
子どもの「SNS禁止」世界で急拡大
世界で加速する子どものSNS規制 日本の"一律禁止しない"独自アプローチとその根拠
子どもたちのSNS利用を法的に規制する動きが世界的に広まっている。
特にフランスやオーストラリアなどで15歳未満の利用禁止法案が可決されるなど、各国で深刻化する若者のメンタルヘルス問題への対応として注目を集めている現状だ。
しかし、日本はこの世界的な潮流に対し、一律の利用禁止には慎重な姿勢を示し、独自の道を探っている。
本稿では、この規制の背景、各国の動向、プラットフォームへの影響、そして日本の具体的な方針とその根拠について解説する。

Q. なぜ今、世界中で子どものSNS利用を禁止する動きが加速しているのか?
子どもたちのSNS利用規制の根底にあるのは、世界各国で報告される若者のメンタルヘルス悪化に対する危機感だ。
鬱や不安の増加といった問題の背景にはSNSの存在が指摘されており、これに対し各国はプラットフォーマーに任せるだけでは不十分だと判断した。
子どもの心の健康を守るという共通認識のもと、事業者に代わって国家が法規制に乗り出す必要性があるとの見方が広がったのである。
Q. 具体的にどのような国で、どのような規制が導入されているのか? その特徴とは何か?

SNS利用規制の先駆けはオーストラリアで、16歳未満の特定のSNS利用を事業者に義務付けて禁止した。フランスでは15歳未満を対象とする法案が可決され、EU全体ではSNSを「おもちゃではない」として飲酒と同様の規制年齢設定を目指す方針が示された。
この動きはインドネシアやマレーシアなどアジアにも広がりを見せる。多くの国に共通するのは、規制違反の罰則を子どもや保護者ではなく、プラットフォーム事業者へ科す点だ。ただし、制限年齢は国によって13歳から16歳と幅がある。
一方、多くSNS企業の母国であるアメリカでは、現時点では連邦政府レベルの一律規制はなく、州単位での議論にとどまる。欧州での規制強化の背景には、巨大化したアメリカ系プラットフォーム企業への反発もあるとの指摘がある。
Q. 大手SNSプラットフォームは、こうした規制に対してどのような対応をしているのか? その課題は何か?
規制に対し、Meta社がオーストラリアで54万件のアカウントを削除したり、インドネシアで数百万件のアカウントが削除されたりと、プラットフォーム側は対応に追われている。
しかし、単純なユーザー減少や広告収入の減少よりも深刻な課題は「対応コスト」の増大だ。国ごとに異なる制限年齢や対象サービス、そして年齢確認のための厳格なシステム(AI開発、顔認証、身分証明書確認など)の構築が求められる。
さらに、マイナンバーのような機微な情報を扱うことによるデータ漏洩リスクへの対応も加わり、多大な開発・運用コストがかかる。「企業間での責任の押し付け合い」が発生する一方で、Instagramの「Tアカウント」やTikTokの利用時間制限など、規制に先回りした自主規制の動きも見られる。
Q. 規制が強まることで、SNS市場全体や新規参入にどのような影響が考えられるのか?
SNS利用規制がもたらす予想外の影響の一つが、市場競争への影響だ。厳しい規制に対応するための巨額なシステム投資は、潤沢な資金力を持つ大手事業者にとっては可能であっても、中小や新興サービスにとっては大きな障壁となる。
結果として、対応力のある大手企業が市場で有利になり、新たなサービスの参入が阻害され、市場の寡占化が進む可能性があるのだ。
その一方で、ユーザーのプライバシーを保護しつつ、顔画像や行動履歴から正確な年齢を推定するAI技術など、より高度で安全な年齢確認システムの開発は、新たな市場を開拓する可能性も秘めている。
Q. 日本は海外と異なるアプローチをとっているが、具体的にどのような方針か?

日本は他国の一律禁止とは異なり、プラットフォーム事業者に「年齢に応じた設計」を義務付ける方針だ。こども家庭庁や総務省を中心に議論が進められており、特に年齢確認の厳格化を強く求めている。
自己申告に頼らない年齢確認の方法としてマイナンバーカードの活用も検討されているほか、レコメンドシステムや無限スクロールといった無限に利用を促すような設計への対策も求められている。
日本のスタンスの大きなポイントは、厳格な年齢確認を求めつつも、一律の年齢制限は「望ましくない」としている点だ。
Q. なぜ日本は年齢による一律の利用禁止に懐疑的なのか? その根拠は何か?
日本が一律の禁止に慎重な理由は主に三つ挙げられる。
第一に、「実行性の低さ」だ。オーストラリアの例では、法執行後もアカウントを保持していた子どもが約7割に上り、禁止しても子どもたちは別の手段でSNS利用を継続する傾向が明らかになっている。
第二に、「リスクのあるサービスへの移行」の懸念だ。
人気の大手SNSが利用できなくなると、子どもたちは規制の目が届きにくい、セキュリティ対策が不十分な中小・新規サービスに流れていく可能性がある。これにより、かえって危険にさらされる恐れがあるというのだ。
第三に、「SNSの持つ効用やリテラシー教育の機会損失」が挙げられる。
SNSは、現実世界での居場所がない子どもたちの拠り所となったり、悩みの相談先になったり、創造的な自己表現の場を提供したりといったポジティブな側面も持つ。
これらを一律に奪うことは社会的な損失になりかねない。
また、年齢で一律に利用を禁止し、例えば16歳で急に利用を開始させても、リテラシーが急に向上することはない。
むしろ、小さい頃から段階的に利用させ、保護者や学校がリテラシー教育を進めていく方が、実践的な判断能力やリスク対処能力を養う上で適切だと日本では考えられているのである。