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米国で日本語学習者が急減する理由
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2026年8月3日

世界の日本語学習者が過去最多の400万人を突破する一方、北米で大幅減となる背景をニューヨーク大学の松本准教授が解説。円安による「日本で働く魅力」の低下や教育制度の変化、米大学で注目される「デバイスフリー教室」の動向に迫る。AI時代における外国語学習の真の役割とは。 <ゲスト> 松本真由美|ニューヨ...
AI時代に言語を学ぶ意味とは?「日本語学習者動向とデバイスフリー学習」が導く世界平和への道筋
世界的に見ると、日本語学習者は右肩上がりに増加している。日本のアニメや漫画、J-POPなどのポップカルチャーが世界中に浸透し、若者を中心に強い関心を抱かせているためである。しかし、このような全体トレンドとは裏腹に、米国では日本語学習者の減少が顕著に見られるという。ニューヨーク大学の准教授である松本真由美氏は、世界的な日本語教育の最新動向を分析し、学習者が減少する米国市場の実態と、AI時代における言語学習の新たな意義、そして教育現場で注目される「デバイスフリー学習」の功罪について語った。
本稿では、松本氏の話を基に、グローバルな日本語教育の現状と課題、そして異なる文化や多様な価値観を理解することがいかに世界平和に貢献するかについて考察する。

Q. 世界の日本語学習者の動向はどう変化しているか?
国際交流基金のデータは、世界の日本語学習者数が増加している状況を示している。コロナ禍で一時的に減少したが、2024年には学習機関数、教師数、学生数全てで回復し、過去最高を記録した。特に、アプリ学習や独学者を除いた正式な教育機関での学習者が初めて400万人を超えた事実は、世界的な日本語への関心の高まりを裏付けるものであった。
2024年現在、日本語教育は143の国と地域で実施されており、1979年の1145機関と比較すると、教育提供の場が大幅に拡大しているのがわかる。教師数、学習者数も同様に増加傾向にある点が特徴的である。この動向は、国際的な日本文化への関心と結びついて日本語学習の裾野を広げているといえるだろう。
Q. 北米地域での日本語学習者減少の背景にあるものは何か?

世界的な増加トレンドに反し、北米、特に米国では日本語学習者が減少している。その理由として主に三つの要因が挙げられる。一つ目は、従来の教育機関自体の登録数減少である。少子化や、ホームスクーリング、チャータースクールといった選択肢の多様化により、公教育機関への登録者が減少し、それに伴う予算削減で日本語クラスが廃止されるケースが多い。
二つ目は、履修科目の要件変化だ。以前は大学卒業などに外国語が必須科目であったが、最近ではコンピュータサイエンスなどで代替できる大学が増え、言語学習の必須性が薄れている。三つ目は日本語教師の不足である。多くの大学では一人の教員が日本語プログラムを担っており、退職後の後任が見つからないことが多い。これは、教師の待遇問題や、AIの進化による語学教育の必要性に対する意識変化も影響しているという。
さらに、就職目的で日本語を学ぶ学習者が大幅に減少している。近年の急速な円安がドルを稼ぐ米国学生にとって日本での就職や日本関連の仕事の金銭的魅力を著しく低下させ、日本での将来の就職を目的とする学生の割合は2021年から2024年の間に約半分に落ち込んだ。
Q. 現在の日本語学習者の主なモチベーションとは何か?その学習スタイルに変化はあるか?
日本語学習者の主要なモチベーションは、圧倒的にアニメ、漫画、J-POPといった日本文化への興味である。世界全体の日本語学習者の約60%、北米の学習者に至っては90%以上がこれらのポップカルチャーを学習の主な動機としている。これは、日本語という言語そのものへの知的好奇心と並ぶ重要な要素だ。
近年では、学習者の学習スタイルにも大きな変化が見られる。子供の頃からオンラインでアニメやドラマに触れて育った学生が多く、初めて日本語のクラスを取る段階で既に一定の日本語を聞き取れる、あるいは話せる状態にある。文字を書く能力はなくても、高いインプット量に基づいた表現力を持つ「インプット先行型」の学生が増えているのが特徴である。
ニューヨーク大学のような私立大学では、中国や韓国からのアジア系留学生やアメリカに住むアジア系の学生が約7割を占める。彼らは漢字文化圏であることから日本語への親近感が高く、単に単位取得だけでなく、「日本旅行で実際に話したい」という具体的な目標を持ち、高い熱意で学習に取り組む傾向が見られる。日本語学習を通じた直接的な交流への意欲が彼らを強く動機づけている。
Q. 大学教育における「デバイスフリー学習」とは何か、その利点と課題を考察する。

「デバイスフリークラスルーム」とは、授業中の携帯電話、タブレット、PCなどのデジタルデバイスの使用を制限し、対面でのコミュニケーションや手書きによる学習を重視する教育方針である。松本氏によると、この試みは主に学生の集中力持続と、質の高い議論を促すことを目的としている。
現代の学生は、電子書籍で教科書を閲覧するが、その一方で教員側は学生が教科書以外のコンテンツを見ている可能性を排除できない。デジタルデバイスを制限することで、不要な情報が遮断され、授業への積極的な参加と活発な意見交換が期待できる点がメリットである。
しかし、この導入には課題も多い。デジタルデバイスを利用する障害を持つ学生が、利用を制限されることで自身の障害を周囲に開示せざるを得ない「アクセスフリクション」の問題が発生する。また、これまでPDFで提供されていた資料を全て印刷する必要が生じ、ペーパーレス化に逆行し環境への懸念が高まる他、学生が大量の教科書やノートを持ち運ぶ身体的な負担も無視できない。小学校からデジタルツールに慣れ親しんだ世代にとっては、アナログな学習方法が逆に新鮮に映る可能性も指摘されている。
Q. AIが翻訳を代替する時代において、言語を学ぶ本質的な意義は何か?

高度なAI翻訳ツールが普及した現代において、言語学習の目的は単なる「正確な翻訳」から、「外国語を使って何ができるか」へとシフトしている。AIは言語の表面的な意味を変換できるが、人との深い信頼関係や共感を築く「感情の通い合うコミュニケーション」は人間でしか生み出せないものだ。
相手の母国語を自ら学ぼうとする謙虚な姿勢そのものが、言葉の正確性を超えた決定的な意味を持つ。この姿勢が人間関係の構築、共感、そして信頼の獲得に繋がる。また、言語を学ぶことは、その国の文化、価値観、歴史に触れることに直結する。言葉を通じて異文化を理解することで、これまで自国にいたままでは得られなかった新たな視点や思考法を獲得できる。
Q. 異なる文化や価値観を理解することが世界平和にどう貢献するのか?
言語学習を通して各国の文化や価値観、歴史を理解することは、世界平和への重要な一歩となりうる。一つのニュースや出来事を複数の言語圏のメディア報道で比較分析すると、それぞれの国や文化によって物事の捉え方が大きく異なることを実感する。
このような多角的な視点を得る経験は、「世界にはきっと無数の見方がある」というメタ的な思考を養う。自分自身の価値観や信念が全てではないと知ることは、固定観念から解放され、他者への不寛容を排除する教育的効果をもたらすだろう。これは、異なる文化や意見を持つ人々との相互理解を深め、対立を避ける上で不可欠な要素である。言語を学ぶという行為が、最終的に世界中の人々がお互いを理解し、尊重し合う未来、すなわち世界平和への足がかりとなると、松本氏は信じている。