
日産を誰が買うのか?ホンハイ以外の第3の道
「日産-ホンダ統合破綻」の裏側と今後のシナリオ
日産とホンダの経営統合が破綻へ。交渉が決裂した背景には何があったのか。この先、日産はどうなるのか。「日産-ホンダ統合破綻」の裏側と今後のシナリオについて、ジャーナリストの井上久男氏が解説する。

Q. 日産とホンダの経営統合交渉は破綻したと考えていいのですか?
もうほぼ決まりと考えていい。2月3日に日産の執行役員以上が集まる会議があり、そこで自力再建を目指す方向性を確認した。12月23日に日産とホンダは覚書を交わして統合交渉に入ったが、その覚書を撤回することをホンダ側に通告している。日産では取締役会が開かれ、統合構想を白紙に戻すことが決議されたはずだ。公式アナウンスがないだけだろう。
Q. 交渉決裂の理由は何ですか?
主に2つの理由がある。1つは日産が昨年11月7日に示したリストラ案、9000人削減や生産能力20%削減の内容が本当に再生できるのか疑問視されたこと。もう1つは実行のスピードが遅いとホンダが苛立ったことだ。
ホンダ側は、日産の現在のガバナンスと内田社長のリーダーシップに問題があると感じ始めた。そのため、日産を子会社化してホンダ主導のガバナンスで再生させるべきだと提案した。しかし日産側はそれを受け入れられないとして交渉がこじれた。
Q. 日産はなぜ危機にあるにもかかわらず、危機感が高まらないのですか?
内田社長のリーダーシップの問題と役員が多すぎることが原因だ。日産の執行役員を含めると約50人いる。内田社長が決断力に欠ける人物である上に、調整すべき関係者が多すぎて物事が進まない状況になっている。
ダメな日本企業の典型で、このままでは本当に厳しい状況になる。本田との交渉が破綻すれば、ビジネス面での関係も危うくなり、本田以外の救済者が必要になるだろう。
Q. 今後、本ファイ(ホンハイ)が買収先として出てくる可能性はありますか?
本ファイは出てくると思う。破綻するのを待っていたと言っても過言ではない。どういう出方をするかは分からないが、やり方としてはメインバンクと経済産業省に根回しして来るだろう。
日産はそもそも本ファイと組むのが嫌で、本田に打診したという経緯がある。しかし26年前と似た状況で、当時は大宇と日産が提携する予定だったが直前で破談し、結局ルノーに行くことになった。今回も本田との交渉が破談して次の相手を探すことになるが、本ファイも嫌だということになる可能性がある。
ただし、本ファイが正式に買収提案すれば、取締役会の善管注意義務上、その提案が合理的なものか検討しなければならない。合理的な提案であれば検討する必要がある。
Q. 本ファイ以外の第三の選択肢はありますか?
可能性はある。ファンドが出てくるかもしれない。また、AI技術の実験台として自動車メーカーを求める企業も考えられる。例えばNVIDIAが日産と組むとか、Appleが日産と組むといったシナリオもあり得る。
Appleは本ファイと関係が良いので、Appleが日産と組めば経済安全保障上の問題もなくなる。Appleの背後に本ファイがいるようなスキームも考えられる。また、ファンドが出てきてその背後にAppleがついているようなこともあり得る。
また、日米関係の文脈で、日米首脳会談の際に日産をアメリカに差し出すことでお土産ができるというシナリオも考えられなくはない。これはあくまで私の見立てだが。

Q. 日産の再建にはどのようなシナリオが最も現実的ですか?
日産はかなりのリストラが必要だ。現在発表されている9000人削減では足りないという声もあり、4万人が余剰だという意見もある。ゴーン氏のリバイバルプランでは2万1000人を削減したが、今回もそれくらいの規模のリストラが最低限必要だろう。
今の日産経営陣ではこれほど激しいリストラはできない。ファンドが出てきて経営陣を一掃するか、本ファイがお掃除するといった手段が必要だ。
理想的なシナリオとしては、本ファイがお掃除した後にホンダとEVなど新分野で提携するという形が考えられる。本ファイ、日産、ホンダによる連合ができれば、台湾と日本の関係で新しい産業形態を示すことができるかもしれない。
Q. メインバンクや政府はどのような立場ですか?
メインバンクのみずほ銀行は、本田による日産の子会社化を容認していた。みずほにとっては、日産に巨額の融資をしている以上、日産が破綻することが最も困る。どのような形であれ日産が生き残ることを優先している。
日本政府も水面下で動き始めた情報がある。日産が破綻すると雇用問題や地域経済への影響が大きい。九州や栃木に大きな工場があり、サプライチェーンへの影響も大きいため、政府としても無視できない問題だ。
政府が関与すると本ファイは安全保障上の問題で不利になる可能性もある。しかし専門家によれば、本ファイがアメリカに法人を作り、「本ファイ・アメリカ」として日産を買収し、オペレーションをアメリカから行うと提案すれば、日本政府も認めざるを得ないかもしれない。
Q. 日産の現経営陣、特に内田社長はどうなりますか?
今の経営陣はもはやなす術を持っていない。経営陣を入れ替えるしかない。新しく資本を入れて、その力で経営陣を一掃する必要がある。
日産の取締役は12人いて、そのうち8人が独立社外取締役、2人が内部、2人がルノーだ。社長人事に関わる指名委員会は5人で構成されており、その中には内田社長では立て直せないと見ている人もいる。そういった人たちが社外取締役として内田社長の交代を促す可能性はある。
しかし、社外取締役にも危機感の欠如や、単なる名誉職として捉えている人もいる。報酬もそこそこあり、社会的地位も保障されるため、本気で会社のためにガバナンスを効かせようとしていない人もいると思われる。
Q. 日産の問題はどこまで深刻ですか?
社内でも現経営陣に対する不満が高まっている。1月中旬の社内ミーティングでは、「今の経営陣では日産は持たないのではないか」「責任のある役員が別のポストに移るたらい回しになっている」といった声が出ている。
アメリカで業績を落とした役員が引き続きCFOに就任したり、業績管理の責任者が中国事業の責任者になったりと、経営責任が明確化されていないという不満がある。これはフジテレビの問題と構造が似ており、「フジテレビ化する日産」と表現することもある。
ガバナンスの視点から見ると、今の日本のダメな企業を象徴している。社外取締役も独立性に疑問があり、メインバンクから来ている人も独立社外取締役に位置づけられているなど、利害関係のある人たちが取締役会に入っている。

Q. 本ファイによる再建の可能性はどう見ていますか?
本ファイが考えているスキームは日産と相性が良いと思う。日産の経営悪化の大きな原因はコスト構造の高さにあり、本ファイはそこにメスを入れるのが上手い。
おそらく本ファイが日産を買収すれば、開発部門と生産部門を分離するだろう。本ファイはEV以外にもデジタル医療やAIサーバーなど新規事業を展開しており、日産のグローバル拠点をそういった事業にも活用できると考えているはずだ。
また、開発部門は立て直して、日産車だけでなく他社の車の開発も受注できるようにして仕事量を増やすという青写真も描いているだろう。本ファイはコストカットが非常に厳しい会社だが、今の日産はそれくらいの厳しい治療が必要だと思う。
理想を言えば、本ファイがお掃除した後にホンダとEVなど新分野で提携し、本ファイ・日産・ホンダ連合という形で台湾と日本の関係に基づく新しい産業形態を示せれば良いのではないか。