
前編:原発を再稼働すべきか?
「脱原発」は本当に不可能なのか?日本が直面するエネルギー問題の本質を問う
近年の急激な電気代高騰は、多くの日本国民にとって生活に直結する大きな問題となっている。都市間や地域間で生じる数千円にも及ぶ電気代の差は、エネルギー源の構成に起因するといわれ、これまで感情的に語られがちだった原子力の存在を、改めて現実的な視点で見つめ直すきっかけを提供したと言える。果たして、日本のエネルギー政策はどこへ向かうべきか。脱原発は本当に不可能なのか。多角的な視点からその問いを深掘りする。
Q. 電気代が高騰する日本で、原発への世論はどのように変化したか?
ウクライナ侵攻をきっかけとした世界的なエネルギー価格の高騰は、日本のエネルギー事情にも大きな変化をもたらした。これまで原発再稼働に反対する意見が多かったが、電気代高騰という生活に直結する問題意識が広がる中で、再稼働を容認、あるいは支持する声が過半数を超える調査結果も出ている。エネルギー問題を考える際、人命という分かりやすいリスクと経済的な損得を比較する構図に感情的なアレルギーを感じる人々が多いのは事実だ。しかし、電気代の高騰が生活困窮や健康状態の悪化といった形で間接的に人命に関わるリスクを生む可能性も理解する必要があるだろう。
Q. 島国である日本のエネルギー自給率の低さはどのようなリスクをもたらすのか?
日本は周囲を海に囲まれた島国であり、ヨーロッパ諸国のように他国と送電網が繋がっていない。このため、自国でエネルギーを自給する能力は国家の存続に直結する死活問題となる。エネルギー自給率が低い場合、国際情勢の変動によって燃料供給が不安定になったり、価格が高騰したりするリスクを常に抱える。途上国での経験を見ても、エネルギー不足は経済活動を停滞させ、電気のない環境は子どもの教育機会を奪い、社会全体に深刻な影響を与えることが明らかだ。エネルギーを自給できない状態は、国民の生活水準低下だけでなく、国家としての競争力や安全保障にも影響を及ぼしかねない厳然たる事実が存在する。
Q. 日本の人口が減少するにもかかわらず、なぜ電力需要は大幅に増加する予測があるのか?
日本の人口は今後減少傾向にあるものの、2050年には電力需要が現状の1.5倍に増加するとの予測がある。この背景には、社会全体の「電化」の加速がある。ガソリン車からEV(電気自動車)への転換が進めば、交通分野のエネルギー源が電力に置き換わる。さらに、AIやデータセンターなどの普及により、情報処理に莫大な電力が必要となる。現在の総エネルギー消費に占める電力の割合はまだ4割程度だが、今後、さまざまな活動が電力によって賄われるようになれば、一人当たりの電力消費量は大幅に増加し、結果として国全体の電力需要が押し上げられるのだ。電気がこれほど普及したのは、送電線さえあれば手軽に利用できるという圧倒的な利便性にあるため、電力を完全に手放す選択は現代社会においては非現実的であると言えるだろう。
Q. 原子力発電が抱えるリスクは他のリスクとどう異なるのか?
原子力発電のリスクは、一般的な事故とは異なる特殊性を持つ。福島第一原子力発電所事故後、安全対策の強化により事故発生の「確率」は大幅に低下したとみられるが、一度事故が起きた場合の「最悪の影響度合い」は本質的に変わっていない。例えば、航空機事故は何百人もの命を奪う悲劇だが、社会全体が機能不全に陥ることは少ない。一方、原子力事故は広大な地域を居住不可能にし、経済活動や地域コミュニティを根本から破壊する可能性を秘めている。これは個別の事故のレベルを超え、国の存亡に関わるリスクだと言える。さらに、使用済み核燃料の放射性廃棄物は、10万年という人類の歴史をはるかに超える期間、厳重な管理を必要とする。この「不確実な未来への負債」ともいえる問題は、現世代が原子力による便益を享受する一方で、将来世代に解決策なき問題を押し付けているという倫理的な課題も内包する。
Q. 経済同友会が提唱する「活原発」とはどのような考え方か、その提言の背景は何か?
経済界からは、経済同友会が「活原発」を提言するなど、原子力の活用を求める声が上がっている。その背景には、風力や太陽光などの再生可能エネルギーだけでは、天候によって発電量が変動するため、電力の安定供給が困難であるという現実がある。企業活動においては、24時間365日安定した電力供給が不可欠であり、このギャップを埋める役割として、ベースロード電源である既存の原子力発電所を再稼働させ、最大限活用すべきだという主張がある。具体的な目標として、今後10年で原子力比率を20%強まで引き上げることで、年間33兆円にものぼる化石燃料の輸入費用を抑制し、日本の国際競争力を維持する狙いがあるのだ。巨大なエネルギーインフラは一度整備されると容易に変更できない「経路依存性」を持つため、既存の設備を有効活用することが経済合理性の観点から重視されているのである。
Q. ヨーロッパの国々のように、日本が「脱原発」に踏み切れない根本的な理由は何か?
ドイツなどヨーロッパの一部の国々は脱原発の方針を示したが、日本が同様の道を歩むことが難しい根本的な理由として、地理的条件が挙げられる。ヨーロッパ諸国は国境を越えた広範な送電網が発達しており、電力不足時には近隣国からの融通が可能だ。フランスの豊富な原子力発電や北欧の再生可能エネルギーなど、各国の強みを相互に補完し合うシステムが構築されている。しかし、日本は海に囲まれた島国であり、国際的な電力融通という選択肢が存在しない。このため、エネルギーの安定供給を完全に国内で完結させる必要があり、電源構成から原子力という大きな柱を外すことは、極めて困難な選択となる。仮に脱原発を強行すれば、代替として化石燃料の輸入が増え、コスト増加、CO2排出量増大、そして電力供給不安定化を招くリスクが避けられないのである。
Q. 将来的なエネルギー問題解決において、次世代原子炉や核融合はどのような役割を担うか?
次世代原子炉(小型モジュール炉など)や核融合発電といった先進技術は、未来のエネルギー問題を解決する有望な選択肢として期待されている。これらの技術は、現行の原子力発電に比べて安全性の向上や放射性廃棄物の問題の軽減に寄与するとみられている。しかし、残念ながらこれらの技術はまだ研究開発の途上にあり、商業運転に至るには長い時間と巨額の投資が必要となる。現在の切迫したエネルギー危機を解決する「即効薬」にはなり得ないのだ。つまり、当面の間は、安全性が確認された既存技術をベースとしたエネルギー政策を立てざるを得ないのが現実である。日本は放射性廃棄物の最終処分場が見つかっていないなど、未解決の「出口戦略」を抱えながら原子力の利用を続けなければならないという点で、世界における「課題先進国」の側面を持つ。複雑な要因が絡み合う日本のエネルギー問題には、単純な「白か黒か」の答えはなく、メリットとデメリットを公平に可視化した多様なシナリオを国民全体で議論し、理解を深めながら、将来世代にとって最善の解を探していくことが強く求められている。
