TOP TALK
5年で株価4倍。日立大復活の舞台裏【東原敏昭会長】
(89)
8,148回視聴
2024年12月20日

過去5年で株価は4倍。大企業復活の象徴と言われる日立製作所。倒産の危機からどう復活し、世界一を狙う企業へと脱皮できたのか?CEO、会長として“日立復活”へと導いた東原敏昭氏に「大企業病の克服」と「成長企業への脱皮」をテーマに話を聞いた。 <ゲスト> ・東原敏昭|日立製作所 会長 1977年 日立製...
大企業病を克服し時価総額4倍へ - 日立が実現した成長企業への脱皮
日立製作所の時価総額は5年間で約4倍に成長し、日本企業の中でトップクラスに躍り出た。この成功の背後には何があるのか。「有言実行」と「情報開示」を徹底し、世界一を目指した改革を推進してきた東原敏明会長に話を聞いた。

Q. 日立の時価総額が5年で約4倍になった理由は何ですか?
まず一つ目は「有言実行」です。改革すると言ったことを実行し、証明できたことが挙げられます。例えば、2006年に22社あった上場子会社を現在は0にしました。
二つ目は「世界一を目指した改革」です。日立の強みであるオペレーショナルテクノロジー(OT)とデジタルを強化するため、ABBからパワーグリッドを買収し、グローバルロジックというデザイン系エンジニアが多いエンジニアリング会社も買収しました。
三つ目は「情報開示」です。特にコロナ禍の2020年5月、不透明な状況でも徹底的に情報を開示しました。縦軸に事業体、横軸に地域を書き、各地域でのロックダウンの可能性や利益変動の可能性を詳しく開示しました。不透明な場合こそ徹底的に情報を出すことで、透明性が信頼を生むということを実感しました。

Q. 大企業病を克服するために、リーダーシップの連続性をどう保ちましたか?
日立では川村名誉会長から中西氏、私、そして小島氏と、一貫した戦略で動けています。これは「北極星(ポラリス)」があったからです。
川村氏から受け継いだのは「稼げる会社になりなさい」、中西氏からは「社会イノベーション事業で世界に売って出る」という2つの命題でした。この大きなポラリスが変わらなかったことが重要です。
また、2009年3月期に7873億円の赤字を出し、次に赤字が出ると潰れるかもしれないという危機感があったため、社内政治ではなく改革に集中せざるを得ない状況でした。

Q. 社内カンパニー制とビジネスユニット制、どう使い分けるべきですか?
使い分けるべきです。実態が見えない時は全部スクラップにして細かくする必要があります。その後、管理がしやすくなれば、もう少しグループ化した方が良いでしょう。改革のフェーズによって変えていくべきです。
2016年4月に社長兼CEOになった時、まずビジネスユニット制に変更し、各ビジネスユニットを毎月集めて細かく実態を聞きました。そうすると早く問題がわかり、早く手が打てます。
しかし数年経つと、2000億円規模のビジネスユニットが提案してくる買収案件が100億円、200億円と小さくなる現象が起きました。これではいけないと思い、似たビジネスユニットを集めて5つのグループにまとめ、各グループに副社長を置いて成長戦略を考えさせるように変更しました。
Q. 日本企業のCEOが改革するために細かいところまで踏み込むべきですか?
そう思います。2016年から2018年までの3年間は完全なトップダウンで改革を進めました。ただし、現場に精通していないと日本では反発を受けます。
私の場合、1977年に日立に入社して以来、30年以上は現場で働いてきました。鉄道の運行管理システムや火力発電所の工事、原子力発電所など、日立のインフラ事業の様々な部署を経験したため、現場で何が起きているかが手に取るようにわかります。
理論だけを言うのではなく、実際の経験に基づいて指摘すると、現場も納得します。ただし、トップダウンだけでは「やらされ感」が生まれるため、2018年以降は大きな判断はトップダウンでも、具体的な取り組みはボトムアップも取り入れるよう変えていきました。
Q. 上場子会社の整理はどのように進めたのですか?
上場子会社については「中途半端はやめた方がいい」というのが私の考えです。日立の上場子会社は51%程度の持ち株比率で、連結上は売上や営業利益には貢献しても、当期利益の半分近くは少数株主に流れていました。
しかし、日本企業の場合、経済合理性だけで切る入れることはできません。従業員のモチベーションや長年「日立」という名前を冠して一緒にやってきた歴史があります。そこで上場子会社の社長と一緒に議論し、「世界で生き残るためにはどうすべきか」という視点で検討しました。
例えば日立化成の場合、材料系を開発するのに大きな投資が必要ですが、日立グループ全体ではデジタル系への投資が優先され、材料系への投資が遅れがちでした。そこで「日立グループを離れて良いパートナーと組んだ方が世界に打って出られる」という議論をし、現在はレゾナックとして成長しています。
単に「出ていく」か「取り込む」かを決めるのではなく、従業員が将来に夢を持てるよう、その後の姿まで描いた上で判断することが重要です。
Q. M&Aでの成功の秘訣は何ですか?
企業間の「相性」が非常に重要です。経済合理性だけでなく、企業の価値観や進むべき方向性が共有できるかがポイントです。
例えばABBのパワーグリッド買収は、ダボス会議でCEOと直接会話したことがきっかけでした。ABBは産業系に注力したいと考え、パワーグリッド部門の売却を検討していました。
また、相手企業との歴史的な共通点も重要です。パワーグリッドのルーツはスウェーデンのルトビカ工場で1900年に設立されましたが、この工場は近くの銅鉱山の電気品を提供するために作られました。一方、日立も1910年の創業で、茨城県日立市の日立鉱山(銅鉱山)の電気品を扱うことから始まりました。このような歴史的な共通点やCEO同士のケミストリーがM&A成功の大きな要素となりました。

Q. グローバルなコミュニケーション力をどのように身につけましたか?
特別なスキルはないですが、歴史を学び、哲学を学び、多くの本を読むことが重要だと思います。また、世界中を回り、様々な地域の人と対話することも大切です。
例えば最近フィンランドとポーランド、サウジアラビアを訪問しましたが、フィンランドでは国民一人ひとりが社会に対して何ができるかという主体性を持っていることに感銘を受けました。人口560万人の小国ながら、ロシアとの国境問題に対して迅速にNATO加盟を決めたのは、国民の意見がまとまるのが早かったからです。
世界中の人はそれぞれの地域で文化や宗教が異なります。日本人の考えを一旦置いて、相手を理解してから対話することが重要です。そのためにも様々な国の歴史や文化を知ることが大切だと考えています。
Q. 日本企業の国際競争力を高めるために必要なことは何ですか?
日本は集団的思考が強すぎるため、少数の良い個人の意見が消されてしまう傾向があります。この体質がある限り、多様性の方向に進むことは難しいでしょう。
ただし、日本人の持つ「共感力」という強みは忘れてはいけません。グローバルで戦える強い個人と、共感力のあるチーム作りを組み合わせた形を作り上げることが必要です。
自立分散型のグローバル経営を確立し、全体を俯瞰して社会課題を解決するソリューションを提供する。そうすることで、世界の社会イノベーション事業のリーダーとして認められる会社になりたいと考えています。