソンが政治に挑戦しやすい環境を整え、流動性を生み出す。実際、「再生の道」への募集には多数の応募があり、現状を変革したいという社会の強い要望が明らかとなった。
Q. 企業は地方経済を活性化させるためにどのようなアプローチが可能か?
大規模な企業誘致に依存する時代は終わりを告げている。リコー代表取締役会長の山下義典氏は、デジタル技術を活用し、地方の経済と生活に「高循環」を生み出すことの重要性を説く。コロナ禍はデジタル変革を加速させ、地方のビジネスと生活を向上させる契機となったのである。
地方が抱える問題、例えば交通インフラの不便さなどは、ライドシェアやオンデマンドバスといった新技術によるイノベーションの宝庫でもある。課題解決型のサービス創出こそが、地方で新たなビジネスチャンスを生み出し、経済を活性化させる原動力となる。
石丸氏の提唱する「育成進化」という視点も肝要だ。東京からの技術導入ではなく、地域に眠る独自の資源を研磨し、世界市場で勝負する。「獺祭」や「熊野筆」のように、地域固有の産品や技術を磨き上げれば、グローバルに通用するブランドへと成長させることが可能となる。
加えて、国による「規制緩和」も不可欠である。特に農地利用に関する規制を見直せば、民間企業が大規模な農業経営に参入しやすくなり、新たな産業創出と雇用増に繋がる可能性がある。インバウンド需要の増加も追い風であり、地域の観光資源を活かしたビジネス拡大も期待できる。政治の決断が、この変革を加速させる鍵となる。
Q. 地方の持続可能な発展のために、最も重要な「投資」とは何か?
地方創生における「人材が先か、産業が先か」という問いに対し、日本の実証研究は「公教育の質」が先行するとの結論を導き出した。質の高い教育への投資は、教育熱心な家族の地域への移住を促し、結果的に税収増加と地域の持続的な成長へと繋がる好循環を生む、最もクレバーな戦略だ。
秋田国際教養大学や徳島県神山町の「神山まるごと高専」は、地方でも世界に通用するレベルの人材育成が可能であることを示す具体的な事例である。神山まるごと高専は授業料・宿舎費を無償化することで、経済状況によらず意欲ある若者が最先端の教育を受けられる機会を提供し、地方から新たなイノベーションを生み出す基盤を構築している。
人材が地域に根付くには、教育だけでなく、育った人材が活躍できる産業も不可欠だ。教育と産業は相互に発展し合う関係にあるため、両者の同時進行的な育成が重要となる。山下氏は、人材育成が進む地域自体が魅力的になり、新たな産業が芽吹き、拡大する過程を指摘している。
日本にとって重要な未開拓の人的資源として、スキルと賃金にミスマッチが生じている子育て世代の女性が挙げられる。彼女たちの潜在能力をリモートワーク活用で引き出すことは、労働力不足の解消、生産性向上、そして地方経済活性化に多大な貢献をもたらす。このアプローチは、日本で唯一の成長戦略ともなり得る重要な視点だ。
フランスの「グランゼコール」モデルも、日本企業に示唆を与える。地域企業が地元の教育機関を支援し、早期から優秀な人材を育成・囲い込むシステムだ。これは日本企業が培ってきた「育成型」雇用モデルの裾野を地域全体に広げることを意味する。企業が大学卒業後だけでなく、より早い段階から人材育成に関与すれば、地域からのエリート流出を防ぎ、持続可能な発展を促せる。
Q. 地方創生を実現するための教育や制度改革は、どのような障壁を乗り越える必要があるか?
教育改革を阻む最大の障壁は「既得権益」である。既存の学校や産業界が、現状維持のため新規参入を妨げ、文部科学省など行政機関が既存勢力と結託して新たな教育機会の創出を制限する。競争や新陳代謝が働かない「規制の虜」の状態は、日本の活力低下に繋がっているのである。
この既得権益の壁を打ち破り、真の改革を断行するためには、強力な政治のリーダーシップが不可欠である。しがらみにとらわれず、日本全体の未来を見据えた政策を推し進める政治の力がなければ、根本的な変化は望めない。国民生活に直結する教育や制度の改革には、リーダーの断固たる意思が求められる。
改革は政府や教育機関だけのものではない。企業内部にも課題がある。リモートで働く優秀な女性を正当に評価し、その能力を最大限に引き出すためには、中間管理職の意識改革と育成が不可欠である。制度だけ整えても、運用する側の意識が変わらなければ、せっかくの取り組みも形骸化してしまうだろう。
地方自治体のリーダーシップは、政策投資の方向性を決定づける。若い世代の首長が就任すると、教育や子育て世代への投資が加速する傾向がある。彼らは「当事者」であるため、自身の経験に基づいた未来志向の判断を下すためだ。インフラ老朽化などの喫緊の課題に対し、長期的な視点を持つリーダーシップの重要性が高まっている。
地方創生は、政治家、行政官、教育者、企業経営者、そして住民一人ひとりが、自身の置かれた立場における「改革課題」に目を向け、当事者意識を持って行動を起こすことで実現する。既存の枠組みや思考を乗り越え、多様な主体が連携し、創造的なアプローチを試みることが、日本の地方が持続的な活性化の道筋を描くための不可欠な要素だ。
