
ホンダ・日産の経営統合、実現確率は60%
日産とホンダの厳しい舵取り:経営統合の課題と可能性
日産自動車とホンダの経営統合の話題が急浮上している。両社の合併は日本の自動車産業にとって大きな転換点となる可能性を秘めているが、その道のりには様々な障壁が存在する。ジャーナリストの井上久男氏に、この経営統合の見通しと課題について詳しく聞いた。

Q. 日産とホンダの経営統合について、現時点での成功確率をどう見ていますか?
統合に実際に行き着く確率は約60%程度だと考えている。この数字に明確な根拠があるわけではないが、大企業同士の経営統合は非常に難しいものだ。
実際、会見では内田社長が「統合を決定したものではない」と冒頭で強調していた。これは統合に向けて超えるべき山が数多くあることを示唆している。過去には、サントリーとキリン、三菱重工と日立製作所など大企業同士の統合交渉が破談になった例もある。
大企業の統合では企業文化の問題だけでなく、販売網や生産拠点の重複をどう調整するかという課題も大きい。立場としてはホンダが強いため主導権を握るだろうが、重複の解消方法については両社とも譲れない部分が出てくる可能性が高い。
Q. 日産はなぜ急にホンダとの統合に動いたのでしょうか?
この統合話は非常に急に浮上した。8月に競業について合意し、EV関連での協業と資本提携の可能性についても言及があった段階だった。しかし、その後日産の業績が急速に悪化し、状況が一変した。
背景には本田技研工業(ホンファイ)の影響がある。本田技研工業は直接日産に買収を打診したわけではないが、経済産業省や日産のメインバンクであるみずほ銀行に対して買収の意向を伝えていた。それが両社に伝わり、動きが加速したと見られる。
ホンダの立場から見れば、「将来結婚してもいいかなと思っている相手が他の男に取られるかもしれない」という状況で、「まだ結婚するのは早いと思っていたけれど、結婚に向けて話し合おう」という状態になったのではないか。
Q. 日産にとってホンダとの統合は唯一の選択肢ですか?
日産がホンダと統合しなければ、重大な経営危機を迎えることは間違いない。主導権はホンダ側に握られており、内田社長は「対等合併」「救済合併ではない」と強調していたが、それを強調すること自体が状況を物語っている。
まだ合併比率は決まっていないが、持ち株会社の社長をホンダから出すことや、取締役会の過半数をホンダが占めることなどが示されており、明らかにホンダが主導権を握っている。これは時価総額や収益に大きな差があることを考えれば当然のことだ。
Q. 日産の企業文化や社内の反応はどうなっていますか?
日産には高いプライドがある。内田社長は経営を俯瞰して日産の置かれた状況を理解し、ある程度観念しているだろうが、役員や幹部の中には「ホンダの軍門に下りたくない」という意見が出てくる可能性がある。
過去にルノーとの統合時も同様の反応があった。日産の経営状態が悪化していたにもかかわらず、「ルノーごとき」という反応を示す役員もいた。今回も同様の反応が起こりうると見ている。
自動車産業における歴史的な格という面では、日産の方が古くからの名門だ。日産は戦前から四輪事業を展開してきたが、ホンダの四輪事業は戦後からだ。日産は「日本産業」という新しい財閥組織の一員でもあった。もちろん現代ではそうした歴史は関係ないが、こだわる人もいる。
Q. 内田社長はこの統合をうまくリードできるでしょうか?
その点については懐疑的に見ている。内田社長は性格が良く優しい人だが、現在の厳しい経営状況では優しさだけでは乗り切れない。社内から「ホンダごとき」という声が出た時に、それをどう抑えられるかが重要だ。
実際、協業の初期段階でも、自動運転技術などについて「日産の方が進んでいる」「ホンダの言うことなど聞くな」といった声が上がり、逆にホンダ側も「特許は我々の方が多い」と主張するなど、技術者同士のプライドをかけた対立もあった。
ある日産OBは内田社長について「ゴーンは優れた外科医だったが、内田はやぶ医者に見える」と厳しい評価をしている。これは経営者として失格ではないかという批判に近い。12月初めの指名委員会では、内田社長の続投についても議論されたと聞いている。
Q. 日産を立て直すには誰がリーダーシップを取るべきですか?
現状では日産の内部から社長になれるような人材は見当たらない。外部から優秀な人材を招くことも一案だ。カルロス・ゴーンのように外部から来た人間の方が、日産の企業文化を変えやすいという側面もある。
日産は過去の経緯を断ち切り、一から出直すような改革が必要な状況にある。そうした場合、しがらみのない人を社長に据えることは有効だろう。
例えば、ホンファイのEV事業責任者は、かつて日産のナンバー3だった関潤氏だ。関氏は日産の内部事情を知りながら、外部でも経験を積み、経営者としての力量も高まっている。そのような人材がゴーンのような立場でリストラを実行するという可能性も考えられる。
ルノーでは現在、ルカ・デメオCEOが活躍しているように、海外の自動車メーカーから人材を招くことも選択肢の一つだ。ゴーンの件で外国人経営者に抵抗感を持つ人も多いだろうが、日産を立て直すために強烈なリーダーシップを持つ人材は必要不可欠だ。
Q. 今後の統合プロセスで注目すべきポイントは何ですか?
1月末頃に統合に向けた進捗状況が発表される見込みだ。その際、両社がどのようなニュアンスでアナウンスするかが重要になる。
特に日産のリストラ計画の具体的な内容が注目される。11月に方向性は示されたが、どの工場を縮小するのか、どの地域で何人削減するのかといった具体論がまだ示されていない。
カルロス・ゴーンのリバイバルプラン時には、村山工場の閉鎖や黒字化期限を明示し、達成できなければ責任を取ると明言するなど具体的なコミットメントがあった。そうした具体論と実行力が日産に求められている。
最終的な統合の結論は6月頃に出る予定だが、技術者同士の対立や重複部門の調整など、様々な課題が今後浮上するだろう。両社がお互いをリスペクトできるかどうかも成功の鍵を握る。
また、ホンダ側にも課題がある。ホンダの二輪事業部門からは「収益を日産に食われるのではないか」という懸念の声も上がっている。二輪事業と日産の事業でシナジーが生まれるかは不透明だ。
ホンダは比較的自由闊達な社風で、ボトムアップの文化を持つ企業だ。三部社長はトップダウン型を目指しているが、現場の声が強い企業文化の中で、統合への反対意見が強まれば、一致団結して新会社を作る機運が薄れる可能性もある。
Q. 長期的に見て、両社の統合は必要なのでしょうか?
将来を見据えれば、両社が統合することは合理的な選択だ。特に自動車産業がソフトウェア・ディファインド・ビークル(ソフトウェアで定義される車)の時代に向かう中、莫大な開発費用が必要になる。一社では負担が難しく、統合によってシナジーを生み出す必要がある。
数字的にも、ホンダと日産の研究開発投資を合わせればトヨタを上回るようになる。ソフトウェアを共通化することで規模のメリットも生まれ、投資回収が容易になる。
将来を見れば統合した方が良いが、足元では様々な利害関係が絡み合っている。合理性だけで企業は動かないという現実もある。