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職場の良い愚痴・悪い愚痴【内田舞】
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2024年8月6日

ビジネスパーソンがパフォーマンスを最大限かつ安定的に発揮するために必要なカラダ・心の鍛え方を一流から学ぶ。今回は「職場のメンタルケア」を内田舞さんに解説していただきます。 <ゲスト> 内田舞 小児精神科医/ハーバード大学医学部准教授 マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長 主な著書『ソーシャ...
脳科学で解明!不安や恐怖の正体と感情コントロールの秘訣
職場でのストレスやプレッシャー、子育ての悩み…私たちは日々さまざまな感情と向き合っています。なぜ私たちは不安や恐怖を感じるのでしょうか?その感情をどうコントロールすれば、より健康的な毎日を送れるのでしょうか?今回は脳神経科学者の内田舞さんに、最新の脳科学から見た感情のメカニズムと向き合い方について聞きました。
Q. 脳はなぜ不安や恐怖を感じるのでしょうか?
脳は大きく3つの部分に分かれています。考える・知識・理性をつかさどる「大脳皮質」、感情を司る「辺縁系」、そして生命活動を維持する「脳幹」です。何か出来事が起きた時、最初に反応するのは感情です。
例えば、クマに遭遇したとします。このとき、辺縁系の中の扁桃体という部分が脳幹にシグナルを送り、「今は戦うか逃げるかの状況だ」と伝えます。すると心臓がバクバクし、血流が増加するなど、生存確率を高めるための体の変化が起こります。これは短期的な生存のために非常に重要なメカニズムです。
現代社会では実際にクマに遭遇するような危険は少なくなりましたが、私たちの脳の構造と機能は旧石器時代から基本的に変わっていません。今私たちが感じる不安や恐怖は、むしろ複雑で持続的なものになっています。例えば、プレゼンテーションへの不安や職場の人間関係などです。
不安は将来思考的なもので、「何か悪いことが起きるのではないか」という予測から生まれます。これも生存のために必要なものですが、バランスが大切です。どの程度の不安を感じて、どの程度「大丈夫だろう」と思えるか、そのバランスが重要になります。
Q. 感情と脳の関係性について教えてください
感情は私たちの中で最初に物事を評価するものです。この評価は短期的な生存において重要な役割を果たしますが、長期的に見ると必ずしも正確とは限りません。そこで「再評価」というスキルが役立ちます。
再評価(リアプレイザル)とは、最初の感情的な反応を一度立ち止まって見直すことです。例えば、不機嫌な上司に対して最初は怒りや不満を感じるかもしれませんが、その状況を再評価すると違った見方ができます。
「この上司との関わりは、必要な情報を得るための最小限のものでいい」と割り切ったり、「上司の不機嫌は私の責任ではない」と距離を置いたりするアプローチが可能になります。私自身の研究では、この再評価の過程で大脳皮質の前頭前野と扁桃体の関係性が重要だということがわかってきています。
実験では、ネガティブな印象を与える写真を見て、できるだけポジティブな側面を見つけるよう被験者に依頼します。例えば、火事の写真を見せた場合、「消防士が駆けつけている」という救いの要素や、「これは写真で自分には直接関係ない」と距離を取る視点があります。
このように、最初の感情的反応だけに頼らず、立ち止まって別の視点を探すことで、感情をより健全に管理できるようになります。
Q. 職場での不安やストレスにはどう対処すればいいですか?
職場での不安、特にプレゼン前の緊張などは多くの人が経験します。「失敗したらどうしよう」「恥をかきたくない」といった考えが頭に浮かびますが、こうした不安自体が悪いわけではありません。むしろ適度な不安は準備を促す効果があります。
対処法としては、まず「仕事は一発勝負ではない」と考えることです。少しうまくいかなくても次の機会があります。また、自分の小さな失敗は、自分が思うほど他人は気にしていないものです。例えば、プレゼン中に言葉に詰まったとしても、聞き手は1分後にはもう忘れている可能性が高いです。
また、不安は未来に対する思考です。明日何が起こるかは誰にもわかりません。だからこそ、今この瞬間に集中することで、不必要な不安から解放されることがあります。目標設定は大切ですが、その過程も同様に価値があることを忘れないでください。
Q. 子育てでイライラした時の対処法はありますか?
子育て中のイライラは多くの親が経験します。例えば、子どもに片付けを頼んでも聞いてくれない状況で、だんだん怒りが湧いてくることがあります。
このとき、「自分の言うことを聞かないということは、子どもが私を尊重していない」と解釈すると、怒りがさらに強まります。しかし、ここで再評価を行うと、子どもが片付けないのは単に「面倒くさい」「今遊んでいて楽しい」という理由かもしれません。私への尊重とは全く関係ないことに気づきます。
そう考えると、目的は「子どもに尊重されること」ではなく「部屋を片付けること」だったと気づきます。すると怒りが収まり、「片付け競争をしよう」など別のアプローチを考えられるようになります。
また、自分が仕事で余裕がなく焦っていることを子どもに説明したり、感情的になってしまったことを素直に謝ったりするのも良いでしょう。親も人間であり、様々な感情を持つことを子どもに見せることが、むしろ感情との向き合い方を教える機会になります。
Q. 職場での愚痴は良くないものですか?
愚痴を言うことは必ずしも悪いことではありません。ネガティブな思いを一人で抱え込むより、声に出すことで救われる部分があります。また、「自分だけがこう感じているのかな」と思っていたときに、他の人も同じように感じていると知れば共感が得られ、それだけで救われることもあります。
ただし、攻撃性を帯びた愚痴や、同調することだけが目的になった愚痴には注意が必要です。例えば、ある人の悪口を言い合うことで結束力が高まり、最初はそれほど悪く思っていなかったのに「みんなが言うから」と同調してしまうようなケースです。これがエスカレートすると、SNSの炎上やいじめにつながることもあります。
人間は集団で生きることで生存してきたため、同調する傾向があります。それ自体は自然なことですが、悪影響を及ぼす場合には立ち止まって再評価する必要があります。愚痴を言う前に「本当に今ここで誰かを攻撃するような愚痴を言うべきか」と考えてみましょう。
Q. メンタル崩壊を防ぐアドバイスはありますか?
メンタルヘルスの問題は、現代では5大疾病の一つと言われるほど重要です。崩壊を防ぐためのアドバイスとして、「オール・オア・ナッシング思考」を避けることが挙げられます。
これは「成功か失敗かしかない」と考える思考パターンです。しかし人生では、80点で十分なケースが多いものです。0か100ではなく、その間の10点から90点も大切にする。白か黒かの間のグレーも認めることで、精神的に楽になれる部分があります。
また、「メンタルが強い・弱い」という表現についても、それはある種のラベリングに過ぎません。状況や考え方に名前がつくことで認識しやすくなり、対応できるようになるという利点はありますが、単純に二分するものではありません。
最終的に大切なのは、自分の感情と向き合うこと。それは結果的に自分の脳とも向き合うことになります。感情を無視したり抑え込んだりするのではなく、認めた上で、必要に応じて再評価するスキルを身につけることが、健全なメンタルヘルスにつながります。