
ニコ・コバチに聞く 日本代表の現在地/ドイツ語(日本語字幕)バージョン
名将が語るリアリスト哲学:ドルトムント再建から長谷部誠の起用まで
ドイツサッカー界でその手腕を振るう名将、ニコ・コバチ監督は、自身のリアリスト哲学を貫き、チームを勝利へと導いてきた。本記事では、彼のキャリアと哲学、そして選手への深い洞察に迫る。ボルシア・ドルトムントの再建における課題と戦略、グローバル化した現代サッカーにおけるコミュニケーションの重要性、さらには長谷部誠のコンバートに隠された意図まで、多岐にわたる質問への回答を通して、勝利への確固たる信念が紐解かれる。

常に現実を見つめ、具体的な行動でチームを高めるコバチ監督の言葉から、ビジネスに通じる教訓が垣間見えるだろう。
Q. ボルシア・ドルトムントはどのようにして低迷期からチャンピオンズリーグ圏内へと復活を遂げたか?
我々コーチングチームがボルシア・ドルトムントに赴任した当初、チームはリーグ11位に沈んでおり、チャンピオンズリーグ出場はほぼ不可能と思われていた。しかし、選手、そしてファンと一丸となり、それを達成したことは誇らしい成果である。次のシーズンに向けては、この状況をさらに安定させたいと常々考えていた。

一部には、スペクタクルな試合内容ではないという批判も確かにあった。しかし、最終的にフットボールでは成功こそが全てであり、我々はそれを果たしたのだ。昨シーズンはバイエルン・ミュンヘンとの勝ち点差を、初年度の25点から16点にまで縮められた。これは、チームが良い方向に進んでいる明確な証拠と言えよう。
Q. 現代の多様なサッカーチームにおいて、コミュニケーション戦略で特に重要だと考えることは何か?
ドルトムントのロッカールームでの会話は主に英語で行われる。それは、我々のチームには多くの外国人選手が在籍しており、彼らがまだドイツ語を完全に理解していないためだ。戦術的な意図を全ての選手に正確に伝えるためには、彼らが理解できる言語でコミュニケーションを取る必要がある。
今日のサッカー界は極めてグローバルであり、チームは様々な国籍の選手で構成されている。世界的に英語が共通語となっている現代において、我々が全員英語を話せるのであれば、それを活用して最大限のパフォーマンスと成功を目指すべきである。私自身、ベルリンで多文化な環境の中で育った経験があり、多様な人々や文化、宗教に触れてきたことが、現在の異文化理解に役立っていると感じる。
Q. あなたは自身をリアリストだと称するが、バイエルン・ミュンヘンとのタイトル争いでそれはどのような意味を持つか?
私は常に現実主義者であり、決して悲観主義者でも空想家でもない。物事をありのままに、正しく評価する能力を持っているつもりだ。人々に聞きたいことを言うのではなく、現実に基づいて話すことが私の主義である。架空の目標を掲げ、虚言を弄することはしない。現実的に物事を捉え、行動することを重んじる。

もちろん私も選手たちもスポーツマンとして成功を常に願っている。しかし、相手が優れていることを認めるのもスポーツマンシップの重要な側面だ。前シーズンは73ポイントというクラブ史上5番目に優れた成績を収めたが、それでもバイエルン・ミュンヘンが上回っていた事実がある。一部のファンは「コバチはタイトルを諦めた」と批判したようだが、ファン全体が我々の現状を現実的に理解しているはずである。
今年のチームが若いかという指摘もあるが、サッカーに「若い」も「年寄り」もなく、「良い」か「そうでないか」しかない。もちろん経験は重要だが、若さにはダイナミズムがある。良いミックスを見つけることが重要であり、チームはそうした構成を意識して作られている。BVBの哲学は常に若く才能ある選手を育てることだ。今シーズンもバイエルンが本命であることに変わりはなく、我々は追随者としての立場を明確にしている。チームは若手選手の成長と発展に力を注いでいく所存である。
Q. ワールドカップにおける日本代表の「夢と現実」について、あなたの見解を聞かせてもらえるか?
ワールドカップに参加するすべてのチームが優勝を目標にすることは自然なことだ。夢を持つこと、夢を語ることは、目標達成に向けた最初のステップとなる。しかし、それがどれほど現実的であるかは、常に自問すべき課題でもある。

