
”新規事業ごっこ”の終わり
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2026年8月4日
大企業における「新規事業ごっこ」の終焉と、イントレプレナーの最新動向を解説。38年間で57の事業を立ち上げた新規事業家が、事業創造における「勝ち筋」と「負け筋」を徹底解剖。自社とタスクに囚われる負け筋から脱却し、顧客と価値の創造に本気で向き合うための実践的マインドに迫る。 <ゲスト> 守屋実|新規...
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大企業よ、本気の新規事業を生み出せ! 失敗から学ぶ「勝ち筋」と「負け筋」の深層
既存事業の成熟化が進む現代において、多くの大企業が新規事業創出に注力している。
しかし、その取り組みの多くは難航し、成功を収めるケースは少ない。なぜ大企業は新規事業を生み出せないのか、そして、どうすれば成功への道筋を切り開けるのか。
本稿では、「新事業家」を自称し、38年間で57もの新規事業に深く関わってきた稀有な実践者、守屋実氏の洞察に基づき、新規事業創出における「勝ち筋」と「負け筋」のメカニズムを解説する。
大企業が抱える課題を深く理解し、本気でイノベーションを目指すための実践的なヒントを提供する。

Q. 新事業家とはどのような存在か、そしてその道のりは?
守屋実氏は「新事業家」を自ら商標登録し、キャリアのすべてを新規事業創出に捧げてきた人物である。
彼は19歳で学生ベンチャーに参画して以来、約38年間、新しいものを生み出す活動に熱中している。その圧倒的な経験値は、「57 = 17 + 25 + 15」という算数式で表現される。
この数字は、それぞれ社内起業17件、独立起業25件、週末起業15件のプロジェクトへの参画を意味する。守屋氏の特徴は、必ずしも代表取締役社長として事業を立ち上げてきたわけではなく、創業期のスタートアップや大企業の新規事業に「メンバーとして混ぜてもらう」スタイルを徹底している点にある。
具体的には、ミスミで17件の社内企業、ラックスルやケアプロで副社長を務めるなどの経験を持つ。この独自のスタンスにより、様々な規模と形態の事業創出に深く関わり、豊富な知見と実践経験を培ったのだ。
Q. ほとんどの新規事業が失敗すると言われるが、なぜ必ず生み出せると断言するのか?
守屋氏が1万日以上の実践を経て辿り着いた結論は、「新規事業は必ず生み出せる」という確信である。
多くの人々は新規事業を「十中八九うまくいかない」と悲観的に捉えるが、これは逆説的に考えれば、「十中一二は必ずうまくいく」ことを意味する。失敗の99%が「同じ間違い方」を繰り返しているとすれば、その間違いを認識し、回避することで成功確率は必然的に向上すると守屋氏は主張する。
失敗の本質を深く学習し、そこから得られた教訓を適用することで、十中八九であった失敗の確率を、十中七八、さらには十中五六へと着実に低減させることが可能である。そして、最終的に「十中一二の成功」を確実に手繰り寄せるプロセスこそが、事業創出の真髄にあると説く。
Q. 新規事業を成功に導くための「勝ち筋」とは何か?

