
2030年に1兆ドルへ。プレディクション市場の魔力
1兆ドル規模へ急拡大する「予測市場」:トランプも関与する現代のデリバティブと潜むリスク
世界経済を揺るがす可能性を秘めた「予測市場」が今、爆発的な成長を見せている。日本ではまだ耳慣れないこの概念は、2030年には1兆ドル規模に達すると予想され、金融商品としての地位を確立しつつある。
この新たな市場は、トランプファミリーのような政治家や国際機関も深く関与し、一方でインサイダー取引やマネーロンダリングといったグレーゾーンも指摘されている。本記事では、この予測市場のメカニズム、成長の背景、潜在的なリスク、そして日本への影響について在米33年のメディア経営のプロ、北谷賢司氏に解説してもらった。

Q. 予測市場とはどのような仕組みで、その市場規模はどのくらいか?
予測市場は、あらゆる事象の未来の結果に対し、「イエス」か「ノー」かを賭ける単純な仕組みである。例えば「ある企業が明日上場するか」といった事柄に対し、人々は各自の予測に基づいて株式のように購入する。
現在の価格は市場全体の予測確率を示し、仮に「70%上場する」と評価されていれば、70セントを払って1ドル分を購入できる。そして、実際に上場すれば1ドルを得られ、失敗すれば賭け金を失ういった具合だ。
対象は金融、企業情報、AI技術の進展、政治イベント、スポーツの結果まで多岐にわたり、従来の株式投資やスポーツベッティングの範疇を超えている。市場規模は既に2400億ドルに達し、2030年には1兆ドル(約150兆円)への到達が予測されている、極めて急速に拡大する市場である。

Q. 米国で予測市場がこれほど注目され、急成長している背景には何があるのか?
予測市場が米国でこれほど注目を集め、急成長しているのは、米国が新しい金融市場の創出に強い意欲を持っているためである。米国はこれを「イベント契約」という新種の金融商品と位置づけ、市場として育成しようとしているのだ。これはかつてのサブプライムローンを含め、あらゆる事象を金融商品化してきた米国の姿勢と合致する。
フィンテック産業、Web3、ブロックチェーン技術が密接に結合し、これらの新技術をフル活用している点も特徴だ。既存の金融商品であるデリバティブ取引と類似性も高いため、連邦政府としては金融市場の一部として捉え、積極的に市場を成長させようとしている状況である。
Q. ドナルド・トランプとそのファミリーは予測市場にどのように深く関与しているのか?
ドナルド・トランプとそのファミリーが予測市場に深く関与している疑惑が浮上している。予測市場の主要プラットフォームには大きく分けて二つあり、一つは「Kalshi」で通常の銀行口座決済を利用する方式をとる、もう一つは「Polymarket」で暗号資産(クリプト)決済を原則とする方式である。
前者プラットフォーム「Kalshi」では、トランプ氏の義理の息子と長男(ドナルド・トランプ・ジュニア氏)が深く関与していると言われる。また、長男(ドナルド・トランプ・ジュニア氏)は、「Polymarket」でも戦略アドバイザーを席をおいている言われている。さらにトランプ氏自身の暗号通貨がプラットフォーム内で活用されることで、自身の資産価値を高めるという優位性も指摘されている。
FIFAワールドカップのような巨大イベントでは多額の資金が動くが、スポーツベッティング禁止している州でも予測市場を介せば事実上のスポーツ賭けが可能だ。FIFAの会長がワールドカップの商業化を進める中で、トランプファミリーに間接的に一部株式が与えられたとの憶測も流れ、両者の関係が複合的に巨大市場を動かしている可能性は高い。

Q. 予測市場ではインサイダー取引など、どのような問題が発生しており、その対策はどのようになっているのか?
予測市場が抱える最大の問題はインサイダー取引の横行である。事前に公表前の情報を知る立場の人間が、その情報を使って不正に利益を得る事例が相次いでいる。例えば、軍事行動の日程を知る軍関係者や、大統領演説の原稿を見るテレプロンプターのオペレーターが、情報解禁前に自ら市場で賭けて大儲けした事件などが実際に報告されている。

しかし、これが従来の株式市場のような「インサイダー取引」として罰せられているわけではない。現行の法規制が追いついていないため、単なる「情報漏洩」としてのみ処理されるなど、法的グレーゾーンが存在する。さらに懸念されるのは、選挙に出馬する政治家が落選を予期し、その情報を自身の関係者に流して多額の利益を得させる、いわば「裏での恩義」として使うことまで問題視されている状況だ。
既存の賭博市場からの反発も大きい。州によってはスポーツベッティングが禁じられている地域でも、予測市場を通せば事実上合法的に賭けが行えてしまうため、カジノ利権を持つ団体や州政府から法的訴訟が起きているケースもある。
Q. 日本における予測市場の導入可能性と課題は何か?
日本での予測市場導入の鍵は、それを「金融商品」と捉えるか、「賭博」と捉えるかにある。日本の刑法では賭博が禁じられており、「金融商品」として明確に位置付けられなければ合法化は難しい。
しかし、一部のビジネスパーソンは既に海外口座や海外発行クレジットカードを利用して、合法的に予測市場に参加している。その仕組みが非常に単純であるため、すでに多くの日本の投資家がこの市場に参入しているという見方もある。
日本政府も動きをみせる可能性がある。2030年の大阪カジノ開業を控える中で、2029年頃にはスポーツベッティングの合法化を目指す強力なロビー活動が行われている。この動きと連動し、予測市場もその時期に解禁される可能性が指摘されているのだ。実際に、主要プラットフォームの一つであるポリマーケットは、既に日本国内に代表者を置き、日本語対応サイトを整備するなど、日本市場への本格参入を視野に入れていると見られる。
仮に日本での合法化が進んだ場合、海外プラットフォームに手数料が流出する「デジタル赤字」を防ぐため、国内プレイヤーによる「日の丸プラットフォーム」の創設が望ましい。ゲーム開発に強みを持つサイバーエージェントやミクシィ、Web3関連企業、そしてSBIなどの積極的な金融機関や通信キャリアが、その候補として考えられている。
Q. 予測市場の普及は社会にどのような影響をもたらすか?
予測市場の普及は、社会に多岐にわたる影響を与えるだろう。プラスの側面としては、新たな巨大市場が生まれることによる経済効果やビジネスチャンスの創出がある。例えば、従来の経済メディアが株価や為替に加えて予測市場のオッズや確率変動を報じるようになるなど、情報産業の構造自体が変わる可能性がある。
しかし、多くの懸念点も存在する。その一つが強い中毒性だ。スポーツベッティングと同様に、過度な参加によって生活が破綻するケースが生まれる恐れがあるが、金融商品として扱われる場合、通常の投資失敗として個人の責任に帰結され、社会的な救済システムが機能しにくい。八百長問題も深刻化する可能性が高い。NBAで既に八百長が発覚したように、匿名性の高い暗号資産を利用した取引では、犯罪行為と競技結果の関連を立証することが極めて困難となる。
さらに深刻なのは、暗号資産の匿名性を利用したマネーロンダリングのリスクである。北朝鮮のような国際制裁対象国から大量の闇資金が流入し、それが活動資金となる危険性も否定できない。本来、予測市場の基礎となる「プレディクションデータ」は、企業が新製品の売上予測やプロジェクトの完成時期、半導体の需要予測などに活用してきた有用な意思決定データであり、一概に否定できるものではない。しかし、これをオープンな金融市場として解放することには、慎重な議論が求められる段階にある。