
ルイ・ヴィトン元PRトップが教える 自分らしい生き方
パリジェンヌはどうして自分らしくいられる?ルイヴィトン元PR担当者が語る「すっぴん」の生き方
パリジェンヌとは、単にパリに住む女性や、フランス人女性を指す言葉ではない。それは一つの生き方のこと。自分の素顔をさらけ出し、自分らしく生きる人たちを指す。そんな生き方を17年間ルイヴィトンで勤め、パリ本社の元PRトップとして活躍した藤原淳さんに聞いた。
Q. パリジェンヌとはどのような人のこと?
パリジェンヌとは、パリに住む人やフランス人女性という意味ではなく、ある種の生き方を指します。世界のどこにいても参考になる生き方です。一言で言えば、素顔の自分をさらけ出し、取り繕わずに生きている人のこと。自分は自分と気持ちよく割り切って、肩で風を切って生きているイメージの人です。
日本社会では世間体などが重く、そんな生き方は難しいと思う方もいるでしょう。しかし、フランスと日本はお互いにいい影響を与え合う国だと思います。現在、フランス人は日本が大好きで、日本人の美的センスや繊細な季節感、調和を好む感覚などがフランス人にとって参考になることが多いようです。同様に、パリジェンヌの生き方も私たち日本人の参考になることが多いのです。
Q. パリジェンヌはなぜ他の人と同じ服を着たがらないの?
日本では、洋服店で迷った時に「こちらが人気商品です」と言われると、多くの人が「みんなが着ているなら」と思ってそれを選びがちです。しかし、もしかしたら別の方が自分の好きな色や手触りだったかもしれません。
パリジェンヌは自分が心地よいもの、自分がほっとする色を大切にします。何を基準にしているかというと、自分が心地よいかどうか。季節外れだろうが、肌を露出しすぎていようが、人にダサいと言われようが、自分が良いと思えばそれで良いのです。みんなが着ているものは逆に嫌がる傾向さえあります。
興味深いことに、おしゃれだと思える人は若い世代ではなく、40代、50代、60代のマダムと呼ばれる世代の人たちが多いです。彼女たちは自分をよく知っているので、いつも同じようなシルエットのパンツにブラウス、同じようなワンピースなど、似たような格好をしています。これは驚くべきことかもしれませんが、自分を知り尽くした人が行き着く境地なのです。
Q. マクロン大統領夫人の「自分の好きなものを貫く姿勢」について教えてください
マクロン大統領夫人は70歳を超えても15センチほどのピンヒールとミニスカートで、とてもかっこいい女性です。彼女はルイヴィトンが大好きで、そればかり着ていたため、周りから「他のフランス人デザイナーの服ももっと着てください」と言われていました。
しかし彼女は「私はルイヴィトンのデザイナー、ニコラ・ジスキエールの服が大好きなのよ。彼の服を着ると自分が一回り強くなった女性になれる、背筋が伸びてシャキッとするんです」と言い、「実は私、人前で話すのがすごく苦手。この洋服は自分にとって鎧みたいなものだから、誰に何と言われようが、私はこれを着ます」と開き直っていました。
女性でも男性でも、洋服かもしれないし、時計やアクセサリーかもしれませんが、「誰に何と言われようが自分はこれが好き」というものが必ずあるはずです。それを一度思い切ってやってみると、すごくすっきりした気持ちになれます。
Q. 日本人の「空気を読む」文化と、パリジェンヌの考え方の違いは?
日本で暮らしていると、私たちは空気を読むのが上手です。自分を考える前に「周りはどう思うかな」「失礼かな」と考え、メイクや洋服選びなど全てにおいて、まずそれを気にしてしまいます。
これは素晴らしいことですが、行き過ぎると疲れるのは自分、損するのも自分です。最後には「私さえ我慢すれば」と思って我慢を重ねていくと、すごく疲れきってしまうところがあります。
フランスの場合、TPOという概念もあまりありません。パーティーに行っても皆それぞれの格好をしていますし、会社でも同様です。ルイヴィトン本社でも、皆がブランドを着ているわけではなく、様々な格好をしています。そこに共通するのは「自分がそれが良いから着ている」という遠慮のなさです。
入社当初、異国人として溶け込もうと周りの格好を真似しようとしましたが、それは違いました。面接時に日本式のリクルートスーツを着て行ったら、人事担当者はピタピタのジーンズに軽装で、私だけが場違いな格好でした。次の面接では個性を出そうと思い、パールグレーのカラーコンタクトをつけて行ったところ、広報部長に「そんな小細工しないで、あなたのままが一番よ」と言われました。最初はショックでしたが、その言葉が逆に楽になるきっかけとなりました。