日本も大きな国ではあるが、スペイン、アルゼンチン、ブラジル、フランス、ドイツ、イングランドといった「サッカー大国」が存在する。こうした中で、自国の選手が優勝を公言するか、あるいは胸の内にとどめておくかは、それぞれの選手に委ねられるべきである。私自身は心の中で常に最高の目標を抱いているので、選手の気持ちは理解できる。若手選手は感情的に夢を語り、ベテラン選手はより理性的に現実を語る傾向があるが、どちらも間違いではない。
前回のワールドカップで、日本代表は惜しくもブラジルに敗れたが、その内容は非常に素晴らしく、彼らの戦術、強度、そして粘り強いサッカーは高く評価されるべきだ。日本の躍進は驚異的であり、海外でプレーする多くの日本人選手が、その経験を代表チームに還元している影響は大きい。これにより、日本サッカーは加速的に成長している。
我々のクロアチア代表も、2014年ワールドカップの経験を経て、4年後に準優勝という結果を掴んだ。これも、一つのプロセスだと言える。失敗から学び、時間をかけてチームを成長させていくことが重要である。私は日本サッカーに具体的なアドバイスはできないが、我々の強みである「愛国心」は日本にも当てはまるだろう。自国を愛し、国民のために戦うという強い誇りは、チームに最後のあと一歩を踏み出させる力を与える。この愛情と献身こそが、勝利に繋がる特別な要素なのだ。
Q. 長谷部誠選手のキャリアを大きく伸ばしたとされるリベロへのコンバートは、どのような意図で行われたのか?
長谷部誠は素晴らしい人間であり、並外れたフットボーラーだった。私がフランクフルトに着任した際、彼は本来のボランチではない右サイドバックでプレーしていた。私は彼が Bundesligaで優れたボランチとして活躍していたことを知っており、彼が持つ広い視野、優れたゲーム理解力、そしてリーダーシップに着目した。彼はまさにフィールド上の模範であり、常に自分を高めようとするプロフェッショナルだった。

そのため、我々は彼を3バックの中央リベロへとコンバートした。彼の類い稀なる空間認知能力と知性を活かす最適なポジションだと確信したからである。結果として彼は40歳近くまで現役を続けたが、これは彼がプロとして、アスリートとして、どのように生きるべきかを知っていた証だ。この成功は、彼の揺るぎないプロ意識がなければあり得なかった。また、私が常に監督と選手との適切な距離感を保ちながらも、彼の力量を信頼し、責任ある立場を与えたことも、彼の活躍の一因となったと考える。
チームが上手くいっていないとき、私は選手交代だけでなく、システム全体を見直すことの重要性を常に考えている。長谷部のような多才な選手がいればこそ、思い切ったシステム変更も可能になる。彼は常に新しい役割にも前向きに取り組んだ。「それはできない」とは決して言わない選手だった。彼のこのような献身的な姿勢こそが、チームの戦術的成功に大きく貢献したのだ。
Q. 日本サッカーが今後さらなる発展を遂げるために、どのような点に注力すべきだと考えるか?
日本サッカー界はすでに素晴らしい発展を遂げており、それを継続することが最も重要だと考える。Jリーグは質が高く、新たな才能が次々と輩出されている。現在も多くの日本人選手が欧州の主要リーグで活躍しており、佐野、グラスゴーやオランダのクラブ、フライブルクの選手たちのように、若い才能が海外へと挑戦していくことは非常に重要である。
これは日本代表チームにとって不可欠なだけでなく、Jリーグ自身の成長にも繋がる。優れた選手が海外に出た空白を埋めるべく、新しい若手が育つという好循環を生むからだ。海外での経験は日本サッカー全体のレベルを底上げし、最終的には代表チームがより一層力をつけることになるだろう。
Q. クラブを成功に導く上で、ボルシア・ドルトムントが持つ最大の強みとは何だと考えているか?
ボルシア・ドルトムントの最大の強みは、何と言っても素晴らしいファンのコミュニティ、通称「黒と黄色の壁」を持つことだ。我々は素晴らしい団結力を誇る。これは単なる観客以上の存在であり、クラブと選手、ファンが常に一体となっていることを意味する。現代社会において、スポーツに限らず、どのような困難な局面でも共に目標に向かい、助け合うことができる共同体を持つことは極めて重要だ。この不屈の団結力こそが、我々のクラブが持つ最大の武器であると断言できる。

