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メモリ半導体4強。好業績なのになぜPERが低いのか
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2026年8月18日

驚異的なスピードで収益を伸ばすメモリ半導体。なぜ好業績なのにPERが低いままなのか?キオクシア、サムスン、SKハイニックス、マイクロンの4社を軸に財務戦略アドバイザーの田中慎一氏に分析してもらった。 <ゲスト> 田中慎一|財務戦略アドバイザー・インテグリティ代表 慶應義塾大学経済学部卒業後、太田昭...
メモリ半導体、低PERの謎:巨額投資と「スーパーサイクル」が炙り出す未来
メモリ半導体市場は、過去の日本勢によるDRAM市場独占から一変し、現在は日韓米中の熾烈な競争が繰り広げられる激動の時代を迎えている。AIブームを背景に、各社の業績は驚異的な成長を見せる一方、投資家の間ではその持続性に対する疑念や、巨額な投資競争が新たなリスクとして浮上している状況だ。
本稿では、財務分析の視点からこの複雑な市場の現状を解き明かし、低PERの謎や国家戦略が織りなすメガプロジェクトの野心、そしてAIの進化がメモリの価値をどう再定義しているかを財務戦略アドバイザー・インテグリティ代表の田中慎一氏に解説してもらう。

Q. メモリ半導体市場の現状と主要プレイヤーはどのようなものか?
メモリ半導体市場は、大きく分けて随時データの読み書きを行うDRAMと、永続的にデータを保存するNANDフラッシュに分けられる。かつて日本勢が独占していたDRAM市場において、現在の日本企業のシェアはほぼゼロとなり、サムスン、SKハイニックス(韓国)、Micron(米国)が中心プレイヤーとして君臨する。

特に生成AIに不可欠なHBM(広帯域メモリ)分野では、SKハイニックスを含む3社が市場を寡占している。一方、中国の国策メーカーであるCXMTやYMTCも、潤沢な国家支援を背景に赤字を顧みず汎用品市場で急速な追い上げを見せ、国際的な警戒を集める存在になっている。
サムスンは他の半導体メーカーとは異なり、スマートフォンや家電まで手掛ける垂直統合型のビジネスモデルを維持し、その存在感はさらに強固なものになっている。
Q. 日本企業のKioxiaはメモリ半導体市場でどのような立ち位置にあるのか?
日本の半導体産業はDRAM市場から撤退したものの、NANDフラッシュメモリの分野ではキオクシア(旧東芝メモリ)が唯一、存在感を維持している。しかし、その株価は過去の栄光を懐かしむような期待と現実のギャップ、さらにはプライベートエクイティファンドの売り出しといった要因により、他社に比べて乱高下が激しい傾向にある。
キオクシアの最大の得意先はAppleであり、スマートフォン向けの汎用NANDが主力である。AIの先端半導体、特にNVIDIA製GPUの周辺回路への採用については、現時点では期待の域を出ておらず、これが投資家にとってのリスク要因の一つとして認識されている状況だ。
キオクシアの設備投資計画は、韓国勢のような広大な不毛の地で
のゼロベース建設ではなく、既存工場内の生産ラインを更新するという堅実なアプローチを取っている。この地に足のついた戦略は、リスクヘッジの観点からは評価される。
Q. AIブームにも関わらず、なぜメモリ半導体企業のPERは低いのか?
メモリ半導体業界はAIブームを背景に、売上と利益が爆発的に増加している。キオクシアの今期通期利益は5兆円を超える予測もあり、日本の全上場企業の中でも最高水準を達成する可能性がある。しかし、これらの企業のPER(株価収益率)は、自動車業界をも下回るほどの低水準にとどまっている。
この低PERの最大の理由は、業績(特に1株当たり利益、PER計算の分母)の急拡大に対し、株価(分子)の上昇が追いついていないためだ。市場は、現在の記録的な高成長と利益率が「いつまで続くのか」という懐疑的な視線を向けている。例えば、キオクシアは直近の第1四半期で営業利益率が70%を超えるなど、驚異的な収益力を示しているものの、投資家は「異常な好況は長続きしない」という冷めた見方を変えていない。
また、2023年には在庫調整で一時的に各社が赤字に転落した。しかし、現在の市場は需給が逼迫しており、メーカー側が強気の価格決定力を持っている。プロスポーツ選手の複数年契約のように、顧客に対し長期的な購入契約を求める動きが見られることは、一時的ながらその価格決定力を象徴する事態と言えよう。
Q. 半導体業界特有の「シリコンサイクル」とは何か、現在はどのような局面にあるのか?
半導体業界は「シリコンサイクル」と呼ばれる3~4年周期の好不況を繰り返してきた。巨額な設備投資を行い、工場を立ち上げるまでには数年のタイムラグが生じるため、需要予測が外れると一気に供給過多となり、価格競争が激化して「谷」を迎える。

