PIVOT TALK BUSINESS
ソフトバンクを事例に学ぶROE
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2024年8月6日

「投資家の思考法 実践編」として、実際に企業分析をしながら投資・投資用語への理解を深めていく番組。カリスマファンドマネージャーの奥野一成氏に投資に必須の知識を学ぶ。今回はソフトバンクを事例に学ぶROE(自己資本利益率)。 <ゲスト> 奥野一成/農林中金バリューインベストメンツCIO 京都大学法...
「高いROEの企業が必ずしも良いわけではない?」財務レバレッジの罠
投資判断をするとき、企業のどの指標を見るべきか。「ROEが高い企業が良い」と単純に判断するのは危険かもしれない。投資のプロフェッショナルである奥野一成氏が解説する「財務レバレッジとROE」の関係性から、本当に強い企業を見抜く視点を学ぼう。
Q. ROEとは何ですか?また、投資判断においてROEはどのような意味を持ちますか?
ROE(Return On Equity)は、株主が投下した資本(自己資本)に対して企業がどれだけの利益を上げているかを示す指標です。計算方法は単純で、当期純利益を自己資本で割ることで算出されます。
例えば、ソフトバンクの場合、当期純利益が約0.5兆円、自己資本が約2.4兆円なので、ROEは20.6%となります。一般的に、ROEは8%以上あると良いとされています。これは2014年に慶應義塾大学の伊藤教授が発表した「伊藤レポート」がきっかけで、日本企業においてROEを意識する動きが強まりました。
しかし、ROEだけを見て企業の良し悪しを判断するのは危険です。ROEは「お化粧」ができる指標であり、ビジネスの本質的な強さを必ずしも反映していません。
Q. ROEはどのように「お化粧」できるのですか?
ROEは以下の式に分解できます:
ROE = ROA × 財務レバレッジ
ここでROA(Return On Assets)は総資産に対する利益率で、これが企業のビジネスの本質的な強さを示します。一方、財務レバレッジは総資産を自己資本で割った値で、どれだけ借入をしているかを示します。
つまり、同じビジネスモデルでも、借入を増やすことで自己資本を減らし、ROEを高く見せることができるのです。ソフトバンクの場合、ROAは3.2%と決して高くありませんが、財務レバレッジが6.53と高いため、ROEが20.6%という高い数値になっています。
Q. ROAとは具体的にどのような指標なのでしょうか?
ROA(Return On Assets)は、企業が持つ総資産に対してどれだけの利益を生み出しているかを示す指標です。これはビジネスの本質的な強さ、効率性を表します。例えば、ROAが2%以下の企業は、日本の10年国債の利回り(現在約1.07%)と大差ない利益率しか出せていないことになります。
リスクを取らなくても国債で得られる利回りと同程度しか利益を上げられないビジネスは、投資として魅力的とは言えません。ROAはビジネスの効率性を示す重要な指標で、高ければ高いほど良いと言えます。
Q. 財務レバレッジとは何ですか?企業にとってどのような意味がありますか?
財務レバレッジは、企業がどれだけ借入を活用しているかを示す指標です。総資産を自己資本で割って算出します。例えば、ソフトバンクの場合、総資産が15兆円、自己資本が2.4兆円なので、財務レバレッジは6.53となります。
借入を増やすことには、以下のようなメリットとリスクがあります:
メリット:
節税効果(タックスシールド):借入金利は経費として計上できるため、課税対象利益を減らせる
投資規模の拡大:自己資本以上の投資ができる
リスク:
倒産リスクの上昇:返済義務が生じるため、業績悪化時に倒産リスクが高まる
日本の企業は「無借金経営」を好む傾向がありますが、実は適切な借入は企業価値を高める効果があります。
Q. キャリア3社(ソフトバンク、KDDI、ドコモ)のROEにはどのような違いがありますか?
3社のROEを比較すると、ソフトバンクが圧倒的に高く、5年平均で約30%になります。場合によっては45%を超える年もあります。一方、KDDIやドコモはそれよりも低い数値です。
しかし、この違いは主に財務レバレッジの違いによるものです。ビジネスの本質的な強さを示すROAで見ると、実はドコモが最も高く、次いでKDDI、ソフトバンクは最も低いという結果になります。ソフトバンクは後発で市場に参入した際に、多くの借入を活用してビジネスを展開したため、財務レバレッジが高くなっているのです。
Q. 極端に財務レバレッジを効かせている企業の例はありますか?
米国の歯磨き粉メーカーであるコルゲートは、極端に財務レバレッジを効かせている企業の例です。コルゲートはグローバルに強いブランド力を持ち、140カ国以上でシェアトップ、中には市場の99%を占めている国もあります。
コルゲートはROAが約20%と非常に高く、ビジネスの本質的な強さを持っています。さらに、この強いビジネスを基盤に積極的に借入を行い、自己資本をほぼゼロにしています。その結果、ROEは1万4359%という異常な数値になっています。
これはコルゲートのビジネスが安定しており、キャッシュフローが豊富であるため可能になっています。銀行としても返済の心配がないため、積極的に融資できるのです。
Q. 企業にとって最適な資本構成とは何ですか?
最適な資本構成は、企業のビジネスモデルやキャッシュフローの安定性によって異なります。理論的には、WACC(Weighted Average Cost of Capital:加重平均資本コスト)が最小になる点が最適な資本構成と言われています。
WACCは株主資本コスト(高い)と負債コスト(低い)の加重平均です。借入を増やすと、低コストの負債比率が上がるためWACCは下がりますが、借入過多になると倒産リスクが高まり、逆に資本コストが上昇します。その結果、WACCはある点で最小値を取り、そこが理論上の最適資本構成となります。
コルゲートのように非常に安定したビジネスなら、高い財務レバレッジでも問題ないですが、多くの企業にはそれぞれの事業特性に応じた最適点があります。
Q. 投資家として企業を評価する際、何を重視すべきですか?
ROEだけを見て企業を評価するのではなく、ROAとROEの関係、そして財務レバレッジの状況を総合的に判断することが重要です。
高いROEの企業が必ずしも優れた企業とは限らず、財務レバレッジを高めることでROEを「お化粧」している可能性があります。本当に強い企業は、ROAが高い企業です。例えばコルゲートのROAは20%と非常に高く、ビジネスの本質的な強さを持っています。
投資家として企業を評価する際は、ROEをROAと財務レバレッジに分解し、特にROAに注目することで、本当に強い企業を見極めることができます。