
日経平均株価の身の丈【井出真吾】
日経平均7万円到達はバブルか実力か?企業業績の「身の丈」と勝ち組セクターの真実
日経平均株価が再び7万円の大台を回復し、株式市場の熱気が一段と高まっている。
しかし、史上最高値圏を推移する現状に対して「実体経済から乖離したバブルではないか」「そろそろ暴落が来るのではないか」と警戒する投資家も少なくない。
1980年代末のバブル期とは異なり、足元の上昇劇には強固な企業収益の裏付けが存在している。
東証によるTOPIX大改革の実態から、AI半導体需要を取り込む「メイド・ウィズ・ジャパン」の強み、さらには4月以降の市場を牽引した意外な勝ち組セクターまで、日本株の現在地を精緻に読み解く。
独自指標である「身の丈」の観点から適正レンジを見極め、今後想定される金利上昇リスクへの備えを整理する。

Q. 東証によるTOPIX大改革で約680社が除外されるが、インデックス投資への影響はあるのか?
東京証券取引所はTOPIXの構成銘柄約1600社から、浮動株時価総額や流動性の基準を満たさない683社を段階的に除外する方針を発表した。
最終的に約1000社へ絞り込まれるため、指標そのものが別物に変貌してしまうのではないかと懸念する投資家も存在する。
結論から言えば、TOPIX連動型インデックスファンドの運用やリターンに対する実質的な影響は皆無に等しい。
今回除外の対象となる銘柄群は超小型株ばかりであり、市場全体に占める時価総額の割合が極めて小さいためだ。
東証全体の時価総額カバー率で見ると、改革前の97.4%から改革後は96.4%へとわずか1%程度低下するにとどまる。
指数に占める大型株の比率が圧倒的であるため、構成銘柄数が大幅に減っても指数の値動きそのものはほとんど変わらない。
機関投資家の視点では1000銘柄でも依然として多く、将来的には300社から500社程度へのさらなる絞り込みが望まれているのが実情だ。
したがって、現在インデックスファンドを保有している投資家が狼狽して売却や見直しを行う必要は全くない。
Q. 地政学リスクが高まる中で日本株の上昇ペースが加速している理由は何か?

日経平均の上昇トレンドを振り返ると、日米の関税合意以降、上昇スピードが明確に跳ね上がっている。
自国優先主義を貫く米国と同盟関係を強化したことで、日本経済および日本企業には地政学的な追い風が強力に吹き始めた。
米中対立が決定的な衝突を避ける「管理された競争」へ移行する中、サプライチェーン再編において日本の存在価値はかつてないほど高まっている。
中国ビジネスにおけるリスクを回避すべく、多くの日本企業が工場や拠点の分散・撤退を進め、収益基盤の安定化を図っている点も好材料だ。
かつての高度経済成長期のように日本国内で完結させる「メイド・イン・ジャパン」の時代はすでに過去のものとなった。
現在求められているのは、世界標準の先端製品群に不可欠な部材や技術を組み込ませる「メイド・ウィズ・ジャパン」の戦略だ。
ドローン製造や造船における高精度な溶接技術のように、日本企業の高度な職人技や部素材がなければ完成しない先端産業は世界中に数多く存在する。
世界から選ばれる唯一無二の技術パートナーとしての地位を築いたことが、海外投資家からの構造的な買いを呼び込んでいる。
Q. 日経平均7万円到達は過熱感によるバブルではなく正当な評価といえるのか?
市場の一部では日経平均7万円に対して警戒感が根強いものの、現在の相場はバブルには程遠い。
株価が適正水準から乖離して暴走した1989年のバブル崩壊前夜は、予想PERが60倍を超え、実力1万円に対して4万円の値がついていた。
警戒シグナルが点灯する基準はPER25倍から30倍以上だが、現在の日本株は適正な利益成長の範囲内で買われている。
6月の一時的な7万円超えは若干背伸びをしていたものの、現時点では業績が急拡大し、7万円という価格が完全に正当化される土台が整った。
今回の株高を支えている最大の原動力は、為替の円安によるかさ上げではなく、純粋な増益という「真水」の部分にある。
今年度の日経平均採用銘柄は純利益ベースで26%もの大幅増益が見込まれており、来年度も2桁増益が続く見通しだ。
中東情勢の緊迫化に伴う原油価格の高騰懸念が後退したことで、企業の業績見通しは4月時点から約1.5倍に上方修正された。
米国のハイパースケーラーによる莫大なAI設備投資需要を日本企業が着実に取り込んでおり、業績の裏付けは盤石である。
Q. 東証33業種で4月以降の上昇率トップとなったセクターとその牽引役は何か?

