BODY SKILL SET
厚底シューズの光と影/ランニングの新常識
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2025年1月15日

ビジネスパーソンのための体・心の鍛え方を一流の専門家から学ぶ。ランニングの定番となった厚底シューズのメリット・デメリットを解説。 <目次> 0:00 ダイジェスト 0:51 本編スタート 4:27 マラソンの常識を変えた厚底シューズ 6:56 HOKA、NIKEが革命児!厚底シューズ誕生の経緯 ...
元マラソン選手が語る!あなたも「楽に、そして早く」走れる最新厚底シューズの使い方
走るだけでタイムがアップする魔法のシューズが存在する?記録を飛躍的に向上させた「厚底シューズ」の光と影について、プロランニングコーチの金哲彦さんに聞いた。

Q. 厚底シューズはなぜ生まれたの?
厚底シューズの元祖は、フランス発祥の「ホカ」というブランドです。もともとは山を走るトレイルランニングで、下り坂をいかに楽に走れるかという目的で考案されました。それまでは薄底シューズしかなかった時代に、突然とても厚いソールのシューズが登場し、多くの人を驚かせました。
最初は主に山を走る人たちが使用していましたが、マラソン界に革命を起こしたのは、人間がフルマラソンで2時間を切れるかというチャレンジがきっかけでした。ケニアの選手キプチョゲが挑戦した際、最高の条件を整えるためにギア(シューズ)にも新しい工夫が求められました。
そこで開発されたのが、カーボンプレート入りの厚底シューズです。カーボンプレートは炭素素材で軽くて硬いという特性があり、これをシューズの中に仕込むことで反発が生まれることが発見されました。このシューズを履いてキプチョゲは実際に2時間を切ることに成功しました(特別な条件下だったため公式記録ではありません)。
最初はナイキだけが製造していましたが、今ではあらゆるメーカーが厚底シューズを作るようになり、気がつけば店頭には厚底シューズしか並んでいない状況になっています。

Q. 厚底シューズを履くとなぜ早く走れるの?
厚底シューズ、特にカーボンプレート入りのものが速くなる理由はいくつかあります。
まず、カーボンプレートは非常に軽いため、シューズの重量増加を最小限に抑えられます。ランニングではシューズが重くなるとタイムが遅くなるので、この軽さは重要です。
次に、カーボンプレートの反発力です。走る際の着地衝撃は体重の3倍から6倍もの力が1歩ごとにかかります。カーボンプレートは着地した瞬間に少し撓み、次の蹴り出しの時に元に戻る力がバネとなります。つまり同じ力でも進むためのエネルギーが少なくて済むのです。これにより、ランニングエコノミー(消費エネルギー効率)が約4%向上すると言われています。
また、このバネの効果で自然と歩幅が大きくなります。たとえば1kmを4分で走るつもりでカーボンプレート入りシューズを履くと、5〜10秒ほど早くなることがあります。マラソンではこの積み重ねが大きな差になるため、記録が飛躍的に向上したのです。

Q. カーボンプレート入りと入っていないシューズはどう使い分ければいい?
カーボンプレート入りと入っていないシューズは、目的や体力に応じて使い分けるのが理想的です。
金さんによると、ランナーは大きく分けて3タイプに分類できます:
1. ジョガー:レースには出ないが健康のために少し走る人
2. レーサー:フルマラソンやハーフマラソンに出場する人
3. サブ4以上:フルマラソンを4時間未満で走れる、トレーニングをしっかり積んでいる人
それぞれのタイプによって、カーボンプレート入りシューズの必要性が異なります。サブ4以上のレベルの人は、タイムを狙うレースや、それに直結する練習ではカーボンプレート入りを使うべきです。レーサーは時々使用するのがよいでしょう。
一方で、ジョガーレベルの人は必ずしもカーボンプレート入りシューズが必要ではありません。むしろ、カーボンプレート入りは早く走れすぎてしまうため、呼吸が辛くなったり、体への負担が大きくなったりする可能性があります。ゆっくり楽しんで走りたい、ダイエットが目的という人はカーボンプレートなしの厚底シューズで十分かもしれません。
なお、カーボンプレート入りは早く走れる一方で、疲労も少し大きくなります。そのため、体が疲れている日はカーボンプレートなしで走るなど、状態に合わせて使い分けるのがおすすめです。

