
【2024年超予測:自動車(前編)】前門の虎、テスラ・BYD。後門の狼、トヨタ。挟撃されるホンダ・日産
「トヨタのマルチパスウェイ戦略が正解だった」自動車アナリストが解説する2025年自動車業界の行方
世界の自動車産業は2024年に大混乱の時代を迎えている。GMの大規模リストラ、フォルクスワーゲンの労働問題、中国市場では新車販売の半分がバッテリーEVかプラグインハイブリッドに変わりつつある。そんな激動の中、2025年の自動車業界はどう動くのか?

Q. 2025年は自動車業界にとってどのような位置づけの年になりますか?
2025年は自動車業界にとって非常に重要な年になる。過去にも2000年や2010年など危機は何度も訪れたが、日本の自動車産業はその度に危機をバネに飛躍してきた。今回は中国の台頭やテスラのような新しいプレイヤーの存在感が増す中で、日本の自動車産業の競争力が問われている。
2024年から2025年にかけて、系統合やトヨタのSDV戦略など様々な取り組みが打ち出されるが、これらが世界の競争に刺さっていけるかどうかが、今後10年を見る上で極めて重要だ。過去は危機を乗り越えてきたが、今回はダメなのではないかという意見も多い。

Q. 2024年の自動車業界を振り返るとどのような出来事がありましたか?
2024年は世界の自動車産業が大混乱の年だった。最も大きな出来事は、バッテリーEVの需要が思ったほど普及しなかったことだ。特にアメリカでは需要が低迷し、在庫の投げ売り状態になった。
これに伴い、GMの大リストラ、フォルクスワーゲンの労働問題、ステランティスの社長の事実上の解任など、各社で大きなリストラや戦略の見直しが行われた。これらは全て、バッテリーEVが普及しなかったことが大きな波紋となっている。
多くの自動車メーカーは2020年以降、カーボンニュートラルに向けてバッテリーEVの普及を前提に企業構造や投資、開発を電気中心に転換しようとしていた。しかし実際には普及せず、ハイブリッドやプラグインハイブリッドなど内燃機関への投資を再び行う必要が生じている。
Q. 中国市場の状況はどうなっていますか?
中国市場は全く異なる状況にある。足元では新車販売の半分がバッテリーEVかプラグインハイブリッドに変わってきており、この傾向は今後も続くと予想される。中国では電気自動車への構造転換が進み、それがソフトウェアと結びついてSDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)として世界的な競争力を確立しつつある。
BYDだけでなく、理想汽車(リー)やアイト、リープモーターなど、新しい自動車メーカーが急速に成長している。これらの企業はものすごいスピードと価格で市場に攻め込んでおり、中国国内でシェアを奪われている日本メーカーは厳しい状況に置かれている。

Q. 日本メーカーの中でトヨタの状況はどうなっていますか?
トヨタは「マルチパスウェイ」という戦略で、バッテリーEVが早く普及しないことを前提とした戦略を立てていた。これが結果として正解だった。トヨタのマルチパスウェイプラットフォームは、今あるプラットフォームに電気もハイブリッドもプラグインハイブリッドも搭載できるようにし、今ある工場で生産する「汎用投資」の形を取っている。
一方、他社は「専用投資」としてバッテリーEV専用のプラットフォーム、専用の電池、それを作る専用の工場に投資するという戦略を進めていた。2024年はこの専用投資と汎用投資の戦略の分かれ目がどちらが優位かという審判が下りた年であり、汎用投資の価値が証明された。
トヨタは決算説明会でROE(株主資本利益率)20%のレベルを目指すと発言しており、これは「脱製造業」の方向性を示している。従来の売り切り型のビジネスではなく、SDVのようなサービスや継続課金型のビジネスに変わっていく方針だ。
Q. ホンダと日産の状況はどうですか?
ホンダはバッテリーEVで正面突破しようとしたが、環境が整わず戦略の転換を迫られている。アメリカでは電気自動車の販売が苦戦し、1000億円近いインセンティブの増加や在庫評価損が発生した。
日産は業績が急激に悪化しており、上半期の利益はコンセンサス(市場予想)を60%下回った。大幅な過去修正を実施し、固定費で3000億円、変動費で1000億円のリストラを計画している。
両社とも経営統合の道を模索しているが、これはバッテリーEVだけでなく伝統的な事業においても規模が必要になっているためだ。内燃機関への投資も必要となる「二重投資」の状況の中で、経営効率化のためのアライアンスが重要になっている。
Q. アメリカでバッテリーEVが売れなくなった理由は何ですか?
バッテリーEVは当初、富裕層を中心に売れていた。特に追加の車として2台目、3台目を購入する層に需要があった。しかし、そうした「アーリーアダプター」の需要が一巡してしまった。
また、消費者は実利主義者であり、バッテリーEVのメリットがまだ十分に感じられていない。充電の不便さや電池の性能への不安もあり、むしろハイブリッド車の方がメリットがあると認識され始めている。実際にアメリカではハイブリッド車が人気を集め始めている。
さらに、バッテリーEVの中古価格が下がり始めていることも影響している。現在アメリカでは、バッテリーEVを販売するために1台あたり1万2000ドル(約180万円)ものインセンティブ(値引き)を提供しており、売れば売るほど損失が出る状況になっている。

Q. 2025年に向けた日本の自動車産業の課題は何ですか?
最大の課題は、中国メーカーへの対抗策だ。中国では新しい自動車メーカーが急速に成長し、AIカーの時代を切り開く勢いがある。これに対抗するためには、ソフトウェアとバッテリーEVを結びつけるSDVの開発や、物づくり革新によるコスト削減が必要だ。
車の作り方も変革が求められている。アンダーボディとアッパーボディを分離し、モジュール構造で組み立てていく方式が今後の流れになるだろう。この製造革新が実現することで、「安くて便利で楽しい」車が作れるようになり、大多数の需要を取り込めるようになる。
また、為替リスクや関税問題など外部環境の変化にも対応していく必要がある。特にトランプ政権下でのアメリカの関税政策は日本メーカーにとって大きなリスク要因となる。
