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日本の医療制度をどう変えるべきか?
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2024年11月27日

今、勤務医の世界で何が起きているのか?直美(チョクビ)とは何なのか?日米での勤務経験がある国際医療福祉大学の志賀隆教授、産業医の大室正志氏に、勤務医キャリアのリアルと、日米の医療制度の違いを語ってもらった。
「医師の手取りを増やそう」―医療制度改革への処方箋
日本の医療制度は岐路に立っている。大学病院の衰退は医療イノベーションの停滞を招き、日本の医療費が海外へ流出する構造的問題を抱えている。専門医の不足、勤務医の待遇問題、そして混合診療のあり方など、解決すべき課題は山積みだ。

Q. 日本の大学病院が衰退すると、どのような問題が生じますか?
日本の大学病院が衰退すると、薬品や医療機器の開発能力が低下し、それらを海外から輸入せざるを得なくなる。医療は社会保障と税金で成り立っているため、結果的に日本人が支払った税金や社会保障費が海外に流出する構造となる。
例えば、カテーテル的大動脈弁置換術で使用される人工弁は465万円程度だが、この手術による病院の収入は全体の1割程度で、ほとんどがアメリカに流出している。大学病院で頑張る研究者や医師がいなくなれば、こうした医療機器の国内開発がさらに難しくなり、海外依存が強まる。
Q. オーストラリアの医療制度は日本と比べてどのような違いがありますか?
オーストラリアは「1階建て」と「2階建て」の医療保険制度を採用している。1階建ては日本のような公的保険で、命に関わる疾患や癌、救急などをカバーする。2階建ては民間保険で、複雑なアレルギー検査や眼科系の手術などをカバーする。
GDP比の医療費はおよそ10%で、日本より少し多いがアメリカほど高くない。この制度により、必要不可欠な医療はすべての人が受けられる一方、民間保険に入っている人は待ち時間が短縮されるなどの特典がある。これは「ファーストパス」と呼ばれ、テーマパークの優先入場券のような仕組みだ。
この制度のおかげで、オーストラリアは医師の流出が少なく、むしろ海外から医師が集まる状況になっている。一方、日本は医師の美容医療への転向や海外流出が問題となっている。
Q. なぜ日本はオーストラリア型の制度を導入しないのですか?
日本がオーストラリア型の制度を導入しない理由はいくつかある。まず、「混合診療」の問題がある。どこまでが最低限の医療で、どこからが追加的なサービスなのかという線引きが難しい。また、医療費の総額が増えることへの懸念もある。
さらに政治的な背景として、日本医師会の存在がある。医師会は主に開業医の団体で、政治的な影響力を持っている。開業医にとっては患者が頻繁に来院する現在の出来高払い制度が経済的にメリットがあるため、制度改革に消極的な面がある。
Q. 日本の医療制度の問題点は何ですか?
日本の医療制度の問題点の一つは、医師の診療に対する支払い方法にある。日本は「出来高払い」制度を採用しており、患者が来院するたびに、検査や処置をするたびに報酬が発生する。そのため、軽微な症状でも頻繁に来院することが奨励される構造になっている。
これに対し、イギリスなどでは「人頭払い」(キャピテーション)という制度があり、医師は担当する患者数に応じて年間の報酬が決まる。この場合、患者が必要以上に来院したり検査したりすると、開業医の収益が減るため、必要な場合のみ来院するよう促される。
また、日本では診療科や専門性によらず、勤務医の給与が卒後年数でほぼ同じになる傾向がある。命に関わる高度な外科手術を行う医師も、比較的負担の少ない診療を行う医師も給与差がほとんどないため、若い医師が外科など負担の大きい診療科を避ける傾向が強まっている。
Q. 医療費を抑えながら医師の待遇を改善するには、どうすればよいですか?
医療費を抑えながら医師の待遇を改善するためには、いくつかの改革が必要だ。
1. オーストラリアのような2階建て保険制度の導入を検討する。基本的な医療は公的保険でカバーし、それ以上のサービスは民間保険や自己負担とする。
2. 人頭払い制度を導入し、患者が必要以上に受診するインセンティブを減らす。日本ではすでに小児科で年間契約型の支払い方法が一部始まっている。
3. 命に直結する領域の診療報酬を上げ、そうでない領域は適正化する。例えば、外科手術や救急医療などの報酬を上げれば、外科医や救急医の給与も上がり、なり手が増える可能性がある。
4. 医療資源の共有を促進する。アメリカではファミリードクター(家庭医)が大病院のCTやMRIを借りて使用することがあるが、日本では各医院が高額な医療機器を個別に所有する傾向がある。
Q. 医師会の政治的影響力はどの程度あるのですか?
医師会は政治的影響力が強い団体として知られている。日本の医師の約3割が所属する開業医中心の団体だが、組織力があり政治的に強い発言力を持つ。特に自民党との関係が深いとされる。
一方、勤務医は医師全体の60%以上を占めるが、組織的にまとまっておらず、政治的な発言力は弱い。さらに、勤務医の中でも診療科ごとの利害が異なり、共通の主張を形成しにくい状況がある。
政治家にとっては、組織力のある医師会との関係を重視する傾向があるため、勤務医の待遇改善や医療制度改革が進みにくい状況がある。
Q. 勤務医の現状はどうなっていますか?
勤務医は長時間労働や低い報酬などの厳しい労働環境に直面している。例えば、夏休みがわずか数日間しかないケースもある。また、高度な専門性を持ち命に関わる手術を行う医師でも、それに見合った報酬を得られていないことが多い。
アメリカでは急な欠員が出た場合、時給120ドル(9時間で約16万円)といった条件で医師を募集することもあるが、日本の当直料は2〜3万円程度という低水準にとどまっている。
こうした状況から、若い医師の中には美容医療など比較的待遇の良い分野や、海外への転出を選ぶ人も増えている。特に外科などの負担の大きい診療科は医師不足が深刻化している。
Q. 医療制度改革を実現するためには何が必要ですか?
医療制度改革を実現するためには、政治的なアプローチが重要だ。特に、開業医と勤務医のバランスを考慮した政策が求められる。
「命に直結する領域にお金を配分し、そうでない領域は適正化する」という総論では多くの人が賛成するが、実際に報酬が減る領域からは反発が起きるため、政治的な調整が難しい。
これまでの改革議論は「高齢者の医療費を削減する」というネガティブな文脈で語られることが多かったが、「医師の手取りを増やそう」というポジティブな視点で議論を進める方が、若い世代の支持を得やすい可能性がある。
また、勤務医自身がSNSなどを通じて現状を発信し、国民の理解を得ることも重要だ。開業医が少数でも組織力があるように、勤務医も団結して声を上げることが必要だ。