
最新解説COP29。停滞する気候変動交渉
COP29の舞台裏と世界のエネルギー政策の転換点
気候変動問題に関する国際会議COP29が開催され、世界各国が資金支援やCO2削減に関する交渉を行った。最新の会議から見えてきた問題点と今後の世界のエネルギー政策の行方について、国際環境経済研究所の竹内純子氏に詳しく聞いた。

Q. COP29はどこで開催され、どのような特徴がありましたか?
今年の国連気候変動協議会議(COP29)はアゼルバイジャンで開催された。アゼルバイジャンは人口1,000万人強の小さな国で、石油や天然ガスを産出する産油国である。興味深いことに、土から天然ガスが滲み出て燃えている「ヤナルダク(燃える山)」という場所もある。
実は最近のCOPは産油国・産ガス国が議長国を務めることが続いており、前回はドバイ、その前はエジプトだった。国連の気候変動交渉は、石油や天然ガス、石炭といった化石燃料の利用をいかに減らしていくかという会議なのに、産油国が議長を務めるという皮肉な状況が続いている。
今回も参加者は5万人と史上2番目の多さを記録した。COPはもはや見本市的な側面も強く、各国がブースを出して技術を展示したり、様々なイベントを開催したりしている。
Q. 今回のCOPで最も注目されたポイントは何ですか?
気候変動問題に関するCOPでは、CO2をどう減らすかという議論も行われるが、最も注目を集めているのは実は「資金」の問題だ。今まで先進国は途上国に対して年間1,000億ドルの資金支援を「モービライズ(動員)」することが義務付けられていた。
しかし今回、途上国側から求められる金額は「ビリオン(10億)」ではなく「トリリオン(1兆)」の桁に上げるよう要求された。これはもはや桁違いの要求で、先進国側が飲めるレベルではない。最終的には3,000億ドル(現在の3倍)という金額で合意したが、これも現実的に達成可能かどうか疑問視されている。
特に問題なのは、トランプ政権下のアメリカからの資金支援が期待できないこと。結果的に日本とEUなど少数の国で巨額の資金を負担しなければならなくなる可能性が高い。

Q. 欧州の経済状況は気候変動政策にどのような影響を与えていますか?
欧州の経済状況の悪化が気候変動政策に大きな影響を与えている。2024年9月に元イタリア首相のドラギ氏が「ドラギレポート」を発表し、EUが取り組むべき課題としてイノベーションの促進、エネルギー価格高騰への対応、地政学的危機への対応を挙げた。
これまで欧州は特に気候変動対策を重視してきたが、エネルギーの安定供給や経済性といった他の要素も同様に重要だと認識し始めている。実際、欧州では大規模なレイオフが相次いでおり、フォーチュン500に入っているドイツ企業だけでも今年6万人を超える人員削減が発表された。
特に自動車部品や自動車関連企業の人員削減が目立つ。また、エネルギー企業も以前は化石燃料関連の人員を削減していたが、最近では再生可能エネルギーや水素関連の人員削減も進んでいる。「グリーンで儲ける」「グリーンで経済成長する」という戦略がうまく機能していないことの表れだ。

Q. 気候変動対策における技術の多様化について、どのような変化がありますか?
COP28あたりから、CO2削減のための技術に対して「中立」であるべきという考え方が重視されるようになってきた。以前は再生可能エネルギー中心の議論が多かったが、原子力やCO2を回収・貯留する技術(CCUS)、低排出車両や低炭素水素など、様々な技術を認めていく流れになってきている。
原子力に関しては、世界の原子力発電の設備容量を3倍に増加させようという閣僚宣言に賛同する国が増え、COP29では31カ国になった。大手テクノロジー企業が原子力発電所を再稼働させたり、小型モジュール炉(SMR)といった新技術に投資したりする動きも出てきている。
例えばMicrosoftは、かつて事故を起こしたスリーマイル島の1号機(事故を起こしたのは2号機)を再稼働させ、20年間その電力を買い取る契約を結んだ。これは大きな転換点と言える。
Q. COP交渉の今後の行方についてどう見ていますか?
COP交渉は行き詰まりつつあり、G7やG20など他の国際的な枠組みの重要性が高まっている。過去にもCOP15(コペンハーゲン)が大失敗したときに同様の議論があったが、結局「全ての国が関わっていることに価値がある」としてCOP交渉は続いてきた。
また、気候変動問題はジェンダーや少数民族の権利、生物多様性など他の社会課題とも繋がりを持ち、範囲が広がってきている。しかし、気候変動枠組みは「途上国が権利として先進国にお金を要求できる」という点で確立されているため、この枠組みが他のテーマに取って代わられることはないだろう。
今後数年間は「先進国はいくら出すのか」「全然できていない」と批判され続ける厳しい状況が続くと予想される。特にトランプ政権の4年間は停滞が予想されるが、前回アメリカが離脱した際のようなドミノ倒し的な離脱は起きなかった。ただし今回はアルゼンチンなど一部の国がトランプ政権に同調する動きを見せており、懸念材料となっている。

Q. 日本のグリーントランスフォーメーション(GX)戦略とは何ですか?
日本は今後エネルギー基本計画と「GX 2040ビジョン」を定め、エネルギー政策だけでなく産業政策としても展開していく方針だ。これは単にCO2を減らすという環境面だけでなく、エネルギーを安定的かつ安価に確保して経済成長につなげるという戦略的な考え方だ。
今後10年で官民合わせて150兆円規模の投資を行う計画で、政府の役割は技術や意欲を持った人々が報われる土俵を整えることだと考えられている。
