
仕事で使える「体力」の伸ばし方
仕事で使える「体力」の伸ばし方:《体力がない》は変えられる
現代のビジネスシーンにおいて、「体力」の概念は単なる身体的強さにとどまらない。多忙を極める日々の業務や変化の激しい環境の中で、安定して高い成果を出し続けるには、より総合的な「仕事の体力」が求められるようになった。疲労回復が追いつかず、パフォーマンスの維持に悩むビジネスパーソンも少なくないだろう。本記事では、医師である有好信博氏が提唱する、医学的エビデンスに基づいた「体力」の新しい捉え方と、それを高めるための具体的な戦略を深掘りする。
有好氏は、米国での臨床経験と自身の体調不良の経験から、「体力」を仕事のパフォーマンスと直結する総合的な能力と位置付け、その正体を解明し、誰もが実践できる運用法を体系化した。この知見は、目の前の業務を効率的にこなし、かつ長期的に活躍し続けるための道筋を示す。私たちはどのように自身の「体力」を理解し、いかに戦略的に活用すれば良いのか、その問いに対する答えがここにある。

Q. そもそも仕事における「体力」とは?
一般的に体力と聞くと、筋力や心肺持久力といった運動能力を連想しがちである。しかし、ビジネスで求められる「体力」は、それだけでは語り尽くせない。有好氏は、集中力を維持する力、感情に振り回されないコントロール力、午後の時間帯まで仕事の質を保つ力、さらには退社後に家族との会話を楽しむ余力までもを含む「仕事で安定して成果を出し続けるための総合力」であると定義する。
これは、単に体を鍛えるだけでは到達できない領域の能力であり、多様な要素が絡み合って形成される複合的な力であると理解すべきだ。この総合力を高めることが、現代のビジネスパーソンにとって必須のスキルとなっている。
Q. 仕事に必要な体力は具体的にどのように分類できるのか?
仕事の体力は、その特性に応じて「最大体力」「実効体力」「余力」の3つに分類される。
最大体力:長期的な器であり、スマホのバッテリー容量や処理性能に例えられる。運動、休養、良質な食事によって時間をかけて向上させる。
実効体力:その日実際に使える体力的上限であり、スマホのその日の充電状況に相当する。睡眠不足、食生活、水分不足、心理的ストレスなどで大きく変動する。
余力:1日の終わりに残るエネルギー残量であり、スマホのバッテリー残量を指す。長時間の会議、締め切りプレッシャー、不快な環境などで削られ、翌日の実行体力に影響を及ぼす。
これら3つの体力は互いに関連し合い、日々のパフォーマンスと長期的な成果を決定づける。このフレームワークを用いることで、自分自身の体力に関する問題を具体的に特定し、効果的なアプローチを講じることが可能になる。
Q. 毎日全力を出し切る働き方は長期的なパフォーマンスに悪影響を及ぼすか?
重要な場面では高い出力を発揮すべきであるが、毎日100%全力を出し切って余力を使い果たすことは、長期的に見てパフォーマンスを低下させる原因となる。日々余力をゼロにすることで、回復が間に合わなくなり、結果的に最大体力を徐々に削り、翌日以降の実効体力にも悪影響を与えるためだ。
理想的には、普段から一定の余力を残し、60〜80%程度の力で安定的に業務を遂行することが推奨される。体力改善の順番としては、まず日々の生活の中で余力を増やし、実効体力を高めることが先決となる。余力や実効体力は、比較的短期間で改善の余地がある。それらの土台ができてから、時間をかけて最大体力全体の向上に取り組む方が効率的かつ持続的な成果に繋がりやすい。
Q. 体力不足の兆候と「最大体力」を構成する4つの要素とは?