Q. パリジェンヌはなぜすっぴんでいられるの?
パリジェンヌはいつもすっぴんというわけではありませんが、職場ではすっぴんの人が多いです。日本のように化粧室でメイクを直す人はいません。夜のデートや友達とのディナーには化粧をしますが、それも本当に1分程度でさっと済ませます。
これは自分で決めているからです。スイッチオンの時はメイクをし、スイッチオフの時はしない。「職場で同僚の前で気張ってどうするの?そこでスイッチオンして何になるの?」という考え方です。メイクをするのはしたい人がすればよく、「しなきゃ失礼」という発想はありません。
日本では社会人になると同時に、メイクをすることが社会マナーのように扱われることもあります。でも自分のすっぴんを一番見ていないのは、実は自分かもしれません。スマホで自分の顔が映った時に「誰だ」と思ったり、加工してしまったりするのは、自分の顔を見ていないからかもしれません。
私も思い切ってすっぴんになってみて気づいたことがあります。まず、それはすごく勇気のいることでしたが、案外誰も気づいていませんでした。そんなに人はあなたを見ていません。それが逆に心地よく、肩の力が抜けた感じがしました。また、すっぴんになってみると自分の顔に慣れてきて、不思議と「案外自分の顔って悪くない」という気持ちになります。
Q. すっぴんが難しい人のための「ゴールデンタイム」とは?
すっぴんで会社に行くのが難しい人には、「ゴールデンタイム」をおすすめします。これはパリジェンヌの友人が言っていた、自分と向き合う時間のことです。毎日5分でもいいので、子供や伴侶や仕事など全てを取り払い、母親としてでも、上司としてでも、妻としてでもなく、純粋に自分自身と向き合う時間を作ります。
それはスキンケアの時間でもいいですし、男性なら音楽を聴く時間でも構いません。大事なのはスマホを見たりしないこと。スマホは他の人と比べてしまう要素が多いですから。
パリジェンヌはそういう時間を意識的に作っています。意識的に取らないと、毎日忙しくて日常の荒波に揉まれてしまいます。でも、大人になると自分のケアは誰もしてくれません。どんなに頑張っていても褒めてくれる人もいないので、自分でケアする時間を少しでも作る習慣を持つと、だいぶ変わってくると思います。
Q. フランスで人気の「コビド」って何?
「コビド」とは、「古美道」と書き、日本の古代の按摩術から生まれたフェイシャルマッサージのことです。日本ではあまり知られていませんが、ヨーロッパで大ブレイクしています。
フランス人は今、日本の精神世界や生活習慣に強い関心を持っています。例えば「わびさび」の心や「銀時」なども流行っています。コビドはマッサージだけでなく、そこに至るプロセスや心の持ち方なども大切にしています。それが「道」という言葉にも表れているように、茶道や剣道と同じように、一つの「道」として捉えられているのです。これがフランス人の心に響いているようです。
Q. 転職を考える時、大切なことは?
転職は勇気のいることです。同じ会社にいると安心感もありますし、人生を変えるのは大変なことです。しかし、「今の状況が嫌だから」「仕事が嫌だから」という理由で変えようとすると、行き先でも同じようなことになりかねません。
転職する前に大切なのは、「自分が今していることはどのように役に立っているのか」を考えること。役に立っていないなら、「何をしたいのか」というポジティブな観点で考えることが大切です。
私も転職しようと思って社長に引き止められた経験があります。その時に社長から「ここに残るとしたら、君は本当は何がしたいの?」と聞かれました。仕事に忙しいと考える暇もないですし、「これがしたい」と思ってその仕事をしている人は案外少ないかもしれません。
私は当時とっさに「ブランドの力を使って社会貢献をしたい」と答え、自分の言葉に自分でびっくりしました。でも確かにそういうことをしてみたかったのかもしれません。このように、自分が本当はどういうことがしたいのかを考えることで、良い意味での転職につながるかもしれません。
若い頃はキャリアを一直線のイメージで捉えがちですが、実際はもっと立体的なパズルのようなものです。今していることが意外な形で次につながったり、前の仕事で出会った人が後の助けになったりします。世の中は分からないものなので、そういう考え方を身につけておけば、必ず形になっていくと思います。