守屋氏は、新規事業成功の鍵を握る「勝ち筋」として、三つの重要な要素を挙げる。これらは、彼が長年の経験を通じて導き出した事業創出の核心を突く考え方である。
顧客と価値の明確化: ビジネスの根本は「誰にどのような価値をもたらし、その一部を売上として還元してもらうか」にある。新規事業においては、既存業務のように既成の顧客がいるわけではないため、売上確保以前に、顧客そのものをゼロから創造するミッションを帯びる。
初客を太客にする仕掛け作り: 「なぜ、ほとんどモノを買わない人々が、あえて自社の『初客(初めての顧客)』になってくれたのか」という動線を徹底的に把握し、その顧客が何度もリピートし、他者を誘引する「太客」に育つための明確な仕組みを設計する必要がある。
他社に模倣されない「儲けのカラクリ」の構築: 短期的な利益だけでなく、他社が容易に追随できない独自の収益構造を事業の裏側に実装することが不可欠である。安易なアイデアや薄い構想だけでは、瞬く間に競合に追いつかれ、市場から駆逐されてしまう危険性を孕む。
これらの三要素は密接に連携し、それぞれを深く掘り下げて事業全体を統合的に設計することで、堅牢なビジネスモデルを確立できると守屋氏は説く。
Q. 大企業の新規事業が陥りやすい「負け筋」にはどのような特徴があるか?
守屋氏は、大企業の新規事業が失敗する根本原因は、「負け筋」に陥りがちな企業体質とマインドセットにあると指摘する。ここにも三つの主要な特徴が見られる。
「自社とタスク」に固執する思考: 新規事業担当者が「自社の強み」や「事業計画の体裁」ばかりに目を向け、顧客視点を欠いてしまう。また、「上から割り振られたタスク」として受動的に業務をこなすマインドが強く、本来必要な創業者としての全方位的な視点(顧客、価値、収益、資金調達など)を持たない点が危険である。
「やり方と投げ先」による思考停止: 既存の本業プロセスに慣れた担当者が、市場調査や実務開発を安易に外部業者へ「丸投げ」する傾向にある。これは事業が最も蓄積すべきノウハウや市場への解像度を自社が失い、他者に依存する脆弱な事業構造を生み出す原因となる。
「評価と部下力」を優先する組織論理: 新規事業本来の目的である顧客からの市場評価(売上や成長)よりも、社内の上司からの評価や単年度の予算達成、あるいは上司の顔色を伺う「部下力」ばかりに意識が向く。この組織論理が、長期的な事業成長を阻害する大企業特有の構造的欠陥となる。
これらの「負け筋」は、大企業が長年培ってきた本業の成功体験や組織文化に深く根差しているため、変革は容易ではないが、これらを克服しない限り真の新規事業は生まれないと守屋氏は警鐘を鳴らす。
Q. 「実践」と「実戦」は何が違うのか、そして新規事業において重要なのはどちらか?

守屋氏は、新規事業への取り組み方を「実践」(訓練)と「実戦」(本当の戦い)という二つの漢字で区別する。多くの大企業における新規事業プログラムは、フェーズゲート管理の手順を学び、計画書を作成するといった「スキルアップ目的の実践」に終始していることが多い。これは人材開発としては一定の価値を持つかもしれないが、実際に事業を生み出す力とは直結しない。
本来の新規事業とは、市場という戦場で「勝利か敗北か」を争う「実戦」である。自ら資金や人材を調達し、顧客を獲得し、競合と対峙する中で生じる真剣勝負を意味する。この「実戦」の意識がなければ、資本主義経済の中で生き残り、成長することはできない。人材教育の一環としてではなく、事業としての真の成功を目指すならば、この「実戦」の覚悟を持つことが不可欠であると守屋氏は強く訴える。
Q. 変化する大企業の新規事業を取り巻く環境と、新たな突破口とは?

近年、大企業を取り巻く新規事業の環境は変わりつつある。過去の「負け筋」への気づきと、経済産業省が推進する「出向起業制度」などの外部要因が後押しし、本気で挑戦を始める企業が増加傾向にあるのだ。出向起業は、社内の稟議ハードルを下げ、リスクテイクを伴う本格的な事業創出を促している。
しかし、一方で「イノベーションハブ」などの横文字部署を設けても、その「出口」が既存の事業部門に依存している場合、短絡的な予算都合や利益追求により、新しい芽が潰されるという矛盾が残る。
この大企業特有の壁を突破する有効な戦略として、守屋氏は「20%承認、80%カーブアウト(社外分社化)」を提唱する。社内で最小限の承認を得た後、残りの大部分は外部での資金調達や営業活動で完遂し、独立した形で事業を推進するのだ。
また、真に事業を駆動させるのは個人の「思い」であり、一人の人間が全力で挑戦する姿は、他者に連鎖反応を生むと守屋氏は強調する。「挑戦の連鎖」を組織の内外に広げることが、日本全体の新規事業創造を加速させる鍵となると語る。
