
【星野リゾートに学ぶ①】真似されないビジネスモデルの創り方
「成功モデルを創るにはトレードオフの選択が鍵」星野リゾート代表 星野佳路氏が語る真似されないビジネス戦略
星野リゾートは日本の観光産業において、独自のビジネスモデルで成長を続けてきた。そのユニークな戦略とは何か?コモディティ化が進む現代において、どのように差別化を図るべきか?星野リゾート代表の星野佳路氏が語る経営哲学から、ビジネスの普遍的な成功法則を探る。

Q. 星野リゾートの基本戦略はどのようなものですか?
私たちは経営を始めてから30年経ちますが、基本戦略をあまり変えずに守り続けています。大きな特徴は歴史が長いことと、今でもファミリービジネスであることです。非上場企業であることの良さは、日本の観光の変化の時期に大胆な投資ができる点にあります。
1991年に社長に就任して最も重要な戦略としたのが「運営に特化」することです。ホテルは不動産であり、オーナー、投資家、運営会社、金融機関など様々なステークホルダーがいます。日本の観光産業では自分が所有する土地に自分で建物を建て、自分で運営するというモデルが多いですが、私たちはいち早く運営だけに特化するビジネスモデルを採用しました。これが成長につながりました。
不良債権処理の時期、リーマンショック、コロナ禍など、マーケットが厳しい時ほど運営会社は頼られます。オーナーが自分で運営するのをやめたり、運営会社を変えたりする際に私たちのような運営専門会社が成長する機会を得られるのです。
Q. 運営に特化することで、どのようなビジネスモデルが構築できたのですか?
私たちには星野リゾート・リートという投資法人があります。これは東京証券取引所に上場しており、長期保有してくれるパートナーとなっています。リートの所有者は東証に上場していますから、一般の株主が誰でも所有できます。つまり、誰もが自分の貯蓄で日本の観光の成長に投資できる環境を作りました。これが日本初のリゾートリートの特徴です。
コロナ禍では株価が大きく下がりましたが、2021年初頭にはすでにコロナ前の株価を超えました。これは市場が私たちに期待してくれている表れだと思います。
Q. ホテルビジネスのリスクと収益構造はどうなっていますか?
ホテルビジネスは土地の取得・開発から始まり、開業し、やがて安定運営に入るという流れがあります。開業してすぐに予定通りの利益が出るわけではなく、安定するまでに3年ほどかかります。
各段階でリスクレベルが大きく変わります。土地取得時は許認可が取れるか、周囲に反対はないか、資金が集まるかなど様々なリスクがあり非常に高リスクです。開業するとリスクは下がりますが、まだお客様が予定通り来るか、収益が想定通り上がるか、想定外のコストはないかといった中程度のリスクが残ります。2-3年して安定した収益が出始めると、リスクは大きく下がります。
私たちの特徴は全てを所有せず運営に特化している点です。リートのような長期保有の安定したオーナーは、安定運営に入るまで投資してくれません。そこで私たちは開発リスクを取るファンドに入ってもらい、土地取得から建設段階までをお願いしています。
ファンドにとっても、安定運営に入れば明確なエグジット(売却先)があるため、取り組みやすいモデルになっています。
Q. この成功モデルを他社が真似しない理由は何でしょうか?
できないところはないと思います。しかし、私たちのような運営会社が持つ集客のスピードや正確性、確実性が鍵となっています。開業から予定通りの収益まで上げていく能力があるため、現状では私たちに頼るケースが多く、2番手、3番手が入りづらい環境になっています。
もう一つ大きいのは、うまくいったプロジェクトで最も利益を得るのはオーナーだということです。長期保有の投資家やファンドが最も大きなリターンを得ます。私たちはフィービジネスですから、運営会社としての取り分は限られています。
日本の場合、能力のある運営会社があったとしても、企業はうまくいった時の利益を最大化するために所有したがる傾向があります。それも一つの正しい選択ですが、私たちの場合は数を増やしスケールを追求するため、所有と運営を分離しています。数十件も手がけていると、東日本大震災やコロナのような予期せぬ大きな出来事が起こります。その時に最も損をするのはオーナーなのです。このリスクをどう見るかが、他社が真似しない理由の一つかもしれません。
Q. 星野リゾートの競争戦略の基本概念について教えてください。
私の経営哲学の基礎となっているのはマイケル・ポーターの競争戦略論です。彼の「独自の地位への3ステップ」が星野リゾートの基本戦略になっています。
第一に「生産性のフロンティアを達成する」こと。これは基本的にやるべきことをちゃんとやっている状態です。まずいカレーや壊れやすい製品を提供していては勝てません。しかし現代では、こうした基本品質はどの企業も達成しています。70-80年代は日本車が「壊れない」という理由で世界に売れましたが、今では世界中の車が壊れなくなりました。これが「コモディティ化」です。差のない商品が溢れ、どれも良いという状態です。
第二に「トレードオフを伴う活動を選択する」こと。トレードオフとは、一方を選択すれば他方を犠牲にせざるを得ない選択のことです。例えば、牛丼を選ぶとカレーが犠牲になります。一方、赤ワインか白ワインかという選択は順序の問題で、両方飲むことも可能なのでトレードオフではありません。
トレードオフを伴わない活動は真似されやすいのです。私たちが青森屋で青森文化を大事にするサービスを始めたところ大ヒットしましたが、10年後には他の青森の大型温泉旅館も同じサービスを提供するようになりました。これはトレードオフを伴わない活動だったからです。
ポーターは「トレードオフを伴う活動こそが競争力につながる」と言っています。良いアイデアでもすぐに模倣され、単なるコスト削減競争になってしまうからです。
第三に「活動間にフィット感を見出す」こと。トレードオフを伴う活動を選択した後、それらの活動がお互いに強め合う関係を作ることです。私たちの運営特化があるから展開が早く、スケールメリットを得やすい。スケールを得ることでブランド認知が早く上昇するといった相乗効果が生まれます。
このように各要素がお互いをサポートする関係を作ると、競合他社は「全部真似するか、全部真似しないか」という選択を迫られます。どんなに小さな会社でも、大手相手にサステイナビリティを維持できる独自の地位が生まれるのです。
Q. 星野リゾートの成功は予想通りでしたか?
予想していなかったので、予想以上でも以下でもありません。振り返ると、私は軽井沢で最初の10年は1つの旅館だけを運営していました。そこで人材も集まり、チームができ、価値観やフラットな組織文化が生まれました。
次の10年(1991年から)は多施設の運営に組織を合わせていく時期で、2001年から今日までは急速に成長してきました。どの段階が一番余裕があったかというと最初の10年です。当時は一生懸命やっていましたが、今から振り返ると非常に大事な10年でした。あの時の価値観が今も生きています。
振り返って各段階の進化度合いを見ると、だんだん進化のスピードが早まってきているという印象です。基本戦略は変わっていませんが、ITテクノロジーの変化が旅行業界を激変させており、それに対応するためにマーケティング手法などに変化が生まれています。

