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つながらない権利
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2026年9月3日

業務時間外の連絡を放置すれば、重大なシステム障害や顧客対応の遅れを招くリスクがある。一方で、過度な連絡は社員のモチベーションを奪う。緊急性の線引きをどう定義すべきか?評価と連絡をどう切り離すか?マイナビキャリアリサーチLabの関根貴広氏が語った。 <ゲスト> 関根貴広|マイナビキャリアリサーチLa...
「つながらない権利」の真の意義とは?蔓延する時間外連絡をなくす3つのポイント
業務時間外の連絡に一切応じないことを「つながらない権利」だと誤解していないか。この権利の核心は、単なる連絡拒否や無視ではなく、業務時間外に応答しなかったことを理由に労働者が不利益を受けないという点にある。
では、多くの従業員が「できれば避けたい」と願う業務時間外の連絡が、なぜ依然として蔓延するのだろうか。その実態と背景にある心理的要因を掘り下げ、企業が講じるべき具体的な解決策を探る。

Q. 「つながらない権利」はどのようなものか?
つながらない権利とは、勤務時間外や休日に仕事の電話、メール、チャットに対応しないことを「選べる権利」である。本質は、これらの対応を行わなかったことで、評価や待遇において不利益を被らないことだ。日本では2026年中の法制化が見送られているが、企業によっては独自のガイドラインを策定している事例も見られる。
この権利は、従業員のプライベートな時間の確保やメンタルヘルス保護を主な目的としている。単に業務時間外の連絡を物理的に遮断するだけでなく、対応しない選択をした従業員が、組織内で不当な扱いを受けることなく安心して働ける環境を整えることが重要だとされる。
Q. 業務時間外の連絡はどれくらい発生しているか?
マイナビキャリアリサーチラボの調査によると、業務時間外に仕事の連絡が「来る」正社員は約7割に上る。役職別では、部長職と課長職ではその割合が約9割にも達する。これは、業務時間外の連絡が、多くの企業で常態化している実態を浮き彫りにしている。
連絡を「する」側についても同様の傾向が見られ、正社員の約7割、特に管理職層では約9割が業務時間外に連絡している。非管理職でも同階層間での連絡が多く、職場全体で時間外連絡が当たり前のものとなっている可能性が高い。管理職が「ハブ」となり、連絡の連鎖を加速させている側面も存在するのだ。
Q. なぜ従業員の多くは時間外連絡を拒否したいと考えるのか?

多くの従業員が業務時間外の連絡に対し、本音では拒否したいと考えている。調査では6割以上の従業員が「できれば拒否したい」と回答した。特に20代にその傾向が強く、次に40代、30代と続く。この背景には、プライベートな時間を侵害されることへの抵抗や、仕事と生活の区別を求める意識があると考えられる。
しかし、多くの従業員は「拒否したい」という本音とは裏腹に、実際には時間外連絡に対応せざるを得ない状況に置かれている。個人的な希望とは異なるこうした行動が蔓延している背景には、連絡の「緊急度」に関する認識のずれや、不利益を被るのではないかという従業員の根深い「不安」が潜んでいる。
Q. 業務時間外の連絡がなくならないのはなぜか?

時間外連絡がなくならない最大の要因は、業務の「緊急度」に関する認識のずれと、関係者双方の「不安」が挙げられる。特に上司と部下の間では、連絡の緊急度認識に30%以上の乖離があるというデータもある。部下は「報告しないことで問題が拡大したらどうしよう」という不安から、上司に即時報告を試みる場合が多い。例えば、顧客への影響を懸念し、会議資料の軽微な修正でも即座に共有する行動などがこれに当たるだろう。
一方で、上司側も連絡を無視できない複数の不安を抱えている。「見落とせば仕事が停滞するかもしれない」、「上位職からの連絡に応答しないと自身の評価に影響する」、「部下からの重要な連絡を軽視した結果、大きな問題に発展するかもしれない」といった心理的なプレッシャーだ。これらの「連絡しない不安」が、時間外の連絡を必然のものとし、悪循環を生み出している。
さらに、管理職層は組織内で「ハブ」のような役割を担っており、上からの連絡を下へ、下からの連絡を上へと中継することで、結果的に時間外連絡の連鎖を増幅させている。自身の立場を守るため、または仕事が止まることへの不安から、勤務時間外であっても積極的に連絡を取り続ける傾向が見られる。これが組織全体の業務時間外連絡のサイクルを強固にしているのである。
Q. 評価への不安が時間外連絡にどう影響するか?
業務時間外の連絡に応答しなかったり、対応が遅れたりすることで、「会社への熱量が低い」、「協力的でない」、「コミットメントが足りない」などと見なされ、人事評価に悪影響を及ぼすのではないかという従業員の不安が、時間外連絡の連鎖を助長している。この評価への懸念は、多くの従業員に「つながらない権利」の行使を躊躇させている。
過去の調査でも明らかになったように、社員の「熱量」や「会社へのコミットメント」といった曖昧な要素が評価基準とされる場合、時間外の自発的な対応がこれらを示す行動として暗黙的に評価される風潮が生まれる。この「評価される行動」に対する期待や、不利益回避の思惑が、従業員の自由な選択を制限し、時間外の労働慣行を根深くしている要因の一つである。
Q. 「安心してつながらない」職場を作るにはどうすればよいか?

従業員が「安心してつながらない」ことを選べる職場を作るためには、主に以下の3つのポイントを組み合わせた職場設計が必要不可欠である。第一に、「緊急度の明確な定義」。何が本当に業務時間外の対応を必要とする緊急事態なのかを具体的に定める必要がある。重大事故やシステム障害、顧客への深刻な影響が懸念される事案など、客観的な基準を設けることで、従業員間の認識のずれを解消し、グレーゾーンを排除する。しかし、この定義は現場の運用と乖離しないよう注意が求められる。
第二に、「返信期待ルールの整備」。連絡があった場合にいつまでに、どのように対応すべきかの期待値を明確化することだ。例えば、メッセージの末尾に「この件は明日対応で構わない」と一言添えるなど、連絡発信者が返信期待値を明示することで、受信者の心理的負担を軽減し、無用な即時対応を抑制する。現場からの一歩ずつの工夫が重要となる。ただし、報道関係者など突発的な事態への即応が求められる特定の業界では、ルール策定の難しさや、業務の性質上どうしても時間外対応が必要となるケースも存在する。この場合は、詳細な対応基準や明確な手当支給ルールを設けるなど、業界の実情に応じた柔軟な設計が求められるだろう。
そして第三に、そして最も重要なポイントは、「評価と時間外連絡の切り離し」である。業務時間外の連絡に対応しなかったことを理由に、人事評価で不利益を被ることがないという保証がなければ、従業員の不安は払拭されない。「熱量」や「コミットメント」といった曖昧な評価指標と、時間外の連絡対応を連動させない仕組みの構築が必要だ。制度として設計しても、同調圧力や周囲の状況によって「あの人はやっているのに」という無言のプレッシャーが生まれないよう、管理職が明確なメッセージを出し、公平な評価基準を浸透させる努力が不可欠である。これらの取り組みを通じて、誰もが安心して業務とプライベートの区別を守り、生産性高く働ける環境が実現できるだろう。