PIVOT TALK SCIENCE
老朽化インフラの危機
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2026年9月25日

日本のインフラ老朽化と人手不足は危機的状況にある。宇宙からミリ単位の地盤変動をどう検知するのか。水道管の漏水リスクをどう宇宙から見抜くのか。宇宙ビジネスメディア「宙畑」編集長の中村友弥氏、スカパーJSATの穴原琢摩氏、天地人の中村凌氏に徹底解説してもらった。 <ゲスト> 中村友弥|宇宙ビジネスメデ...
人手不足の日本を救う「衛星データ」の衝撃:インフラ崩壊を防ぐ宇宙ビジネスの最前線
少子高齢化に伴う深刻な人手不足に直面する日本において、社会インフラの維持管理は限界を迎えつつある。
道路や橋梁、水道管といった膨大な社会資本の老朽化が進む一方、現場を担う土木技術者や点検人員は急速に減少している。
この危機を打開する切り札として今、宇宙空間を周回する人工衛星データの活用に熱い視線が注がれている。
かつて学術研究の域を出なかった衛星解析は、AI技術やデータ処理の進化によって実用フェーズへと一気に移行した。
上空数百キロメートルから地上数ミリの変動を捉え、見えない地下の漏水リスクを予測する技術がすでに現場へ実装されている。
本稿では、衛星市場の最前線を走るスカパーJSATと天地人の取り組みを通じ、宇宙データが切り拓くインフラ保全の未来を紐解く。



Q. 人工衛星にはどのような種類があり、それぞれどのような社会課題を解決しているのか?
現在宇宙ビジネスで商用化が進んでいる人工衛星は、大きく「通信衛星」「測位衛星」「地球観測衛星」の3つに分類される。
通信衛星は、航空機や船舶、山間部など地上の携帯基地局がカバーできない地域にインターネット回線を提供する。
スペースXのスターリンクが世界的な話題を呼ぶ中、日本ではスカパーJSATが強固な国産通信インフラを維持し、災害時のバックホール回線としても不可欠な役割を果たしている。
測位衛星は、スマートフォンやカーナビでおなじみのGPSに代表される、位置情報を特定するための衛星である。
日本の準天頂衛星「みちびき」はほぼ真上から電波を照射するため、高層ビル群の谷間でも数センチ単位の極めて精密な測位を可能にし、将来の自動運転に欠かせない基盤となっている。
そして第3の地球観測衛星が、気象予測から農地や都市インフラのモニタリングまでを担い、いま最も実用化の革新が進む領域である。
Q. 地球観測衛星における光学データとSARデータにはどのような特徴や違いがあるのか?
地球観測衛星が取得するデータには、主に人間の視覚に近い「光学データ」と、電波を用いる「SAR(合成開口レーダー)データ」がある。
光学データは太陽光の反射を利用した可視光や近赤外線の画像であり、1ピクセルあたり約30センチという極めて精密な解像度を誇る商用データも存在する。
これにより農作物の生育状況を把握して米や小麦の品質を向上させたり、港湾の船舶数をカウントして先物取引に役立てたりできる。
しかし光学データは雲や夜間には地表を観測できないという物理的な制約を抱えている。
その弱点を克服するのが、衛星自らマイクロ波を発射して反射を捉えるSARデータである。
SARは雲を透過するため、豪雨による浸水被害の把握や夜間の被災状況確認、さらにはミリ単位の地盤変動計測において威力を発揮する。
Q. なぜスカパーJSATは観測分野に進出し、従来比1660倍という驚異的な解析速度を実現できたのか?
スカパーJSATは、従来の放送事業や通信衛星事業に加え、自社の運用ノウハウを最大化できる新領域として地球観測分野に本格進出した。
SARデータは取得時点では画像化されておらず、複雑に絡まり合ったコードのような生データとして地上へ届く。
一般的な研究機関やエンジニアは、膨大な時間をかけてこの生データをまず全体画像へとほぐし、その後に解析を行う。
だがスカパーJSATは、衛星管制と地上局運用を一気通貫で手掛けてきた知見を活かし、未処理の生データから必要な箇所だけを直接切り出して解析する手法を編み出した。
全体を画像化する無駄なプロセスを中抜きする垂直統合型のアプローチにより、従来の1660倍という驚異的な処理速度を叩き出すことに成功したのである。
Q. スカパーJSATの地盤変動監視サービス「LIANA」は現場の作業をどう変えるのか?
スカパーJSATが開発した「LIANA(リアーナ)」は、約800キロメートル上空から地盤の動きを数ミリ単位で数値化するモニタリングシステムである。
秒速約7キロメートルで飛行する衛星を活用することで、東京23区全域の地盤変動計測をわずか7秒程度で完了させることができる。
これまで作業員が危険な山間部を歩き回って行っていた斜面崩壊の兆候点検や、航空便を止めて厳密に実施していた空港滑走路の傾斜測定が、現場に足を踏み入れることなく瞬時に完了する。
さらにアルゴリズムの革新により、世界標準ツールで80時間かかっていた計算処理をわずか1時間へと80分の1に圧縮した。
全国展開時に億単位で発生する膨大なクラウド費用を削減したことで、かつて1000万円規模を要した斜面解析を数十万円から提供可能にし、インフラ保全のコスト構造を根底から変革している。
Q. JAXA認定ベンチャー天地人の「宇宙水道局」は水道インフラの危機をどのように救うのか?

高度経済成長期に整備された日本の水道管は、法定耐用年数である40年を超えるものが激増しているが、人員不足と予算難から年間の更新率は極めて低い水準にとどまる。
この課題を解決すべくJAXA認定ベンチャーの天地人が開発したのが、漏水リスク判定プラットフォーム「宇宙水道局」である。
宇宙水道局は、衛星から得られる地表面温度や地盤変動データと、自治体が保有する管路情報や人口密度などの地上データをAIで統合解析する。
水道管の凍結や寒暖差による熱ストレス、土壌の動きを学習モデルに組み込むことで、漏水リスクをAからEまでの5段階で可視化する。
広大な水道網全体から点検すべき重点エリアと危険な管路を特定できるため、自治体は音聴棒による地道な現地調査の対象を絞り込み、限られたリソースで効率的な保全計画を立案できる。
Q. 衛星データビジネスが直面する限界と今後生き残るための勝ち筋とは何か?
衛星データは一見万能に思えるが、「上空から見れば何でも解決する」という過度な期待は現場とのギャップを生む。
高解像度の精密な衛星画像は1回の撮影で数十万円単位の費用が発生するため、スマホ写真向け汎用AIをそのまま適用するとコストが見合わなくなる。
高価なデータに頼るのではなく、安価あるいは無料の粗い画像から現場が求める情報をいかに推定できるかが、実用化の成否を分ける。
また、衛星データ事業者が持続的な収益を上げるには、防災や農業などあらゆる分野に手を広げるのではなく、他社に負けない尖ったキラーユースケースを持つことが不可欠である。
スカパーJSATの圧倒的な解析速度と低価格化、天地人の水道特化プラットフォームのように、土木コンサルや地図大手との協業を通じて現場の意思決定に直結させたプロダクトだけが、激化する宇宙ビジネスを勝ち抜いていく。