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インド株はなぜ伸び悩むのか:AIの脅威とチャンス
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2026年10月9日

米ビックテックで「AIリストラ」が相次いでいるとされているが、実は従業員数は増えており、インドの「GCC」での雇用を増やしているという。今注目の「GCC」とは一体何なのか。AIはインドにとって脅威でありながらも、チャンスに変える動きも見え始めている。 <ゲスト> 坂田幸樹|IGPIグループ 共同経...
「下請け工場」から「知の集積地」へ。巨大国家インドが仕掛ける産業大転換の全貌
世界屈指の高成長を続け、人口規模でも世界一となったインド経済が今、歴史的な転換点を迎えている。
かつては安価な労働力による受託開発やコールセンターのイメージが強かったが、その実態は劇的な進化を遂げている。
スマートフォン革命を経て産業インフラが整った現在のインドでは、最先端のハイテク産業が次々と立ち上がっている。
欧米の巨大テック企業が本国で人員削減を進める中、インド現地に高付加価値な開発拠点を急拡大させている。
日本企業がインド市場を攻略し協業を進めるためには、従来の垂直統合型ビジネスの常識を捨て去らなければならない。
現地で10年以上にわたり事業支援や投資を手がける坂田幸樹氏の知見から、インド産業の深層を読み解く。

Q. 日本とインドの産業構造にはどのような決定的な違いが存在するのか?
日本とインドの産業構造における最大の違いは、「垂直統合の縦社会」か「水平分業の横社会」かという点にある。
日本の産業は自動車や電機に代表されるように、系列サプライヤーと綿密にすり合わせを行いながら完成品を目指す垂直統合型で発展してきた。
同質性の高い日本社会では所属する組織への帰属意識が強く、前後の工程に配慮しながら品質を高めていく手法が極めて機能しやすい。
一方でインドは、宗教、民族、言語が極めて多様であり、所属組織への帰属意識よりも職能や役割といった横の連携が基盤となる。
インフォシスやタタ・コンサルタンシー・サービシズに見られるように、まず下位レイヤーに大量の人員を投入して盤石な基盤を構築する。
その基盤の上に順次上位レイヤーを重ねていく水平分業の形態をとるため、インドの産業は最初から完成品を目指す頂上からは始まらない。
日本企業が自国の感覚のまますり合わせを求めると、縦の統合力が機能せず事業が頓挫するリスクが高い。
Q. 「インド1.0」から「3.0」へと至る産業の進化プロセスとはどのようなものか?

インドの産業発展は、インフラ基盤の成熟度に応じて1.0から3.0のフェーズに分類して捉えることができる。
2000年初頭から2010年頃までの「インド1.0」は、産業インフラがほぼ存在せず、各企業が自力で環境を整備せざるを得ない時代であった。
当時は品質不良が多発し、インドはものづくりに不向きな国であるという評価が国際的に定着していた。
転機となったのは2010年代の「インド2.0」であり、政府の製造業強化策を背景に産業基盤の整備が急速に進展した。
繊維やアパレル、玩具など、コスト競争力を活かしやすく安全リスクの低いローテク領域から着手し、物流や電力、IT人材の基盤を築いた。
現在の「インド3.0」は、完成した基盤の上にEVや医療機器、航空機部品、半導体といった先端ハイテク産業が次々と立ち上がる段階である。
強固な共通プラットフォームが存在するため、新規参入企業が自前ですべてを抱え込む必要がなく、産業の立ち上がり速度が圧倒的に速い。
Q. 多様性に富むインドにおいてプロジェクトを迅速に進める思考法とは何か?
言語や文化が多様なインドのビジネス現場では、会議室での言葉による事前合意はほとんど機能しない。
日本のように阿吽の呼吸や言葉による綿密なすり合わせを期待しても、共通認識を醸成することは極めて困難である。
そのためインドでは、議論を重ねるよりもまずプロトタイプを現場で実行し、可視化された結果をもとに合意を形成する手法が主流となっている。
完成度が7割程度の段階であっても市場や現場に迅速に投入し、得られたフィードバックを基に軌道修正を繰り返していく。
事前に完璧な正解を探し求めるのではなく、試行錯誤のプロセスを通じて現場で最適解を作り上げていくアジャイル思考が徹底されている。
手戻りを恐れて計画に時間を費やす日本企業とは対照的に、実行と修正のサイクルを高速回転させる姿勢こそがインドのイノベーションの源泉である。
Q. 高いGDP成長率を誇るインドの株式市場が足元で伸び悩む要因はどこにあるのか?
インド経済は高いGDP成長率を維持しているものの、株価の推移は市場の過度な期待に対して停滞気味に見える局面がある。
この背景には、マクロ経済の構造的要因とハイテク産業の評価構造という二つの短期的な課題が存在する。
第一の要因は原油高による為替圧力であり、インドは国内需要の約9割の原油を輸入に依存している。
原油価格の上昇は米ドル需要を急増させ、ルピー安と国内インフレを引き起こすため、中央銀行が金融緩和に踏み切りにくい状況を生み出す。
第二の要因は、世界的な株式市場を牽引する生成AIブームとのミスマッチである。
インド市場には独自のAI基盤モデル開発企業や最先端の半導体製造銘柄がまだ少なく、資金の集中先が限定的である。
さらに、既存の大手ITサービス企業が担ってきた定型的な受託開発業務が、AIの普及によって代替されるという懸念が株価の重荷となっている。
Q. 単なる外注先から高付加価値拠点へと進化する「GCC」とは何か?

