
エンジニアキャリアの可能性・採用のヒント
大企業とスタートアップ、エンジニアのキャリアパスの選択肢とは?山﨑賢が語る両者の違いと意外な事実
エンジニアとしてのキャリアを考える上で、大企業とスタートアップどちらを選ぶべきか迷う人は多い。大企業の安定性か、スタートアップの挑戦と成長か。この二択の問題に、両方の世界を経験してきた山﨑賢が興味深い視点を提供する。「大企業とスタートアップの違いは人数の違いくらいしかないんじゃないか」という意外な答えから始まる対談から、エンジニアのキャリア選択についての新しい視点を探る。
Q. 大企業とスタートアップの違いは何ですか?
両者の違いは人数の違いくらいしかないと思う。根本的には同じだ。どんな会社であっても、何らかのサービスを通じて顧客に価値を提供し、その対価としてお金をいただくという単純な構造は変わらない。ベンチャーでも大企業でも、顧客のことやサービスのことで物事を考えれば、基本的な考え方に違いはない。
強いて言えば、承認プロセスが多いか少ないかという違いはあるかもしれない。ただし、それも本質的な違いではない。承認ルートは単なるガードレールであり、論理的なガードレールを自分でしっかり持っているならば、時には承認プロセスをスキップしても問題ないはずだ。本質的なコミュニケーションで最短の道を歩むことが大事だと考えている。
Q. 大企業とスタートアップ、リソース面での違いはありますか?
スタートアップは資金も人材も限られている。そのため、正しいと思うことをやろうとしても、リソース不足でできないことが多い。一方、大企業は豊富な資源があるため、正しいことを最短距離で実行できる可能性が高い。
この点では、大企業の方が有利とも言える。例えば、必要なら人材を採用したり、ベンダーに依頼したりして、リソースを増やしながら最短距離で目標に向かうことができる。スピードも早く、様々なことができるので、むしろ大企業の方が面白いと感じることも多い。
Q. 近年エンジニアの大企業志向は増えていますか?
最近はエンジニアの間で大企業への関心が増えているように感じる。スタートアップ環境が厳しくなり、成功できる企業が減ってきたことで、次のステップとして大企業を選ぶ人が増えてきた。また、大企業内のデジタル部門や新規事業組織に、スタートアップで成功経験を持つ人材が集まる傾向も見られる。
これには技術の平準化も関係している。5年前までは、スタートアップでしか経験できないエンジニア的チャレンジがあった。しかし、技術がどんどん簡単になり、大企業側もDXを推進する姿勢を強めたことで、両者の環境の差が縮まってきた。以前は大企業に入っても最新技術を学べないことが多かったが、今はその壁が取り払われつつある。
Q. 大企業がエンジニア採用で工夫していることはありますか?
従来の日本企業の人事制度、例えば年功序列や終身雇用などはエンジニア文化と馴染まない部分がある。そこで先進的な企業では、エンジニア向けに異なる人事制度を導入している。例えばイオンスマートテクノロジーのような機能会社を作り、給与体系や評価制度を他の事業会社とは別のものにしている。
エンジニアは市場価値が高いため、他社と比較して同等以上の報酬を提示できなければ人材獲得は難しい。そのため、給与テーブルや評価制度も変えている。トヨタのWoven Technologies、丸井のグループ会社、ミューチュアルなど、多くの企業がこうした取り組みを始めている。
Q. 若手エンジニアがSIerで働く価値はありますか?
SIerで働くことには大きな価値がある。SIerではプログラムを書く時間が相対的に長い。事業会社と違って企画を考えたり調整したりする時間が少なく、プログラミングに向き合う時間が多い。また、多様な現場で様々なカルチャーを経験できるのも大きな利点だ。
SIerと事業会社は、広告代理店と企業のマーケティング部門の違いに似ている。SIerでは様々な案件を経験できるため、引き出しが増える。修行の場としては非常に有効であり、特に20代のうちに経験しておくと良いだろう。
Q. システムコンサル会社での経験はどうですか?
コンサル会社での経験は、実行責任を持つかどうかが重要だ。コンサルは一般的に実行に責任を負わないケースが多い。「ここが良くない」「こうした方が良い」と提案して去っていくようなスタイルだと、経験としては限定的な価値しか持たない。
重要なのは実行に責任を伴うことだ。実行までセットでやるコンサルであれば、自分の提案の答え合わせまで責任を負うことになり、非常に価値ある経験となる。大企業の中でも、ちゃんと実行に関わっているかどうかを見極めた上で選択することが大事だ。
Q. 大企業CTOのような役職に就くにはどのようなキャリアパスが望ましいですか?
多様な経験を積むことが望ましい。私自身は、ベンチャー企業でCTOを2社経験した後に大企業のCTOになった。大企業でチャレンジする前に、ベンチャー企業でしっかり結果を出すという目標を立てていた。ベンチャーのカルチャーを経験し、エンジニアとしてプログラムを書くという原点に立ち返った上で大企業に入ることで、単なる「政治的な人」にならないよう意識していた。
SIer、大企業、スタートアップ、それぞれに独自の良さがある。ベンチャーでしか味わえない苦労と経験、大企業でしか味わえない経験、両方あるので、様々な経験を積んでおくことが理想的だ。もし2周目のキャリアがあるとしても、同じパスを選ぶだろう。
Q. 大企業がDX推進のために外部人材を積極的に採用する傾向は今後増えますか?
増えると思う。大企業側は異文化として外部人材を積極的に取り入れないと、DXとして成功しないだろう。ただ、経営者レベルにはDXの重要性は理解されているものの、外部から自分の物差しで測れない人を入れて権限を委譲するかというと、それはまた別の問題だ。
イオンなど、DXで成功している大企業の事例が増えていくことで、日本企業の変革が加速すると思う。海外ではウォルマートがトップダウンでAmazonを超えるという目標を掲げ、IT企業を買収するなどして大きく変わった例がある。ただし、イオンはウォルマートと違って多くのブランドを持つ企業群なので、戦略は異なる。それぞれの独自性を活かしつつ、全体でDXを推進していく形になるだろう。
Q. 経営者とテック人材が交流する場はありますか?
テック人材同士の集まりは多いが、そこにスーツを着た経営者がいないという問題がある。両者が異文化として混じり合わない状態がまだ続いている。これは大きな機会損失だ。
例えば、大企業の取締役レベルの人がエンジニアのイベントやユーザー会に参加するだけで、大きな影響力を持つだろう。「あんな大企業の偶いい人なのに、こんなカジュアルにエンジニアと会話している」と評価され、企業イメージも向上する。これは誰でもできることだが、実践している経営者はまだ少ない。服装はスーツよりもジャケットにTシャツくらいが良く、肩書きを前面に出さず、一般参加者として溶け込むことが重要だ。
Q. 大企業で変革を起こすには、どのようなリーダーが必要ですか?
フラットなコミュニケーションができるリーダーが必要だ。上下関係を感じさせず、誰でも話しかけやすい雰囲気を作ることが重要で、これはどの会社でも同じだと思う。また、固定概念にとらわれない柔軟さも必要だ。
大企業CTOとスタートアップCTOはフォーカスが異なる。スタートアップCTOは手も動かさなければならず、最初の1人目のエンジニアがそのままCTOになるケースも多い。一方、大企業CTOは組織やカルチャーを変え、イノベーションを起こすことに注力する。目まぐるしく変わる環境と課題に対して、自分の動き方を変えられる柔軟性が必要だ。
