
ウクライナ戦争に学んだ5つの教訓:前編
テレ東WBSキャスターに聞く「ウクライナ戦争の現在地と世界の動き」
ロシアによるウクライナ侵攻から2年以上が経過した今、戦争は長期化の様相を呈している。なぜロシア経済は制裁に耐え、この戦争はいつ終わるのか。国際情勢に詳しいテレビ東京WBSキャスターの豊島晋作氏に、ウクライナ戦争の現状分析と今後の見通しについて聞いた。

Q. ウクライナ戦争の現在地をどう分析していますか?
ウクライナ戦争では3つの戦いが同時に進行している。まず第一に、ウクライナ軍とロシア軍による前線での戦闘だ。次に、それぞれの国のリーダーが自分の権力基盤を守るための戦いがある。プーチン大統領は権力を維持し、ロシアをまとめ上げるために戦っている。一方でゼレンスキー大統領も大統領としての立場を保ち、国をまとめながらロシアとの戦争を指揮している。
現在、プーチン大統領の権力基盤は比較的安定している。ロシア経済が予想外に好調で、プーチン大統領に逆らう人はほとんど現れていない。対照的に、ゼレンスキー大統領は難しい立場に置かれている。ウクライナ軍がロシア領土への侵攻作戦を実施したことで、東部戦線で不利な状況になり、国内で批判を受けている。そのため、ゼレンスキー大統領は大規模な内閣改造を行い、権力基盤の立て直しを図っている。
Q. なぜロシア経済は制裁に耐えているのですか?
当初、多くの専門家はロシア経済が制裁によって崩壊すると予想していたが、実際には異なる結果となっている。ロシア経済が持ちこたえている理由はいくつかある。
まず、ロシアは今や戦時経済となっており、国内総生産に占める政府支出の割合が大幅に増加している。国が大量の資金を投入して経済を支えている状態だ。さらに、戦争により若い男性が前線に送られたため、国内の労働力が不足している。企業は人材を確保するために賃金を上げざるを得ず、結果的に実質賃金が10%以上増加している。
失業率も2.6%程度と非常に低く、これはソ連崩壊以降で最低レベルである。加えて、中国やインドが石油や天然ガスを購入し続けているため、資源収入が確保されている。また、ロシア中央銀行のナビウリナ総裁による金融政策運営も比較的うまくいっていると評価されている。
こうした状況から、少なくとも2024年中にロシア経済が崩壊して戦争が終結するという見通しを持つ専門家はほとんどいない。資源国で、一定程度の自給自足が可能な国は、長期の戦争に耐えられるという不都合な真実が明らかになっている。
Q. ウクライナ戦争から国際社会が学んだ教訓は何ですか?
ウクライナ戦争からは多くの教訓が得られている。まず一つ目は「戦争は物量である」という点だ。当初ロシア軍は戦術や兵站に問題があり、ウクライナ軍に撃退されたが、後に兵士や武器弾薬を大量に投入することで巻き返した。今年に入ってからもウクライナに対して過去最大規模のミサイル攻撃を行っている。これは第二次世界大戦時のソ連軍の戦い方と類似している。
二つ目は「民主主義が弱点になることがある」という点だ。ロシアのようなプーチン一人が決定権を持つ独裁体制では、意思決定が迅速に行われる。一方、民主主義国家では様々な議論を経て合意形成する必要があり、戦時においては不利に働く場合がある。ウクライナへの武器供与も、当初は禁止されていた長距離ミサイルや戦車、戦闘機が結局は供与されることになった。もっと早く決断されていれば、戦況は異なっていたかもしれない。
三つ目は「非人道的な兵器も必要とされる」という現実だ。クラスター爆弾のような国際的に問題視される兵器も、実際には戦場で使用されている。国家が生き残るためには、あらゆる手段を講じるという厳しい現実がある。
四つ目は「他国から支援を獲得するためには自ら血を流して勝ち続ける必要がある」ということだ。西側諸国の指導者がウクライナ支援を続けるには国内世論の支持が必要で、それはウクライナ国民が自ら立ち上がって戦い、ある程度の成果を上げていることが前提となっている。
五つ目は「核抑止は機能する」という点だ。プーチンが核兵器を保有しているため、NATO諸国はロシアへの直接的な介入を避けている。このことは核兵器の抑止力を改めて証明している。
Q. アメリカ大統領選挙はウクライナ戦争にどう影響しますか?
ウクライナにとって最大の懸念は11月のアメリカ大統領選挙の結果だ。トランプ前大統領は「24時間以内に停戦させる」と発言しており、もし彼が再選された場合、現状のまま停戦となればウクライナにとって不利な条件となる。
そのため、ゼレンスキー大統領はロシア領土の一部を制圧して交渉材料としようと試みている可能性がある。一方、プーチン大統領がカマラ・ハリス候補を支持すると発言したことについては、逆にハリス候補に不利な状況を作り出す意図があるとも考えられる。
いずれにせよ、アメリカの政権交代はウクライナ戦争の行方に大きく影響するため、両国とも選挙結果を見据えた動きをしている。
Q. ウクライナ戦争はいつ、どのような形で終結すると予想されますか?
戦争の終結時期や条件を予測することは非常に難しい。現実的には、東部地域の一部を放棄せざるを得ない可能性も指摘されているが、これはウクライナ国民が納得しない限り実現しない。
現在の焦点は秋から冬にかけての状況だ。ウクライナ軍がロシア領内での作戦をどの程度続けられるか、東部戦線でどこまで持ちこたえられるか、そして冬の間にウクライナ国民が暖房のある環境で過ごせるかどうかが重要になる。ロシアはウクライナのエネルギーインフラを破壊し、冬を乗り切れなくすることを狙っている。
ゼレンスキー大統領がこの困難な状況下で国民の支持を維持できるかどうかが、今後の展開を左右するだろう。ただし、2024年の時点でウクライナ側が大幅な譲歩を受け入れる可能性は低いと考えられる。
Q. 日本はこの状況をどう捉え、どう行動すべきですか?
日本は平和のためにどのような条件が必要かを論理的・科学的に考えることが求められる。戦争を防ぐためには、一見矛盾する二つの方法がある。一つは戦争の悲惨さを記憶し教育で伝えること、もう一つは戦争への準備をすることだ。
実際、日本の安全保障環境は急速に変化している。台湾有事が現実的な脅威として認識されるようになり、日本政府も防衛費の大幅増額を決定した。これは実質的には軍拡であり、国際社会もそう認識している。
日本は長らく「周りがやっているから」という理由で行動することが多かったが、今後は自らの国益を考え、迅速に意思決定することが求められる。戦争や安全保障の問題は、もはや抽象的な「有事」という言葉で曖昧にしておくことはできず、現実的な脅威として向き合う必要がある。
