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習近平の頭の中。AIを徹底強化する理由
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2026年10月1日

米中首脳会談は、米国、中国、日本の視点から、どう評価できるのか?根底にある習近平の戦略とは何か?前駐中国大使の垂秀夫氏に聞いた。 <ゲスト> 垂秀夫|前駐中国大使 京都大学卒業後、外務省に入省。在香港日本国総領事館領事、日本台湾交流協会台北事務所総務部長、在中国日本国大使館公使などを歴任。2020...
社会全体のAI化と原発100基シフトの裏で進行する中国経済の歪みと構造的限界
世界的なAI覇権争いが激化するなか、中国は従来の枠組みを根底から覆す異次元の国家戦略を展開している。
米国の半導体規制を受けながらも、産業や社会の基盤そのものを丸ごとAI化する「AIプラス」を掲げ、その莫大な計算資源を支えるために100基超の原子力発電所配備を推し進めている。
しかし、その華々しいハイテク推進の足元では、内需の崩壊や過剰生産、そして国民の絶望的な閉塞感が急速に拡大している。
習近平政権が掲げる「国家安全」第一の発展モデルの実態と、先端産業偏重がもたらす構造的な歪みを徹底的に解き明かす。

Q. 習近平政権が進める「総体的国家安全観」とは従来の経済優先路線と何が根本的に異なるのか?
1978年の改革開放以来、鄧小平から胡錦濤の時代まで中国の国家戦略の核は一貫して「経済発展」にあった。
しかし2012年に発足した習近平体制は、その発展モデルが生み出した格差や汚職といった矛盾を是正すべく、国家の基本方針を大転換させた。
それが国防のみならず政治、経済、社会、文化、教育など全領域に安全の意識を行き渡らせる「総体的国家安全観」である。
2013年には習近平自らがトップを務める国家安全委員会が新設され、現在も党と国家の最高意思決定機関として君臨している。
日本をはじめとする西側諸国は依然として中国を「経済成長を最優先する国」と捉えがちだが、その認識は実態と大きく乖離している。
現在の中国が目指す「中国式現代化」とは、強固な監視・管理体制を土台とし、その統制の上に経済成長を乗せるモデルにほかならない。
Q. なぜ中国は最先端半導体で劣勢に立ちながら「社会全体のAI化」を推し進めるのか?

米国による厳しい輸出規制により、中国は単体で最高性能を誇る最先端GPUを自国で製造することが極めて困難な状況にある。
そこで中国が採った戦術は、個別の先端チップ性能で争うのではなく、一世代前のGPUを大量に並列接続して擬似的に最先端と同等の演算力を生み出すという力技である。
ファーウェイやアリババなどの巨大IT企業がこの手法を採用し、自立的な半導体エコシステムの構築を急いでいる。
同時に、中国は単体の生成AIモデルの賢さを競うだけでなく、製造業、農業、造船といったあらゆる実体経済にAIを組み込む包括的な産業AI化を推進している。
AIをあたかも社会を動かす「電気」のようなインフラとして位置づけ、システム全体の総合力で西側諸国を凌駕しようと試みている。
要素技術の遅れを国家主導の実装スピードとシステム全体の規模で補う発想が、この戦略の根幹にある。
Q. なぜAI駆動を支えるエネルギー源として太陽光ではなく原子力発電の大量配備に突き進むのか?
旧世代の半導体を並列接続して高度なAI演算を行う力技は、極めて致命的な代償として「天文学的な電力消費」を伴う。
広大な国土を活かした太陽光や風力といった再生可能エネルギーの導入も急速に進められているが、天候に左右される不安定な電源では、24時間膨大な計算を続けるデータセンターの需要を満たせない。
この圧倒的な電力不足を根本から解決する切り札として選ばれたのが、原子力発電の国家的大規模シフトである。
中国国内ではすでに約70基の原発が稼働しており、現在建設中の30基以上を合わせると総数は100基を突破する規模に達している。
AI競争の勝敗は最終的に電力インフラの優位性で決まるという現実的な計算に基づき、送電網や冷却設備と一体化した巨大原発網の構築を猛スピードで進めている。
Q. ハイテク産業への巨額投資が続く一方で、なぜ中国国内では過剰生産と深刻なデフレが起きているのか?

