
菊池雄星選手に聞く、メジャーリーグ最前線
メジャーリーガー・菊池雄星が明かす成功のカギ
メジャーリーグのマウンドで活躍する菊池雄星選手。セブンライオンズから2019年にメジャーリーグに挑戦し、2021年にはオールスターに選出。マリナーズ、ブルージェイズ、アストロズを経て、現在はエンゼルスへの移籍が決まったばかりだ。そんな菊池選手が語る、メジャーリーグでの進化と成功の秘訣、そして日米の野球の違いとは。

Q. アストロズでの大きな進化のポイントは何だったのですか?
アストロズに移籍して初日、監督やコーチ、データ分析の担当者とミーティングがありました。そこで投球の割合と投げる場所の変更を指示されました。具体的には「バッターはストレートを待っているから、ストレートの割合を減らしてください」と言われたのです。私は三振を取れる自信からストレートにこだわっていましたが、大リーガーは99%ストレートを待っています。待っているボールを投げれば打たれるのは当然で、自分が投げたいボールより相手が待っていないボールを投げることが重要だと気づきました。
Q. データ分析の重要性についてどう考えていますか?
野球において最後に大事なのは「目」だと思います。感覚で勝負することは大切で、ピッチングコーチも同じ考えです。ただ、アメリカではデータも知っていて目も大事にする、あるいはデータに特化していても目にも自信がある、という両方を備えていることがコーチの最低条件になっています。日本では、どうしても感覚だけに偏ってしまう傾向があります。
Q. メジャーリーグのバッターの対応力はどうですか?
レギュラークラスの選手は同じミスを二度としません。1打席目と2打席目でも素早く調整してきます。メジャーリーガーはよく「ベースボール・イズ・ハード(野球は難しい)」と言います。ベテランになればなるほど「野球はわからない」と言うんです。今年良くても来年同じことをしたら全く良くないこともある。そういう調整を繰り返すことが重要で、それがレベルの高さを表しています。

Q. 日々のミーティングはどのように行われますか?
毎日約1時間のチームミーティングがあり、さらに個別で1時間ほど追加ミーティングもあります。「このカウントでは80%の確率でこのボールが来るから狙いなさい」とか、「ストライクを取った後はフォークが来るよ」など、具体的な指示が出ます。また、相手選手の癖を研究するミーティングにも多くの時間を費やします。
Q. 試合前の準備はどうしていますか?
投球前日には、自分が先発で投げる試合を3回イメージトレーニングします。相手打者のデータを見て、初回から自分が投げているイメージを3回繰り返します。基本的には直感に従って投げますが、迷った時にはデータを信じるようにしています。迷ったら直感に従えと言いますが、迷った時点で直感ではないので、基本的には直感で「こうする」と思ったものを投げ、迷った時にデータを頼れるようにしています。
Q. 日米のフィジカル面での違いはありますか?
最も大きな違いは筋肉量です。除脂肪体重が日本選手と比べて約5kg違います。これはサラダチキン50枚分に相当します。努力だけでは埋められない部分もありますが、日本人は「日本人だから」と意識しすぎていると感じます。アメリカでは体型に関わらず全員がトレーニングの重要性を認識しています。細く見える選手でも服を脱ぐと筋肉がついているんです。これからは特に野手として戦う選手にとって筋肉量が重要になってくるでしょう。

Q. メンタル面でのアプローチはどうしていますか?
30のMLBチームすべてにメンタルトレーナーが1チームあたり3人ほどいて、メンタルと向き合う時間を非常に大切にしています。日本ではメンタルが弱い選手がそういう場所に行くというイメージがありますが、アメリカでは投球後すぐにメンタルトレーナーと話をして次に向かうプロセスを実践しています。瞑想も当たり前になっており、試合前に真っ暗な部屋で全員で瞑想するチームもあります。
Q. プレッシャーとの向き合い方は?
プレッシャーや批判に強いわけではなく、むしろ弱いからこそ見ないようにしています。最高のパフォーマンス状態(ゾーン)に入ることを阻害する最大の要因は「他人の目」だと思います。「あの人に怒られたらどうしよう」「ファンにブーイングされたらどうしよう」と思っている時は絶対にゾーンに入れません。そのため、ソーシャルメディアや自分のニュースを一切見ないようにしています。自分の名前で検索すれば汚い言葉も出てくるので、そういう「お化け屋敷」に入る必要はないと考えています。

Q. コンディショニングで最も重視していることは何ですか?
間違いなく睡眠です。次に栄養。睡眠を取ることを軸にしてスケジュールを組んでいます。8-9時間の睡眠を確保するようにしています。栄養面では血糖値のスパイクを抑えるために玄米を食べたり、MCTオイルを取り入れたりしています。また、アメリカの食事は食物繊維が不足しがちなので、野菜をしっかり摂るなど腸内環境を整えることも意識しています。
Q. 新しいことを取り入れる際のバランスはどうしていますか?
8対2の法則を意識しています。8割は今まで通りのことをやりながら、2割を新しいことに充てます。良ければその新しいことを8割の中に入れて、また新しい2割を考える。このバランスが大事です。5対5のように新しいことをたくさん取り入れすぎると、何が良くなった原因かわからなくなってしまいます。栄養なのかトレーニングなのか、ピンボケしてしまうので、少しずつ毎年取り入れています。
Q. カフェインの活用法は?
カフェインにはプラスの効果がたくさんありますが、私は依存しないようにしています。常に摂り続けると内臓の疲労も溜まるので、「ここぞ」という時だけ使うようにしています。試合前は逆に興奮してしまうので必要ありませんが、練習日や移動で睡眠不足の時に飲むと2-3時間集中できます。最初の1週間くらいは禁断症状が出ましたが、慣れてくると適材適所で取れるようになりました。
Q. 目標設定についてどのように考えていますか?
私は40歳までメジャーリーグでプレーし、50歳まで日本でプレーしたいという目標を持っています。ただ、目標に縛られすぎないことも大切です。以前はマンダラチャートなどを書いていましたが、「書かなければならない」という考えにとらわれていた自分がいたので、最近はやめました。その代わり、朝と夜に瞑想をして自分を内観することで自己と向き合っています。