Q. 厚底シューズによる怪我のリスクはあるの?
厚底シューズ、特にカーボンプレート入りのものが普及したことで、怪我をする部位が変わってきたという特徴があります。
従来のランニングシューズでは、膝から下の部位(膝、足の裏、アキレス腱など)に怪我が多く見られました。しかし厚底シューズ、特にカーボンプレート入りのものを使用するようになってから、股関節周りや足の付け根、仙骨(お尻の後ろ部分)などの痛みを訴えるランナーが増えてきました。
これは使用する筋肉が変わったためです。膝から下の筋肉は比較的小さいため、カーボンプレートの強い反発力を受け止めきれません。そのため自然と大きな筋肉(股関節周りや臀部)を使うようになります。この大きな筋肉を使うことが早く走れる理由でもありますが、それまで小さな筋肉を主に使っていた人にとっては、急に負担がかかることになります。
たとえば、着地した時の衝撃が大腿骨から骨盤に伝わり、骨盤を上に突き上げる力が生じます。これにより仙骨に痛みが起きることがあります。
注目すべきは、子供の頃からカーボンプレート入りシューズを履いている「カーボンネイティブ」と呼ばれる若い世代は、最初から大きな筋肉の使い方を身につけているため、このような問題が少ない傾向にあるということです。
Q. 厚底シューズで怪我なく走るコツは?
厚底シューズ、特にカーボンプレート入りのものを使う場合、怪我を予防するためには、走り方だけでなく補助的なトレーニングも重要になってきます。
まず厚底シューズ用のウォーミングアップの方法を取り入れましょう。下半身と体幹を中心に、腹筋、臀筋、大腿筋など、瞬間的に力強く使うような動的ストレッチが効果的です。
また、筋力トレーニングも必須となります。昔は「走れ走れ」という指導が中心でしたが、現在は周辺筋のトレーニングがより重視されています。特に大きな筋肉を鍛えることで、カーボンプレートの反発力に対応できる体づくりが必要です。
柔軟性に関しては、すべての部位で高い柔軟性が必要なわけではありません。例えば臀筋は硬くても問題ありませんが、骨盤の動きの柔軟性は非常に重要です。骨盤をスムーズに動かしながら走ることができると、より効率的に力を伝えることができます。
加えて、体の状態に合わせてシューズを使い分けることも大切です。疲れている日や長時間のジョギングではカーボンプレートなしの厚底シューズを選ぶなど、その日の体調や目的に応じた選択をしましょう。
Q. カーボンプレート入りシューズで記録は伸び続けるの?
カーボンプレート入りシューズの登場で、マラソンの記録は劇的に向上しました。現在の男子の世界記録は2時間0分台、女子は2時間9分台と、数年前には考えられなかったほどの高速化が実現しています。
この技術革新はまだ始まったばかりで、普及し始めてから10年も経っていません。中学生や高校生など若い世代は「カーボンネイティブ」と呼ばれ、最初からカーボンプレート入りシューズで走ることを学んでいるため、走り方も洗練されています。その結果、中学・高校の陸上競技や駅伝の記録も飛躍的に伸びています。
これからも素材や設計の改良により、さらなる記録向上が期待されます。ただし、こうした技術の恩恵を最大限に受けるためには、適切なトレーニングと走り方を身につけることが重要です。
なお一部には「裸足ランニング」を実践するグループもあります。人間は進化の過程で長距離を走れるように適応してきたという考えに基づくものですが、現代のマラソン大会では圧倒的に少数派であり、オリンピックなどの大舞台では見られません。
より楽に、そして早く走るという目標を達成するには、自分のレベルと目的に合ったシューズ選びと、それに適した体づくりが大切なのです。