AIの台頭は低コストなIT受託業務にとって脅威である一方、インドにとっては極めて巨大な成長機会をもたらしている。
その象徴が、現在インド全土に2000箇所以上設立されている「GCC(グローバル・ケイパビリティ・センター)」の爆発的な拡大である。
かつて海外企業がインドに設置していた拠点は、人件費削減を主目的とするコールセンターや下請け開発センターに過ぎなかった。
しかし近年のGCCは、研究開発や新商品開発、知的財産(IP)の創出を担う中核組織へと完全に質的転換を遂げている。
GAFAMに代表される欧米メガテック企業は、本国で人員削減を進める一方で、インドのGCCにおける高度人材の採用を大幅に加速させている。
トランプ第1期政権時の就労ビザ厳格化やリモートワークの定着により、米国で経験を積んだ優秀なインド人頭脳が本国に留まったことも追い風となった。
いまや世界中のグローバル企業が、安さではなく最先端の知力と技術力を求めてインドのGCCへと殺到している。
Q. 日本企業がインドのGCCや水平分業を活用する上で克服すべき障壁とは何か?
インドのGCC活用において、欧米企業が先行し日本企業が出遅れている最大の要因は、組織のモジュール化能力の差にある。
欧米企業は各部門のミッションや職能要件が明確に定義されているため、特定機能を丸ごとインドへ移管することが容易である。
これに対して日本企業は、部署間の重複領域や現場のすり合わせを強みとしてきたため、特定の業務だけを綺麗に切り出すことが極めて難しい。
日本企業がこの壁を乗り越えるためには、業務の切り出し方に戦略的な工夫を凝らす必要がある。
金融機関のITシステム開発のように、要件定義から実装まで工程が明確に分かれたモジュール化しやすい領域から着手するのが現実的である。
また、完成した業務仕様を一方的に渡すのではなく、要件定義の構想段階からインド現地のGCC人材をプロジェクトに巻き込む設計が求められる。
日本のすり合わせの知恵と現地の水平分業の推進力を融合させる仕組みを構築できた企業だけが、巨大な果実を手にすることができる。
Q. インドが目指す「グローバルサウスのハブ」構想と中国との力関係はどうなるのか?

日本企業の多くはインドを14億人の巨大な単一消費市場として捉えがちであるが、現地の財閥経営者が見据える視野は遥かに広い。
彼らはインドを、中東、アフリカ、東南アジアを含む「グローバルサウス全体の中心ハブ」として位置づけている。
地政学的に西アジアやアフリカに近接し、豊富な若年労働力と軍事力、政治的影響力を併せ持つインドは、新興国市場を束ねる司令塔の役割を担いつつある。
中国との比較においては、確立された製造インフラと先端技術を持つ中国のGDP規模を、インドが短期的に追い抜くことは容易ではない。
しかしインドは、成熟した第3次産業の知力をテコにして製造業の基盤を後から一気に構築するという、特異な発展モデルを歩んでいる。
安価な下請けから高付加価値な技術拠点へと急速に舵を切るインドは、やがて中国と並び世界経済を牽引する二大巨頭へと成長していくに違いない。