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日本人は国産米を食べ続けられるか
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2026年10月8日

日本の食料安全保障と国産米の自給維持に向けた課題を検証。2050年に向けた農地減少リスクや、コメの輸出・補助金政策の現実的限界を指摘。主食の100%自給を維持するために不可欠な品種改良や直販技術といった「生産性改革」の重要性について、専門家が提言する。 <ゲスト> 稲垣公雄|三菱総合研究所 研究理...
令和の米騒動から読み解く日本農業の岐路と2050年食料安全保障の防衛ライン
スーパーの棚から米が消え、価格高騰が社会問題となった「令和の米騒動」は、日本が長年維持してきた食料供給システムの脆弱性を白日の下に晒した。
政府は令和9年度からの水田政策見直しを打ち出しているが、現行の枠組みの延長線上にある対症療法にとどまり、根本的な構造改革には踏み込めていないとの指摘も多い。
米の低価格輸出の限界、国民の生存を支える農地面積の激減危機、そして単収改善や直播などの生産性革新まで、日本農業は極めて重要な転換点に直面している。
将来にわたって国民が米や基礎食料を食べ続けるためには、どのような政策転換とビジネスモデルの変革が必要なのかを論点ごとに解き明かす。

Q. 令和の米騒動に対する政府の政策対応や水田政策の見直しは根本的な解決策になり得るのか?
政府が打ち出した需要精査の強化や民間備蓄の積み増しといった施策は、足元で乱高下した米価の沈静化に対して即効性を持つものではない。
令和9年度から全面的に見直される水田政策も、個々の生産者の地力を高める支援が柱とされているものの、構造的には旧来の政策の延長にとどまっている。
日本の米政策の最大の問題点は、作付制限によって主食用米の供給量を絞り込み、価格を維持しようとする制度構造そのものにある。
本来コントロールしたい主食用米には補助金を出さず、飼料用米や麦、大豆などの転作作物に対して手厚い補助金を配分する歪んだ仕組みが今なお続いている。
主食用米は1キロあたり341円という高関税の国境障壁で保護されているため、二重の補助は出せないという理屈が背景に横たわっている。
将来的な生産基盤の崩壊を回避するためには、主食用米を自由に作付けさせて市場価格の下落を促し、基準価格との差額を公費で補填する「直接支払い制度」への転換が有力な選択肢となる。
生産制限を続けて国内市場のみを守ろうとすれば、高齢化に伴う離農によって生産量そのものが減少し続け、輸入米に依存せざるを得ない事態に陥りかねない。
令和9年以降の動向次第では、対症療法的なチューニングを脱し、欧米型の直接支払いを含む抜本的な政策刷新へ舵を切ることが不可欠である。
Q. 米を作りすぎて余剰が出た際に安易に海外へ輸出して農家所得を補う戦略は成立するのか?

余剰米を海外へ輸出すれば農家が潤うという見方は、国際穀物市場の過酷な現実と大幅な価格乖離を見落とした短絡的な議論である。
国内の米価が5キロあたり3000円前後の水準にあるのに対し、米国の現地カリフォルニア米は1500円程度、東南アジアのタイ米やベトナム米に至っては700円前後で流通している。
主食用の一般米で価格競争を挑もうとすれば、日本の生産コストを半分以下に切り下げなければ勝負にならず、現状の生産体制では到底成立しない。
過去に米国市場などで日本米が安値で販売されていた事例は、多額の輸出補助金が投入されていたからに過ぎない。
先進国が多額の公金を投じて輸出補助金を支給し安売りを仕掛ける行為は、WTO(世界貿易機関)の通商ルール上も極めて危うい立場に置かれる。
さらに深刻なのは、「国内で余った時だけ輸出し、いざとなれば輸出を止めて自国で消費する」という発想が主食輸出国としての信義にもとる点である。
有事に供給が途絶する可能性のある穀物を主食として恒常的に買い支えてくれる輸入国は、アジアにもアフリカにも存在しない。
日本米が海外で目指すべき活路は、低価格競争ではなく、1膳500円や5キロ1万円でも評価される超高級なブランド米市場の確立である。
世界の富裕層や高級日本食レストランに照準を合わせ、圧倒的な品質価値で勝負するニッチ市場の開拓こそが現実的な輸出戦略となる。
Q. 国民が将来も飢えずに食料を自給し続けるために最低限維持すべき農地面積はどれくらいか?
食料安全保障を維持する上で、有事の際に国民が生きていくための最低限の熱量をまかなう物理的限界ラインが存在する。
国民1人が生存に必要な熱量を供給するには、芋類や野菜の組み合わせを考慮しても1人あたり最低3.5アールの農地が必要とされる。
具体的には、主食用の米を年間100キロ程度確保するために約2アールを要し、残る1.5アールで野菜や代替熱量作物を栽培してようやくギリギリ賄える計算である。
現在の日本の総農地面積は約420万ヘクタールであり、人口で割るとちょうど1人あたり3.5アールを満たす防衛ライン上にある。
しかし、農業の収益性の低さや後継者不足を放置すれば、2050年には農地面積が約270万ヘクタールまで激減する恐れが現実味を帯びている。
将来人口が1億人規模へ減少したとしても、270万ヘクタールでは1人あたり2.7アールまで縮小し、有事に国民へ最低限のカロリーを届けることすら物理的に不可能となる。
日本が国家として生存基盤を守るためには、いかなる事態にあっても350万ヘクタールの農地を死守しなければならない。
米の100%自給を厳格に維持した上で、余剰水田を活用して小麦や大豆の生産を拡大し、農地全体の稼働率を底上げする戦略が不可欠である。
Q. 狭小で分散した日本の農地において米作りの生産性を飛躍的に高める現実的な手法はあるのか?

