
賃上げのための具体策
実質賃金はなぜ上がらない?日本経済の明るい未来への道のり
給料は上がっているのに物価も上がり、実質的な豊かさを実感できない——。そんな状況が続く日本経済において、賃金上昇の阻害要因や、政府の取り組み、そして私たちの働き方の変化について、経済専門家が解説します。

Q. 日本の賃金が上がらない理由は?
日本の労働生産性は先進国の中でも低い水準にあります。企業が稼ぐ力が弱いため、賃金も上がりにくい構造になっています。また、日本企業は「良いものを安く売る」ことを重視する傾向があり、利益率が低くなりがちです。
さらに、日本独特の働き方も要因の一つです。多くの日本人は真面目に長時間働いていますが、社内調整や社内政治など、実際の生産や売上に直結しない業務に時間を費やしているケースが少なくありません。こうした非効率な働き方が労働生産性の低さに繋がっています。
また、新卒一括採用、年功序列賃金、終身雇用という日本型雇用システムも、賃金上昇を妨げる要因です。欧米では転職を通じて自ら賃金を上げていく文化がありますが、日本では「普通に働けば自然に給料が上がる」という期待が根強く、自ら積極的に賃金を上げていくマインドが育ちにくい環境があります。
Q. 日本政府はどのような取り組みをしているのか?
政府は賃金引き上げによる経済の好循環を作り出すことを重要な政策方針としています。具体的な取り組みとしては以下の三つが挙げられます。
1. リスキリングの推進:労働者のスキルアップを支援し、労働生産性を高めることで、賃金上昇につなげようとしています。特にAIやデジタル人材の育成に力を入れています。
2. スタートアップ支援:大企業での賃金上昇が期待できない人でも、起業することで直接的に高い所得を得られる可能性を広げる政策です。
3. 企業への働きかけ:賃上げを行う企業への税制優遇などを通じて、企業の賃上げを促進しています。
ただし、政府が直接賃金を決定することはできないため、これらの政策は間接的なアプローチにならざるを得ません。実際に賃金を決めるのは各企業であり、政府はその方向性を誘導する役割に留まります。
Q. 地方での賃金上昇成功事例はあるのか?
興味深いことに、全国的に実質賃金が下落傾向にある中でも、プラスに転じている地域があります。昨年のデータでは、群馬県と大分県の2県が実質賃金プラスを達成しました。
両県に共通しているのは、地元自治体が賃上げした企業に補助金を出す取り組みを行っていることです。政府も賃上げ企業優遇税制を実施していますが、税制優遇は赤字企業には恩恵が少ない一方、補助金は赤字企業にも直接支援ができるため、より広範囲に効果があったと考えられます。
特に群馬県の事例は注目に値します。スバルが60年ぶりに国内工場を新設したことや、コストコの進出など、「外圧」による賃金上昇効果が見られました。コストコは時給1500円というレベルで人材を採用し始めたため、周辺企業も賃金を引き上げざるを得ない状況が生まれました。また、本社機能の誘致にも成功し、経済活性化と賃金上昇の好循環が生まれています。
Q. 日本経済に明るい未来はあるのか?
確かに現状では賃金上昇を実感しにくい状況ですが、いくつかの理由から将来に対して希望を持つこともできます。
若い世代の価値観と働き方の変化が重要なポイントです。かつての「就社」という考え方から、「就職」という本来の意味での働き方へと変化しており、転職が当たり前になりつつあります。こうした労働市場の流動性の高まりは、中長期的には賃金上昇につながると予想されます。
また、人口減少により労働需給が引き締まり、労働者の立場が強くなる可能性もあります。グローバルで稼ぐ企業も増えてきていることから、賃金形成の基礎的な要素は今後良くなる見込みです。
さらに、デジタル化やリモートワークの普及により、働き方の選択肢が増えています。日本にいながら海外企業と契約して働いたり、複数の仕事を掛け持ちしたりと、自分の価値に見合った報酬を得る機会が広がっています。
Q. 個人ができることは何か?
自ら能動的に賃金を上げていく姿勢が重要です。かつては考えられなかったような「隙間バイト」でも収入を得られるようになり、週休4日制の正社員といった多様な働き方も生まれています。自分のスキルを高め、それを適切に評価してくれる環境を積極的に選んでいくことが大切です。
また、リスキリングを通じて自分の市場価値を高めることも効果的です。特にAIやデジタル関連のスキルは、今後ますます需要が高まるでしょう。
企業側も従業員の待遇に目を向ける必要性が高まっています。これまでは株主などに重点を置いていた企業も、人材確保のために賃金や労働環境の改善に取り組まざるを得なくなってきています。
日本の労働市場や賃金環境は、ゆっくりではありますが確実に変化しています。世代が変わり、働き方が多様化する中で、より良い選択肢を見つけるチャンスは増えていると言えるでしょう。