現在の中国経済の状況は、まさに「一将功成りて万骨枯る」という成句で表現できる。
AI、人型ロボティクス、量子コンピューターといったごく一部の先端分野に巨額の国家補助金が注ぎ込まれる一方、かつて国内総生産の3割強を支えた不動産市場は冷え込み、一般消費は極端に縮小している。
二層構造化した経済の裾野では、公式統計以上に深刻なデフレ圧力が大衆の生活を直撃している。
さらに深刻なのは、AIによる徹底した工場自動化が生産性を飛躍的に高める一方で、雇用を奪い家計所得の増加につながらないという矛盾である。
内需が縮小しているにもかかわらず物資の生産量ばかりが増え続けるため、国内市場は構造的な過剰生産に陥る。
行き場を失ったEVや白物家電などの製品は海外へ極端な安値で輸出され、欧米諸国との間で激しいダンピング摩擦を引き起こしている。
Q. 中国製AIやロボットなどのハイテク製品が世界市場を席巻することにどのような構造的限界があるのか?
国家が目標を定め巨額の補助金を投入する中国モデルは、一見すると資源を集中投下できる合理的な仕組みに見える。
しかし実際には補助金目当ての企業が一斉に群がり、過剰参入と粗製濫造が繰り返される構造的欠陥を抱えている。
かつて300社が乱立して放置車両の山を築いたEV産業と同様のバブルと淘汰が、今や人型ロボットの領域でも再燃している。
さらに決定的な障害となるのが、共産党統治国家に対する世界的な不信感と安全保障上の警戒網である。
WeChatのように極めて利便性の高いアプリであっても、データ漏洩の懸念から華人社会の外へは普及していない。
かつて中国製ドローンが各国の公的機関から排除されたのと同様に、走行中の会話を記録しうるコネクテッドEVやAI機器も、先進国市場から締め出される限界を抱えている。
Q. 厳格な統制と閉塞感に苦しむ中国社会で広がる「内巻」や「寝そべり」は体制にどのような影響を与えるのか?

ゼロコロナ政策下での徹底した都市封鎖を機に、多くの中国国民は生活と移動の自由が奪われる恐怖を骨身に染みて実感した。
富裕層や高度な技術を持つエリート層は資金を伴う海外移住を加速させたが、当局は資本流出と頭脳流出を阻止するために出入国管理を厳格化し、国内への封じ込めを図っている。
外への逃げ場を持たない若者たちの間では、過酷な消耗戦である「内巻」を嫌悪し、一切の労働意欲を放棄する「寝そべり族」が急増している。
AI監視網によって反政府デモのような直接的行動は力で完全に封殺されているものの、社会の底流には強烈な閉塞感と不満エネルギーが確実に蓄積されている。
表層的な秩序が維持される一方で、体制を揺るがす不満のマグマは深層で膨張し続けている。
Q. 習近平への権力一極集中が進むなか、将来訪れる「Xデー」に向けて日本企業や政府は何を準備すべきか?
現在の中国では、最高指導者1人に権力が過度に集中した結果、政策の誤りを自己修正する制度的機能が麻痺している。
主要な敵である米国を孤立させるべき伝統的な統一戦線理論を忘れ、日本や豪州、欧州などを無差別に威嚇する「戦狼外交」を展開して自ら孤立を深めるなど、戦略の粗雑化が顕著である。
独裁体制が硬直化する以上、指導者の寿命や社会不満の噴出によって急激な地殻変動が生じる「Xデー」はいずれ不可避となる。
その崩壊過程はソフトランディングからハードランディングまで多様なシナリオが想定される。
日本は目先の2、3年という極端に短い時間軸にとらわれず、10年から20年先を見据えた「臥薪嘗胆」の姿勢で、地政学的激変に対処できる戦略的布石を整えておく必要がある。