
サステナビリティ経営
サントリーCEO新浪氏が語る、激動の7年間と次世代への金言:リーダーの条件、M&A成功の秘訣、日本経済の未来
サントリーホールディングスCEOの新浪剛史氏は、日本の企業経営者の中で異色の存在である。グローバル市場でその手腕を発揮し、企業の枠を超え日本の未来にも提言を行う。新浪氏に、激動の7年間を振り返り、M&A成功の舞台裏、日本型資本主義の課題、未来のSDGs戦略、そして次世代リーダーへの熱いメッセージを聞いた。
Q. グローバルCEOとしての7年間をどのように評価するのか?
新浪氏は自身の7年間を70点と評価する。グローバル企業のCEOとして、年間40万~50万マイルを移動し、世界中の現場を視察する多忙な日々を送った。現場で何が起こっているかを直接見聞きし、社員を直接叱咤激励することが極めて重要であると強調する。報告書だけを鵜呑みにせず、常に自らの目で事実を確認することがトップの役割であると語った。
また、CEOは劇場の「主演俳優」であるとの持論も展開する。トップは常に元気でポジティブな「気」を発信し、組織全体を活気づける役割を担うという。たとえ私生活で疲れていても、公の場ではその姿を決して見せず、明るい劇を演じきることが求められると説いた。
Q. 1.6兆円規模のビーム社買収を成功させた秘訣とは何か?
ビーム社買収の成功は、財務的側面以上に、サントリーの企業理念を共有できた点にあると新浪氏は指摘する。特に「やってみなはれ(やり抜く)」の精神や「利益三分主義」に代表される長期視点の価値観が、四半期業績に追われる環境にあったビーム社社員の心に響いたことが最大の要因だ。創業精神を曖牲にしない統合が奏功した。
買収成功の秘訣は三つ挙げられる。一つ目は、相手のプライドを傷つけないこと。バーボンというアメリカの心を象徴する製品に対し、敬意を払い、現地の人々を前面に押し出した。二つ目は、サントリーの創業精神を明確に植え付け、それに異を唱える幹部には交代を促すなど、曖昧さを排除したことだ。三つ目は、CEO自らが「任せるが信用しない」という姿勢を徹底したこと。大型買収においては、トップが直接関与し、誰がボスであるかを明確にすることが不可欠だという。
Q. 日本型資本主義の課題と、日本企業が世界で勝つために何が必要なのか?
新浪氏は、日本の資本主義は世界に対し「アマチュアレベル」だと厳しく評価する。「三方よし」は素晴らしいが、それは「勝って儲ける」ことが大前提だ。この前提を忘れ、勝つための戦略や闘争心が欠けていることが日本の課題であると指摘する。結果として、時価総額においても世界と大きく差をつけられているのが現状だ。
日本企業が世界で勝つためには、変革が必要だ。生え抜き中心の組織文化からの脱却が第一歩であり、外部からの多様な人材を積極的に登用することで、組織の生産性を向上させるべきである。買収なども、多様性を取り入れ、企業文化を変革する良い機会になりうる。変化を恐れず、常に新しい視点を取り入れることが競争力強化につながると強調した。
Q. サントリーを世界ブランドとしてさらに強固にするために何が重要だと考えるか?
世界ブランドを強固にする上で鍵となるのは「ものづくり」と「物語」だと新浪氏は語る。単に美味しい商品を作るだけでなく、製品に込められた思想や背景を伝える「物語」が、顧客の共感を呼び、ブランド価値を高める。特に、サステナビリティに対する取り組みは、グリーンウォッシュではない、嘘のない本物のストーリーでなければならない。実際に取り組んでいることを伝え、信頼を構築することが不可欠だ。
また、サントリー独自のニュアンスを持つ言葉を、敢えて翻訳せず「水と生きる」のように日本語のまま世界に発信することも、その物語性を伝える重要な戦略の一つである。しかし、株主や多様なステークホルダーに理解してもらうためには、その真意を伝えるためのコミュニケーション手法を再検討し、多言語化することも視野に入れていると述べた。
Q. 2030年の野心的なSDGs目標達成に向け、どのようなアプローチを取っているのか?
2030年の野心的なSDGs目標は、自社だけでは達成できないという認識を示した。鍵は「テクノロジー」と「パートナーリング」である。テクノロジーの進化にアンテナを張り、経済合理性を考慮した上で、時には競合他社とも協力して社会全体の善を追求していく方針だ。競合であるアサヒグループホールディングスも参加するプラスチックリサイクル会社「Rプラスジャパン」の設立はその象徴である。
サステナビリティのルールメイキングは欧州が先行しているが、その基準はCO2排出量の多いアジアの実情に合わない場合がある。サントリーはグローバル企業として欧州の動きを注視しつつ、アジアの代弁者として地域に即した解決策を主張・実行していくべきである。また、日米欧の主要工場での2022年中の再生可能エネルギー100%化は、企業の決意があれば達成可能である一方で、インフラが未整備なアジアでの実現はまだ難しいという現状も正直に語った。
Q. 「サラリーマン」の働き方は今後どのように変化していくと予測するのか?
新浪氏は、未来のサラリーマンは、大企業に依存する「寄らば大樹」型と、自らの人生を設計する「自己決定」型に二極化し、「サラリーマン」という言葉自体がなくなる可能性もあると見ている。激動の時代において「寄らば大樹」型は厳しい状況に直面する。企業は、社員が100年人生を見据えて自身のキャリアや人生を考える場を提供することがSDGsの一環であると強調する。
社員教育では、デジタル技術だけでなく、歴史や文化を学ぶリベラルアーツ教育が重要だ。これにより、個人の価値観を広げ、企業と個人の目的がマッチングする関係を築ける。副業なども当たり前になり、誰もが専門性を持ち、企業と対等に協働する「個人店主」のような働き方が主流になるだろうと予測する。
Q. 次世代のビジネスリーダーを目指す若者に最も伝えたいことは何か?
次世代のリーダーになるための絶対条件は「修羅場経験」であると新浪氏は力説する。辛いことから逃げず、負けを経験しながらもそれを乗り越えることで、人間的な深みと強さが養われる。良い時は悪い時に備え、悪い時は良い時を信じて耐える、人生の波を乗りこなす覚悟が必要だ。
また、目指すべきは「逆T字型」人材であると説く。一つの専門性を深く掘り下げ(縦軸)、それを通じて異業種や異なる文化を持つ多様な人々との幅広い交流を築く(横軸)ことが重要だ。専門性なくしては誰も頼ってこず、真の人脈は広がらない。井の中の蛙とならず、広い視野を持ち、日本を再生する一翼を担う人材になるよう、若者に熱いエールを送った。