TOP TALK
日立大改革で感じた、日本人の強みと弱み
(89)
6,084回視聴
2024年12月27日

タクシーという半プライベート空間を舞台に、PIVOT MC陣が企業トップへ独占インタビュー。普段とは違う環境の中で「会社の変革」「新サービスの開始」「新社長誕生」など、経営者の生の声を引き出す。 <ゲスト> ・東原敏昭|日立製作所 会長 1977年 日立製作所入社。 日立パワーヨーロッパ社プレジデ...
「潰れるほどの危機感がなければ変わらない」日本企業の集団思考を克服するには
日立製作所の改革は日本企業の模範となるのか。多様性を受け入れ、グローバル化を進める中で、集団的思考という日本特有の課題をどう乗り越えてきたのか。日立製作所会長の東原敏昭氏が語る、危機からの再生とこれからの展望。

Q. 日本企業は危機感がないと変わらないのでしょうか?
日本人には集団的思考が強すぎるという特質があります。戦争に走ったのも、バブル崩壊までの経済成長も、みんなが一つの方向に向かって進むのは得意です。しかし、その結果として少数の優れた個人の意見が消されてしまうという問題があります。
この体質がある限り、多様性の方向に進むのは難しいでしょう。日立が変わることができたのは、M&Aなどを通じて27万人の従業員のうち6割が外国人になったことが大きな財産になっています。この多様性が今後の成長にとって重要だと考えています。

Q. 日立のグローバル経営はどのように行われていますか?
現在、日立のグローバル事業は全体の60%を占めていますが、今後はさらに自立分散型のグローバル経営を進める必要があります。コロナ禍で各国が閉鎖され、地政学的リスクが高まる中、地域ごとにある程度サプライチェーンを独立させる形にしておかなければなりません。
アメリカ、ヨーロッパ、中国、アジア、日本という5つの地域に分け、それぞれが自立的に経営できる体制を構築しています。例えば、アメリカではトランプ大統領が「アメリカ生産」を重視することを見越して、メリーランド州に鉄道車両の工場を設立し、変電・変圧器の工場も作りました。アメリカ国内で閉じた形で生産できる体制を整えています。

Q. 分散型経営で難しい点は何ですか?
分散型経営であればあるほど、共通の考え方が重要になります。各地域で自由にビジネスを展開してもらうことは良いのですが、同じ考え方で進めなければ困ります。分散すればするほど、集中的なマインドセットが重要なのです。
そのため、Lumadaというプラットフォームを作り、世界中で共通して使える仕組みを構築しました。また、R&D、人事、調達機能などの共通機能も活用してもらっています。そして最も大事なのは企業理念です。日立のミッションとバリューには創業の精神を取り入れ、これは将来どんな事業を行っても変えないと決めています。
Q. 日立の人材戦略はどのように変わっていますか?
日本人はもっと人材の流動性を高める必要があります。私自身、47年間日立だけで働いてきましたが、それはもったいないことだと思います。そこで、アルムナイ制度を導入しました。若い世代を中心に、ベンチャー企業や外資系企業に挑戦する人材が増えています。
また、4〜5年経験を積んだ後、「やはり日立に戻りたい」という人も出てきています。同窓会制度を通じて状況を把握し、実力が伸びていれば再雇用する仕組みを作りました。人材の流動性が高まれば、日本全体の産業界が活性化すると考えています。
Q. 年功序列や終身雇用の文化はどうなっていますか?
かなり薄れてきましたが、まだ残っている部分もあります。現在はFA宣言のような制度を導入し、「今の部署よりこちらで働きたい」という希望を自由に出せるようにしています。手を挙げれば、自分の希望する職場に移れる体制になってきました。
また、例えば九州で家電部門に勤務している社員が、親の介護などで九州を離れられない場合、同じ地域のエレベーター部門など、グループ内での移動も増やしていきたいと考えています。
Q. 日立のガバナンス改革はどこまで進んでいますか?
現在12人の取締役のうち9名が社外取締役で、日立出身者は1名、あとは執行役である社長と会長だけです。指名委員会等設置会社として、指名委員会、監査委員会、報酬委員会の委員長はすべて社外取締役が務めています。
取締役会はガバナンスに主眼を置くべきだと考えており、私は会長ですが取締役会の議長は務めていません。執行側が将来を見据えて変革を進め、行き過ぎた場合は取締役会が是正するという形が理想的だと思います。
ただし、日立は鉄道、パワーグリッド、産業インフラなど多岐にわたる事業を展開しているため、社外取締役がすべてを理解するのは大変です。そこで、工場見学や勉強会を通じて理解を深めてもらっています。
Q. 日立の企業理念はどのように受け継がれていますか?
日立の企業理念は創業者・小平浪平の精神を受け継いでいます。ミッションとバリューには「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という創業の精神をそのまま取り入れました。
創業当時、5馬力のモーターを作る際には、みんなで議論しながら設計を進めました。設計思想が合わない人がいても、一度方向が決まればそれに従うという「和」の精神、お客様の前では嘘をつかないという「誠」の精神、失敗してもあきらめない「開拓精神」を大切にしてきました。
これらの理念を世界中の社員に理解してもらうため、茨城県の創業の地に「オリジンパーク」を作り、小平浪平の考え方を学ぶ場としています。興味深いのは、日本人よりも外国人社員の方が感動することが多いことです。なぜなら、創業の精神はまさにベンチャースピリットであり、チャレンジ精神に満ちているからです。

Q. 日立の今後の最大の課題は何ですか?
まず第一に、自立分散型のグローバル経営を確立し、どんな地政学的リスクがあってもそれぞれの地域できちんとビジネスができる体制を整えることです。例えば日本で直下型地震が起きても、他の地域で利益を出せる体制が必要です。
第二に、真のグローバルリーダーになるためには、競合他社の動向に反応するのではなく、2040年や2050年の社会をデザインし、その方向性を示せる企業になることです。
例えば、生成AIの活用によりデータセンターの電力使用量が増える一方で、2050年のカーボンニュートラルも実現しなければなりません。このような個別最適ではなく、全体を俯瞰したホリスティックなソリューションを提供できる企業が、真の社会イノベーション事業のリーダーになれると考えています。
Q. 日本企業の強みをどう生かすべきですか?
日本人の大切な強みとして「共感力」があります。人間は一人ではなく、常に相手がいるため、相手のことを考えながら結論を出していくという発想は日本人の良いところです。
欧米のMBAではトップダウンで決定することが美徳とされていますが、共感力を持ったチームワークも重要です。例えば、2023年のWBCで日本が優勝したのは、キャプテンを決めずに「みんながキャプテン」という考え方で、相手の気持ちを思いやる共感力を持ったチームワークがあったからだと思います。
日立が目指すのは、グローバルで戦える強い個人と、共感力のあるチーム作りの両立です。強い個人だけでなく、相手の気持ちやチームのことを考えながらチームワークを構築することが重要です。これからの日立は、日本の強みを生かし、弱みを抑え、海外の人たちの強みも活かした最高のチームになっていくでしょう。