4月以降の東証33業種騰落率で電機や銀行を抑えてトップに立ったのは、意外にも「サービス業」セクターであった。
飲食や美容など内需全般が好況だったわけではなく、同セクターの時価総額の半分以上を占めるリクルートホールディングスの株価急騰が全体を押し上げた。
同社の株価はわずか半年間で約3倍に膨れ上がり、セクター全体のパフォーマンスを劇的に引き上げる原動力となった。
この躍進の核心にあるのは、先端テクノロジーであるAIの圧倒的な社会実装力である。
リクルート傘下の求人検索プラットフォーム「Indeed」は、独自開発のAIを用いて求職者と企業のマッチング精度を飛躍的に高めた。
その結果、取り扱う仕事の件数を増やさずとも求人1件あたりの収益が35%も改善するという驚異的な生産性向上を実現した。
足元のPERは約33倍と一見高水準に見えるが、将来の継続的な成長を織り込めば割高とは判断されない。
目先の配当還元を抑えて成長分野への再投資を優先する姿勢こそが、グローバル市場で企業価値を最大化させる好例を示している。
Q. 日本株の適正株価を診断する「身の丈グラフ」と主要指数の違いとは何か?
株式市場の割高・割安を客観的に判断するツールとして、PER14倍から16倍(益利回り約7%)の標準レンジを示す「身の丈グラフ」が有効である。
金融市場は極めて合理的に形成されており、市場心理による過熱や恐怖で上下に振れても、最終的には必ずこの身の丈レンジへと回帰していく。
足元では33業種中27業種が増益予想となっており、エネルギー高で逆風を受ける空運や陸運など一部を除く日本企業全体の収益基盤が拡大している。
企業の稼ぐ力が底上げされたことで身の丈そのものが上方シフトしており、現在の7万円台はレンジの上限に綺麗に合致している。
指数投資を選択する場合、TOPIXと日経平均のどちらに優位性があるかを見極めることも重要だ。
TOPIXは自動車やメガバンクといった伝統的な重厚長大産業の比率が高い一方、日経平均はAI・半導体関連株とファーストリテイリングが中核を占める。
生成AI革命やハイテク主導のグローバル成長の恩恵を直接享受しやすいのは日経平均であり、当面の上昇率では日経平均が優位に立ちやすい。
Q. 今後の相場を揺るがす「悪い金利上昇」のリスクと株価シナリオはどうなるのか?

順調に見える日本株にとって、目先で最も警戒すべきダウンサイドリスクは国内の「悪い金利上昇」である。
日本の長期金利が上昇傾向を辿る中、巨額の減税や財政出動に対する確固たる財源が示されなければ、国債信認の低下から金利が急騰しかねない。
行政改革や眠れる基金の回収だけでは数兆円規模の歳出を補えず、市場が財政規律の緩みを懸念すれば「サナエショック」的な急落を招く懸念がある。
市場心理が冷え込んだ場合、日経平均は身の丈レンジの下限である6万円近辺、あるいは一時的な6万円割れまで調整する可能性がある。
もっとも、6万円までの下落は身の丈レンジ内の正常な揺らぎにすぎず、構造的な崩壊を意味するものではない。
本格化する中間決算で企業の業績見通しが5%程度上振れすれば、7万円台は完全に定着し、来年には7万5000円超への到達も視野に入る。
ブラックマンデーであれ各種金融ショックであれ、過去の市場急落は例外なく全戻しを達成し最高値を更新してきた歴史がある。
金利上昇による一時的な急落局面に直面しても、狼狽売りを避け、業績に裏打ちされた押し目を冷静に拾う姿勢こそが賢明である。
