
マーケット最新分析:AIバブルは崩壊したのか?
8月の株価大暴落はゲームチェンジか?ピクテのストラテジストが今後の株式市場を展望
株式市場は7月にピークをつけた後、8月初めに大きく下落した。8月5日には日経平均株価が過去2番目となる12.4%の下げ幅を記録し、マーケットに衝撃を与えた。この暴落の要因と今後の見通しについて、ピクテのストラテジスト・糸島孝俊氏に詳しく聞いた。
Q. 今回の暴落はどれほど深刻なものだったのでしょうか?
今回のショックは非常に大きなものだった。期待感が大きかっただけに、下落幅も大きくなった。8月5日の下落は日経平均の下げ幅としては過去最大だったが、パーセンテージでは12.4%で過去2番目の下落率となる。1番目は1987年10月の14.9%、3番目はリーマンショック時の2008年10月の11%台だ。
ただし、この暴落は突然起きたわけではない。実は7月11日に4万2,426円をピークにつけた後、下がり始めていた。7月31日に一時3万9,188円まで戻したものの、アメリカの雇用統計を受けてさらに急落した。
Q. なぜここまで株価が上昇した後、大きく下落したのでしょうか?
株価上昇の主な要因は、円安と「AIブーム」だった。円安が大きく進んだことで日本企業の輸出競争力が高まり、業績向上が期待された。また、アメリカではNVIDIAを筆頭にAI関連銘柄が急騰し、その流れが日本にも波及した。
しかし、予想されていた年後半の円高傾向が現実となり、7月以降は162円から141円台まで20円以上の円高が進行した。さらに「円キャリートレード」と呼ばれる取引の巻き戻しも起きた。円キャリートレードとは、低金利の円を借りて高金利の通貨に投資する取引だが、日銀の金融政策正常化により円の金利上昇が見込まれ、この取引が解消され始めた。これが株式市場にも影響を与えた。
Q. 今後の株式市場はどのように推移すると予想されますか?
今回の暴落で、今年の上昇分がほぼ帳消しになった。これはいわば「ご破算」の状態で、新たなスタートを切ることになる。今後は3万円から3万9,000円程度のボックス相場になる可能性が高い。
市場の焦点は企業業績にある。TOPIXの一株当たり利益(EPS)は現在も右肩上がりだが、これが横ばいになると株価はさらに下落するリスクがある。また、円高傾向が続けば、輸出企業の業績の下方修正も懸念される。
アメリカ市場については、PERが日本より高く、21倍台とバリュエーションが割高な状態だ。アメリカ経済の「ソフトランディング」(緩やかな景気減速後の回復)を期待する見方が強いが、「ハードランディング」(急激な景気後退)のリスクも意識され始めている。
Q. AIバブルは崩壊しつつあるのでしょうか?
AI革命自体は今後も進み、3年後、5年後、10年後には社会が大きく変わっている可能性が高い。しかし、市場が疑問視し始めているのは「AIを使って企業が本当に利益を上げられるのか」という点だ。
NVIDIAの株価は既に6月中旬にピークをつけており、その後7月上旬にかけて他のマグニフィセントセブン銘柄や小型株が高値をつけた。しかし企業のトップからは「半導体投資は行っているが、利益はまだ見えていない」という発言も出始めている。AI関連投資のリターンが不透明になってきた状態だ。
Q. 投資家はこの状況をどのように捉え、対応すべきでしょうか?
投資資金の性質によって対応は異なる。全資産や借入金で投資している場合は要注意だが、資産の5%から10%程度で投資している場合は、大きく下落しても心が痛まない範囲だろう。特に積立投資を行っている場合は、今やめると意味がない。むしろ価格が下がった時に株数を多く買えるチャンスと捉えるべきだ。
ただし、世界株やアメリカ株一辺倒の投資から、他の資産へも分散させることを検討する良い機会でもある。また、なぜその投資商品を購入したのか、その理由を改めて書き出して振り返ることも大切だ。
今回の暴落は、株式市場が常に上昇するわけではないことを実感する貴重な経験となった。1日で3%から5%変動することも珍しくない市場の特性を理解し、長期的な視点で投資を続けることが重要だ。
Q. 日本の株式市場の未来についてどう考えていますか?
日本は企業統治改革や働き方の変化など、大きな変革の最中にある。東証の改革もあり、TOPIXの見直しが進んでいる。2026年10月から2028年7月にかけて新世代のTOPIXへ移行するが、現在のプライム市場の企業の半分程度しか残らない見込みだ。これにより企業の経営者も競争を余儀なくされ、日本企業の体質改善が進む可能性がある。
また、今回の円高傾向は、日本が「通貨が強い国」になれる最後のチャンスかもしれない。日本企業は変わりつつあり、若年層と中高年層の考え方の違いも顕著になってきている。このような変化の中で、自分の殻を破って新しいことを学び取り入れていくことが大切だ。