農業の生産性向上といえば自動操舵トラクターなどの大型機械化が想起されがちだが、日本の農地構造においては機械化だけでは限界がある。
圃場が各地に細かく分散している日本では、トラクターが田んぼで作業する時間よりも圃場間を公道で移動する時間の方が長くなるという構造的非効率を抱えている。
農地の集約は所有権や相続の問題が絡むため一朝一夕には進まず、機械化と並行して栽培技術そのもののイノベーションを推進する必要がある。
極めて有望なブレークスルーが、育苗や田植えの手間を省き種籾を水田へ直接撒く「直播」とドローン散布の掛け合わせである。
直播とドローン技術の確立により、作業労力を従来の6分の1程度まで大幅に圧縮することが可能となり、分散した狭小農地でも高い作業効率を実現できる。
加えて、日本の米作りが50年間にわたり食味重視の研究に偏重し、単収(単位面積あたりの収穫量)の改善を軽視してきた歴史を改める必要がある。
日本の1反あたりの収量は約500キロで半世紀前から停滞しており、700キロ超を収穫する米国や二毛作・三毛作を行うベトナムに生産性で大きく劣後している。
減反政策の重圧から解放され、単収向上や酷暑耐性を持つ多収品種の開発に本気で注力すれば、短期間で反収700キロ台への引き上げは十分可能である。
さらに温暖化の進展を逆手に取り、麦との二毛作を北の地域へ拡大して農地を年間通じて稼働させることで、農家所得の倍増を狙うことができる。
Q. 巨額の補助金や保護関税に依存することなく持続可能に稼げる農業経営は実現できるのか?

米や麦、大豆といった土地利用型の穀物農業において、関税保護や公的支援を完全に撤廃した完全自立を求めるのは現実的ではない。
米にかかる1キロあたり341円の関税は消費者が国産米を守るために間接負担している実質的な補助金であり、広大な農地を持つ米豪勢とのコスト差を埋める命綱である。
現在、年間3兆から4兆円規模に上る農業関係の国民負担は、OECD諸国と比較しても突出して高い水準ではなく、国の生存を担保する防衛費と同様の「安保コスト」と位置付けるのが妥当である。
一方で、現行の支援制度や市場環境を戦略的に活用すれば、農業を高い収益を生む成長ビジネスへと昇華させることは十分に可能である。
生産者の高齢離農が進んだ結果、多くの品目で供給不足が生じており、需要の高い野菜類であれば1〜2ヘクタールの規模でも徹底したマーケティングにより高収益を叩き出す経営者が増えている。
穀物生産においても、20ヘクタール規模の農地集積と二毛作の導入、最新技術によるコスト削減を組み合わせることで、強固な収益基盤を確立できる。
資材や重機の高騰で新規参入が難しくなる中、原料調達の危機感を強める食品メーカーや流通大手が資本を投じ、既存農家と協業する動きも加速している。
農業を補助金頼みの衰退産業と諦めるのではなく、企業の参入と意欲ある若手経営者の台頭を後押しすることで、次世代の食料基盤を築く道筋が拓けている。