現在は、2023年の谷底からの急回復を経て、「歴史上最大の山」と呼ばれる未曾有のスーパーサイクルの中にいる。しかし、投資家は過去の経験から、この好況がいつフリーフォールのように崩れ落ちるかを常に警戒している。需給バランスの急激な変化は避けられないとの見方が、低PERの背景にあるのだ。
Q. 韓国が発表した国家予算級の巨額投資計画はどのような影響をもたらすか?
韓国政府はサムスン、SKハイニックスと一体となり、2040年までに半導体分野で83兆ウォン(約80兆円)を投資するという「メガプロジェクト」を発表した。この投資計画は、日本円換算で国家予算に匹敵するほどの巨額であり、その内容は従来の工場拡張とは一線を画する。

政府は電力、水といったインフラ整備から強力に支援し、「半導体不毛の地」にゼロベースで工場群を建設する計画だ。これは2030年代以降のメモリ市場を完全に自国で支配するという、極めて野心的な国家戦略に基づくものと見られる。このような大規模投資を可能にする背景には、財閥オーナー企業の強力なリーダーシップと、国家の安全保障を担う基幹産業としての半導体への揺るぎない支援がある。
一方で、この巨額投資は投資家にとってのリスクでもある。将来の需要が現在の高水準を維持できるかは不透明であり、需要反転時の固定費負担や投資回収の不確実性が懸念される。過去のシリコンサイクルの経験から、莫大な設備投資がやがて供給過多を招き、利益率を押し下げる可能性が常に存在するためだ。
Q. 中国企業の台頭がメモリ半導体市場に与える脅威とは何か?
中国のCXMTやYMTCといった半導体メーカーは、先端露光装置の輸入規制を受けているにもかかわらず、中位レベルの汎用半導体やフラッシュメモリ市場で急速に台頭している。これらの企業は国家の巨額な補助金を後ろ盾に、採算度外視の価格攻勢を仕掛けることが可能であり、市場全体の値崩れを引き起こす懸念がある。
技術面ではまだ数年の遅れがあるとされるが、日韓の熟練技術者を高待遇で引き抜く「キャッチアップ戦略」により、コモディティ化された製品分野での品質と生産効率は急速に向上している。これは「米日韓」連合が維持したい領域に対して、中国が「安くて高品質な汎用品」で食い込もうとする地政学的競争の現れであり、その脅威は計り知れない。
市場が低PERに留まるもう一つの理由として、汎用品市場での中国企業の猛追が挙げられる。中国の価格競争力が、先進各社の業績を下押しする可能性が常に織り込まれているのだ。
Q. AIの進化がメモリ半導体の価値をどう変えているのか?
AIの進化は「学習」フェーズから「推論」フェーズへと移行しつつある。大規模なデータセットを学習する段階ではCPUやGPUといった処理能力の高い半導体が注目されたが、実際にAIが最適な解答を生成する推論段階では、高速で膨大なデータを効率的に出し入れするためのメモリが不可欠となる。
この変化により、HBM、DRAM、NANDフラッシュメモリといった周辺部品の重要性が再評価されている。メモリは、人間の「教養」や「基礎スキル」のように、情報を高速に利用するための基盤として、その価値を再発見している状態だ。これは、単にCPUやGPUの性能向上だけでなく、データを活用する全体システムにおいて、メモリの果たす役割が不可欠であることを示している。
このトレンドはメモリ半導体市場にとってポジティブな材料であるが、前述した「シリコンサイクル」の歴史的教訓や中国勢の動向を考慮し、市場は慎重な姿勢を崩していない。