
給料を上げる4つの方法。低賃金カルテルを潰せ
6,466回視聴
2024年11月12日
「国民民主党の減税案の効果は怪しい」と主張するデービッド・アトキンソン氏。玉木流減税案の問題点はどこにあるのか?本当に手取りを増やすにはどうすればいいか?給料を上げる4つの方法と合わせて、アトキンソン氏に聞いた。
日本の賃金アップへの道筋 - デービッド・アトキンソンが語る「低賃金カルテル」の実態
日本経済における賃金問題の核心に迫る対談から、デービッド・アトキンソン氏が指摘する日本企業の「低賃金カルテル」の実態と、個人ができる賃金アップの方法について解説します。なぜ日本の労働者は賃金交渉をしないのか、そして企業の「定昇緩和方式」とは何か。データ不足が政策議論を曖昧にしている現状も明らかになります。

Q. 日本の賃金上昇のサイクルを生み出すために個人ができることは何ですか?
転職するのが一番有効です。給料を上げる方法は主に4つあります。「移住する」「転職する」「給与交渉する」「起業する」の選択肢があります。
海外に移住する人は激増しています。特に優秀な日本人女性が多く、国内では能力が活かされない環境から脱却するために海外へ行く傾向があります。
しかし、海外移住はできる人が限られているため、現実的には給与交渉か転職が主な選択肢になります。交渉を嫌がる人が多いですが、不満を示さなければ翌年の給与にも影響しません。経営者としては、お金を欲しいという意思表示がない限り「満足しているのだろう」と考えてしまいます。
Q. なぜ日本人は給与アップを求めないのでしょうか?
世界的に見ても日本人の特徴として、賃上げを求めたことがない人の比率は70%と突出しています。対して中国では求めない人はわずか5%、つまり95%の人が賃上げを求めています。
デンマークで高い割合になっているのは労働組合が強いからです。アメリカでは賃上げを求める割合が30%未満ですが、これは言わずに転職してしまうからです。アメリカでは転職する人の3分の1しか引き止められておらず、自発的な転職が非常に多い状況です。
つまり、給料交渉という文化を作り、それでも合わなければ転職するというのが当たり前になるべきです。
Q. 日本の経営者はどのような賃金システムを構築してきたのですか?
日本の経営者は「定昇緩和方式」を取ってきました。上位企業はもっと給料を払える余裕があるのに、人材確保のために競争せず、業界全体で賃金を抑える「低賃金カルテル」のような状態を作ってきました。
転職者に対しても「転職はダメ」という風潮を作り、外れた人は最低賃金に行くしかないというカルテルを形成してきました。人口が増加していた時代は、どんな条件でも雇ってもらえる方がよいという考えが支配的でした。
大企業の労働分配率は世界で最も低く、50%を切っています。本来、企業は十分な支払い能力があるのに、この低賃金カルテルが存在しているのです。
Q. 最低賃金引き上げに対する経営者団体の反対論についてどう考えますか?
経営者団体の主張は悪質です。最低賃金引き上げに対応できない企業はごく一部なのに、全体が対応できないかのように主張しています。
日本には約360万社の中小企業があり、最低賃金を十分に支払える企業もあれば困難な企業もあります。問題は、困難な一部の企業のエピソードを一般化し、全体の議論に使っていることです。
なぜ70%の日本人労働者が、能力のないごく一部の企業のために犠牲にならなければならないのでしょうか。現実を直視する必要があります。
Q. 経営者は本当に利益がないと主張していますが、実態はどうですか?
実は多くの中小企業経営者は「経費使い」をしていて、形だけの赤字決算になっていることがあります。本来、日本企業の7割は黒字なはずですが、経費を使いこなして赤字に見せかけている企業が5割ほどあると考えられます。
海外では外資系企業が最も売れる顧客は中小企業の社長だと言われています。会社の費用で車を借りたりするなど、様々なテクニックを使っています。
そうした経営者が「最低賃金5%アップは無理」と言っても説得力がありません。ごく一部の対応困難な企業のエピソードを全体に一般化しているだけです。
Q. 日本の政策議論になぜデータやエビデンスが不足しているのですか?
日本の議論では、正論を潰すための反論用データポイントを持ち出すことが多いです。例えば「平均身長が170cmだ」という事実に対して「私の友達に190cmの人がいるから170cmはありえない」と言うようなものです。
政治家はデータに基づく議論を嫌う傾向があります。なぜなら、データとデータのぶつかり合いになると、権力者の采配の幅が狭まるからです。具体的な数字よりも、大きな物語やコンセプトで語った方が権力を維持しやすいのです。
さらに日本には独立したシンクタンクがほとんどなく、マクロ経済モデルも不十分です。データがないからモデルができず、モデルがないからデータが集まらないという悪循環に陥っています。
Q. 外国人労働者の受け入れ拡大についてはどう考えますか?
経営者団体は安くこき使える人が減っているので、外国人労働者を増やしてほしいと言っていますが、私はそれに反対です。現在の低所得に適応しているような企業を存続させるために、外国人の安い労働力を入れるのは問題です。
これはダメな経営者を甘やかすことになり、日本人労働者の賃金にも悪影響を与えます。必要最低限の受け入れはあるかもしれませんが、基本的には転職を増やして、「この賃金では日本人も外国人も働かない」という状況を作り、経営者の考え方を変えさせるべきです。
Q. 新卒一括採用の横並び給与もカルテルではないですか?
その通りです。大学院卒と学部卒の給与がほとんど同じであるなど、個々の学生の能力差を無視した前提で給与を決めてきました。これは経営者にとって「経済天国」でした。
外資系企業やスタートアップ企業がこの状況に変化をもたらしています。例えば国内証券会社では400-500万円の給与だったところに、外資系が入ってきて2000万円払うようになると、給与水準に変化が生まれます。
不思議なことに、400-500万円しか払わない企業は「利益がない」と言い、2000万円払っても利益を出している企業があるという矛盾が生じています。
Q. エビデンスに基づく政策立案のために何が必要ですか?
エビデンスベースのポリシーメイキングが必要です。政策のコンセプトを全てデータに落とし込み、検証できる形にすべきです。
しかし、日本ではデジタル化が進んでおらず、経済モデル作成のための業界も育っていません。本格的な経済モデルを作るには膨大な費用がかかり、データ収集やAI活用、経済学者の参加も必要です。
そうした投資により業界が育つという好循環を生み出せますが、現状ではそれができていないため、政策効果の検証ができない状況です。
Q. 今後の展望はどうなりますか?
個人レベルでは給与交渉と転職が重要です。給与交渉の文化を定着させることで、賃金上昇の可能性が高まります。日本人は「賃金は上げてもらうもの」という受け身の発想を持っていますが、自ら働きかける必要があります。
政策レベルでは、エビデンスに基づく議論を増やし、データを整備して政策効果を検証できる仕組みを作ることが重要です。そのためには独立したシンクタンクの育成やデータ収集の仕組み作りが必要になります。
最低賃金の引き上げは、低賃金カルテルを打破する一つの手段として有効です。大企業が賃金を上げれば、中小企業も競争のために賃金を上げざるを得なくなり、好循環が生まれる可能性があります。
