
マンション高騰の真実。「住まない買い手」の正体
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2026年8月26日
なぜ新築も中古もマンション高騰が止まらないのか?その背景にある構造変化と、過度な高騰を抑えるための政策について、明治大学の野澤千絵教授に聞いた。 <ゲスト> 野澤千絵|明治大学教授 大阪大学大学院修士課程修了後、ゼネコン勤務を経て、2002年東京大学大学院にて博士(工学)取得。2007年より東洋大...
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住宅が高騰して買えない? 実需から乖離した市場を支配する「住まない買い手」の正体
今日の日本で住宅の購入が困難な状況が続いている。特に都心部のマンション価格は高騰し、手が届かないと感じる人は少なくないだろう。
この価格高騰の背景には、単純な需要増だけでなく、より根深く構造的な問題が潜んでいると明治大学の野澤千絵教授は指摘する。
本記事では、詳細なデータと調査に基づき、市場を歪める「住まない買い手」の正体と、その影響を解き明かす。

Q. なぜ日本の住宅はこれほどまでに購入困難になっているのか?
住宅購入が困難な最大の要因は、価格高騰そのものではなく、市場の主導権が「住む人」から「住まない買い手」へ完全に移行した構造にある。投資家や法人のような非居住者が市場を設計し、実需とは乖離した形で価格を吊り上げている状況である。
東京23区のタワーマンション約300棟を調査した結果、全所有者の51%が非居住者であることが判明した。この非居住者層がさらに非居住者へと転売を繰り返す「マネーゲーム」が常態化しており、結果として実際に居住を目的とする人の手に住宅が渡らない異常事態が進行している。
Q. マンションの金融商品化はどのように進んできたのか?

特にコロナ禍以降、世界的な過剰流動性資金が流入し、日本のマンションは純粋な金融商品として売買される傾向が本格化した。投資目的の取引が過半数を占めることで、不動産市場は急速に変質し、もはや宅地建物取引業法の適用範囲では対応できないと指摘されるほどである。
東京鑑定のデータを用いた実証分析では、短期的な不動産転売率とマンション価格上昇率の相関係数が極めて高い「0.878」を記録した。
これは転売の活発化が価格暴騰の直接的な引き金となっていることを明確に示している。転売が多ければ多いほど、物件価格は高騰していく構造が顕著に現れているのだ。
Q. 東京以外でも広がる投機的な買いとは?
不動産投機の問題は東京に留まらない。大阪の都心部では、万博やIR(統合型リゾート)、副首都構想といった将来期待材料を背景に、東京と同様の短期転売モデルが定着している。実際に登記簿を調べると、短期間に何度も転売が繰り返され、非居住者間で売買が完結し、居住を目的とする人々に住宅が届かない事例が多く見られる。
利便性の高い住宅地であっても実需層に渡ることなく、投資家が価格を吊り上げ続けている。
神戸市の調査でも、市内のマンション8万8000戸を精査したところ、都心中心部では約5戸に1戸の割合で住民票登録がないという実態が明らかになっている。
Q. 都市の「ゴーストマンション化」が招く問題とは?

住民票が存在しないマンション、いわゆる「ゴーストマンション」の広がりは、自治体の税収減にも直結する。神戸市のデータによると、高層階になるほど非居住者率は増大し、40階以上のタワーマンションでは約6割の部屋に住民票が置かれていない。
住民票がないということは、多くの場合、住民税が徴収できないことを意味し、マンションが多数建設されても自治体の財政に貢献しない。また、非居住の所有者が過半数を超えるマンションでは、管理組合の運営や理事のなり手不足、水漏れなどの緊急事態発生時の対応遅れといった深刻な問題が発生するリスクが高まる。
かつては居住者目的で購入されていたマンションも、わずか10年で所有者構成が劇的に変化し、居住を目的としない買い手が中心となっているのである。
Q. 中古・賃貸市場にも影響があるのか?
新築マンション価格の高騰から中古市場へと実需が流れ込んだ結果、中古価格も暴騰している。東京、大阪、福岡などでは中古マンションの成約価格が数年で約2倍になるケースも見られ、これは一般市民にとって、新築、中古、賃貸のどれを選んでも高すぎるという「三重苦」をもたらしている。
都心部から一歩離れた準郊外の板橋区でも、従来は居住者間の売買が中心だったが、11年間で居住者同士のバトンが崩壊し、全体の6割以上が非居住者へと売却されている。
さらに中古市場では二極化が進み、築10年未満の物件に投機需要が集中し価格が高騰する一方で、築35年以上の老朽化物件は大規模修繕問題などで価格維持が困難になり暴落する傾向にある。平均価格だけを見ると高騰に見えても、その内実には厳しい分断が存在するのだ。
Q. 「顔の見えない法人」や海外からの投資家が市場にどのような影響を与えているのか?

「住まない買い手」は、賃貸投資、短期転売、富裕層による資産保有、そして地政学リスクを回避する「資産退避」という4つの主要なタイプに分けられる。特に「資産退避」目的では、台湾有事への備えや自国の厳しい課税ルール(韓国など)を避けるため、規制の緩い日本国内の法人を仲介させた海外からの資金流入が急増している。
登記簿調査からは、公式ウェブサイトも持たない「顔の見えない法人」が多数のマンションを購入している実態が浮かび上がっている。
千葉県や大阪市西区の分譲物件データでは、取得法人の6割以上がウェブサイトを持たないペーパーカンパニーや、不動産業とは無関係な業種の企業であることが明らかになっている。これらの法人は特定の人気マンションを複数個買い占め、短期転売や資産保有を繰り返すことで、実需と乖離した価格高騰を加速させている。個人的な利益を追求する合理的な行動の集積が、結果として社会全体での住宅問題を深刻化させているのである。
Q. 住む人のための住宅市場を取り戻すには、何が必要か?
現在の状況は、住宅が本来持つ「社会的機能」が著しく損なわれ、単なる金融商品と化していることを示している。この問題に対し、世界の多くの都市では既に、投機に対する断固たる規制や、空き家への重税ペナルティといった政策が実行に移されている。例えばスペインのバルセロナでは、「住宅には社会的機能がある」という考え方を重視し、居住者のための住宅を取り戻す政策を積極的に進めている。
日本でも、住宅を本来の「住む人のための空間」へと還流させる具体的な法整備が必要である。
京都で導入される空き家税のように、実質的な民泊や転売行為に制限を設け、「住宅は実用財である」という大前提を社会で再共有することが喫緊の課題となる。そうすることで初めて、働き盛りの世代や若い人々が安心して住まいを持てる、健全な住宅市場を取り戻すことができるだろう。
