Deep Interview
【玉木雄一郎に聞く、2025年の経済政策(前編)】103万円の壁はどこまで上がる?
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2024年12月28日

2024年後半の最注目テーマとなった「103万円の壁」。結局、どこまで壁は上がるのか?最終ゴールとして何を目指しているのか?そして、115兆円に上る予算をどうすれば削減できるのか?日本のムダはどこにあるのか?国民民主党の玉木雄一郎氏と、慶應義塾大学の中室牧子教授に議論してもらった。
【103万円の壁】最低でも140万円以上の控除額引き上げが可能?税制改革の深層とは
国民民主党の玉木雄一郎議員は「103万円の壁」問題をめぐる議論において、現在の控除額引き上げ案は不十分だと指摘。税制決定プロセスや減税の経済効果について解説した。今後の展望から、給付付き税額控除への道筋まで、経済政策の核心に迫る対談の内容を紹介する。

Q. 「103万円の壁」を123万円に引き上げる与党案について、どう評価していますか?
A. 「103万円の壁」の話は大きく2つあります。1つは、19歳から23歳の大学生を扶養している親に適用される特定扶養控除の問題です。これは150万円まで引き上げられることになり、一定の評価ができます。もう1つが本丸の「基礎控除等の引き上げ」で、我々国民民主党は178万円への引き上げを主張していました。
現在提案されている123万円への引き上げには、いくつかの問題があります。まず絶対額が小さく、わずか20万円の引き上げにとどまっています。その内訳も基礎控除10万円と給与所得控除10万円のパッケージですが、給与所得控除はサラリーマンにしか適用されません。しかも最低保障額だけを上げる形なので、満額の10万円控除が適用されるのは年収162万5千円までの方だけです。年収190万円以上のサラリーマンには、給与所得控除による減税効果はゼロとなります。
結局、多くの働く人にとって基礎控除の10万円だけが上がったことになりますが、所得税率5%ですから、実質的な減税額はたった5000円です。月額では400円程度で、今のキャベツ1個分にも満たない金額です。みずほリサーチ&テクノロジーが発表したデータによれば、2024年の物価上昇に伴う家計の負担増は約9万円です。インフレに対抗するためには、同等の減税が必要でしょう。
ただ評価できる点もあります。30年ぶりに控除額が引き上げられたことと、与党税制改正大綱に「特段の新たな財源確保措置を要請しない」と書かれている点です。これは減税にもかかわらず新たな財源措置が不要だということを政府・与党が認めたことを意味します。
Q. 今回の「123万円」は最終決定ではないのでしょうか?
A. これは「白いご飯」だと思います。まだトッピングが何もない状態で、これから何が乗るのかはこれからの議論次第です。
経緯を説明すると、自民党・公明党と国民民主党の幹事長・幹事長代理の合意で「国民民主党の主張する178万円を目指して来年からの引き上げを行う」ということになりました。裏話をすると、元々は「来年度に大幅に引き上げた上で178万円を目指す」という書き方だったのですが、123万円という数字はあくまで与党の中で決まった案であり、与党の案に過ぎません。
選挙後、少数与党となったことで、税制改正や政策決定のプロセスが大きく変わりました。以前は「リングの外」で物事が決まり、それがそのまま通っていましたが、今は国会で決めることになります。期限は2月末から3月初めの衆議院予算通過時なので、そこがもう一度主戦場になります。
一部では「古川税調会長が席を立たなければ140万円ぐらいの案が用意されていた」という話があります。これが本当だとすれば、103万円から約37万円の控除額引き上げまでは「新たな財源措置を要しない」ということになります。そこがスタートラインだと考えられます。
Q. これまでの税制決定プロセスはどうなっていたのですか?
A. これまでは自民党税調の「インナー」と呼ばれる内輪のグループがほぼすべてを決めていました。彼ら自身が「インナー」と自称していたことからも、オープンな時代にあえて内輪で決めていることを公言していたことが分かります。自民党の一般議員ですらそこには立ち入れませんでした。
我々がそれを引っ張り出したというより、国民が引っ張り出したのです。「代表なければ課税なし」という言葉があるように、課税は民主主義の原点です。自分たちの懐に関わることを国民の代表者のごく一部だけで決めるのはおかしいことです。今回は政策決定過程の正常化、本来あるべき姿に戻る過程だと思います。
ちなみに、政府税調はお飾り的なものでした。与党税制改正大綱が決まれば、それをそのまま政府税制改正大綱に書き換えるだけでした。これは長年続いてきた「お作法」であり、政府与党が一体化した日本独特の意思決定の一例です。
また、税制には多くの「特例措置」があり、特定の業界や企業だけに適用される時限措置が多数あります。それを延長してもらうために業界が議員のパーティー券を購入するという構図があり、「インナー」に入る議員は格段にパーティー券売上が上がるはずです。税調会長は大臣よりも権力があり、かつての山中貞則税調会長には小泉首相も頭を下げに行ったほどです。
Q. 「給付付き税額控除」とは何ですか?その実現可能性は?
A. 給付付き税額控除とは、一定以上の所得がある人には減税し、所得が少ない人には給付する仕組みです。私たちはこれを「日本型ベーシックインカム」と呼んでいます。所得に応じて減税と給付をシームレスにつなぐことで、働くインセンティブを阻害せず、かつ生活を支えることができます。
この制度を実現するには、マイナンバーで所得を把握する仕組み、場合によっては資産も把握する政策インフラが必要です。カナダ、アメリカ、イギリスなど多くの国ですでに導入されていますが、日本ではまだ実現していません。
日本で導入されない理由の一つは、消費税増税時の低所得者対策として「軽減税率」が選ばれ、給付付き税額控除が採用されなかったことがあります。また、マイナンバーに対する抵抗感も障壁となっています。しかし、コロナ禍での給付金支給の混乱を考えると、マイナンバーを活用した効率的な給付の仕組みは必要不可欠です。
現在は住民税非課税世帯という基準しか困窮者把握の手段がなく、これには65歳以上の高齢者が多く含まれる上、前年度の所得に基づくため、急な収入減に対応できないという問題があります。イギリスなどでは月次で国民の所得を把握する仕組みがあり、必要な時に迅速な支援ができます。
Q. 178万円への引き上げに必要な7.8兆円の財源はどこから確保するのですか?
A. 私は「財源がないから引き上げられない」という考え方自体を見直すべきだと思います。現在、インフレーションによって税収は6年連続で過去最高を更新しています。2020年の60.8兆円から2025年度には78.4兆円と、5年間で約18兆円増加しています。これは消費税率換算で約7%分の増税に相当します。
私たちが提案している178万円への引き上げで減収となる約7.6兆円は、言わば「7%の消費税増税相当分を3%減税して、実質4%程度の増税に抑える」という提案です。この7兆円を引いても71兆円の税収があり、これは2022年度程度の水準で、その時点で十分財政運営はできていました。
また、今年度は岸田政権の定額減税4兆円を実施しながらも過去最高の税収になっています。減税が経済成長を促し、結果的に税収を増やす可能性もあります。最近の研究では、従来考えられていたよりも減税の経済効果が大きい可能性が指摘されています。
最終的には、これまでの物価上昇で実質的な増税が続いていることを考慮し、そのペースを少し緩めることが重要です。それでも必要なら歳出の4%程度を見直すこともできるはずです。