日々の疲労が翌日に持ち越されたり、休日に疲れて一日中寝て過ごすことが多い場合、それは「最大体力」が不足している可能性を示唆する兆候だ。
最大体力は以下の4つの要素で構成されている。
続く戻る力(持続力・回復力):一度使った体力がどれだけ早く回復するか、長時間の活動にどれだけ耐えられるかを示す。回復力が低いと、疲労が蓄積しやすくなる。
出せる力(発揮力):瞬発的な高負荷な業務や集中力を要する場面で、最大のパフォーマンスを発揮する能力を指す。筋肉で言えば短距離走のような速筋のイメージだ。
コントロール(調整力):プレッシャーの中で感情に振り回されず、冷静に優先順位を判断し、適切に自身の力を調整する能力。ストレス耐性もここに分類される。
壊れにくさ(耐久力):病気や怪我に対する体の抵抗力。糖尿病などの慢性疾患、風邪を引きやすさ、以前は大丈夫だったが年齢と共に怪我が増えたといった経験は、耐久力の低下を意味する。
これらの4つの力のいずれか、あるいは複数が弱点となっている可能性がある。自身の現状と照らし合わせ、どの力を重点的に強化すべきかを見極めることが重要となる。
Q. 長期的に「最大体力」を向上させる具体的な方法とは?

最大体力を高めるには、適切な「運動」と「食事」を継続することが不可欠だ。仕事の忙しさからくる疲労とトレーニングによる負荷を混同してはならない。最大体力を伸ばすために必要な負荷は、自分で強度と量を調整できる運動負荷である。
運動面では、ゾーン2(会話はできるが歌えない程度の強度)の有酸素運動を週に合計150分以上、筋力トレーニングを週に2~3回取り入れるのが目安だ。加えて、バランス運動(片足立ち、ヨガ)や柔軟運動も、特に「壊れにくさ」を高める上で推奨される。
運動習慣がない場合、最初から高い目標設定は挫折の原因となるため、「ゼロを作らない」ことを意識し、毎日5分程度のスクワットやエレベーターを階段に変えるといった無理のない範囲からスタートする。数ヶ月単位で徐々に運動量と強度を高め、習慣化することを最優先に考えるべきである。
食事面では、以下の4点を意識する。
タンパク質:体重1kgあたり最低0.8g(運動をする人は1.4g〜2.0g)の摂取が推奨される。食事で不足する場合はプロテインでの補給を検討する。
脂質の種類:加工肉やバターなどに含まれる飽和脂肪酸を避け、ナッツ、魚、オリーブオイルなどに含まれる不飽和脂肪酸を積極的に摂取する。
炭水化物の種類と量:極端な制限は避け、脳や赤血球の主要エネルギー源であるブドウ糖のために最低1日130g(500kcal)は摂取する。血糖値の急上昇を抑え、食物繊維が豊富な玄米、野菜、果物、豆類などの「茶色い炭水化物」を選ぶ。
加工食品:加工度が高ければ高いほど健康に悪影響を及ぼし「壊れにくさ」を損なうため、超加工食品は避けるべきである。
これら運動と食事の改善は一朝一夕で効果が出るものではないため、長期的な視点を持ち、焦らず、しかし着実に習慣として継続していくことが、最大体力向上への鍵を握る。
Q. その日の最高のパフォーマンスを引き出すための「実効体力」の運用術とは?

「実効体力」は日々の運用次第で大きく変動する。その日のパフォーマンスを最大限に引き出すための実践的な運用術が存在する。
最も重要なのは「睡眠のリズム」を整えることだ。睡眠時間よりも、毎日同じ時間に起床し、すぐに朝日を浴びる習慣が体内時計を整え、実効体力を高める。土日も含めて規則正しい起床時間を維持することがカギとなる。
日中の「運動」も活用すべきだ。重要な会議やプレゼンテーションの10〜20分前に、短時間の軽い有酸素運動を取り入れると、集中力や判断力といった仕事のパフォーマンスが向上する。また、長時間の座りっぱなしは健康に悪影響を及ぼすため、こまめに体を動かす意識を持つ。例えば、病棟を歩き回る医師のように、日常業務の中で意識的に運動を取り入れることもできる。
「食事」に関しては、朝食は長期的な健康には良いものの、実効体力の観点から必ずしも無理に摂取する必要はない。むしろ、昼食を食べすぎないようにする(腹八分目)工夫が効果的である。過剰な満腹感は血糖値の急上昇を招き、午後の眠気を引き起こし、結果として集中力や判断力を低下させる可能性があるからだ。このように、日中の行動に細やかな調整を加えることで、その日の実効体力を最大限に活用できる。