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米中スタートアップ。AIブームで冬明け
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2026年7月22日

AIとディープテックのブームにより、世界のスタートアップが復調しつつある。ベンチャーキャピタリストの蛯原健氏に米国、中国、インド、東南アジアのスタートアップ最新事情を解説してもらった。 <ゲスト> 蛯原健|リブライトパートナーズ 社長 1994年横浜国大卒、日本合同ファイナンス(現ジャフコ)入社。...
AIが牽引する世界のスタートアップ市場「骨太ブーム」到来!日本が生き残る道は?
世界のスタートアップ市場が、長らく続いた“冬の時代”を抜け出し、かつてないほどの活況を呈している。特にAI技術の爆発的な進化が、市場のV字回復を牽引し、新たな「骨太のブーム」を生み出し始めたのだ。かつての金余りによるバブルとは一線を画し、実益を重視する堅実な成長へと舵を切る市場。本記事では、このダイナミックな変化を、主要市場である米国と中国の動きから深く掘り下げ、さらに日本がこの潮流の中で取るべき戦略を考察する。

Q. 世界のスタートアップ市場は「冬の時代」から本当に復活したのか?
結論から言えば、世界のスタートアップ市場は明確な回復を見せている。特に米国と中国の二大市場がこの動きを牽引し、資金調達額はV字回復を達成した。全体で見ても、世界の資金調達額は前年比で大きく増加しており、未上場市場特有のデータ遅延を考慮すると、案件数ベースでも回復基調が続いていると言えるだろう。
かつての急激な金利上昇と流動性引き締めで停滞した冬の時代は終焉を迎え、市場には再び活力が戻りつつある。この回復は、特定の要因に強く依存しており、次項以降でその詳細を掘り下げていく。
Q. アメリカのスタートアップ市場を牽引しているものは何か?
アメリカのスタートアップ市場の復活は、主にAI/ML(機械学習)分野によって強く推進されている。2024年の資金調達において、AI/ML関連分野は過去10年間首位を維持していたSaaSを件数ベースで追い抜き、新たな主役となった。
当初、資金はOpenAIのような一部の巨大LLM企業に集中していたが、今ではAIエージェントやバックエンドのミドルウェアなど、より多様なAI関連技術のレイヤーへと分散している。これは1990年代のインターネット草創期を彷彿とさせ、AIが単なる技術要素から、広範なスタートアップを萌芽させる「ビジネスプラットフォーム」へと進化を遂げたことを示唆する。
また、エグジット市場(IPOやM&A)の活況も市場回復の重要な要素である。米国の主要株価指数(S&P 500、NASDAQ、Dow)は軒並み史上最高値を更新し、テック株にとって有利な市場環境が整った。2024年は、バブル期の2021年に匹敵するIPO調達額を上半期ですでに達成し、SpaceX、Stripe、Databricksなどの大型IPOも控えることから、「IPOの当たり年」となる見込みが高い。これらの好条件が投資サイクル全体に好影響を与えている。
Q. 「骨太のスタートアップブーム」とは何か?ユニコーン時代とどう違うのか?

過去のユニコーンブーム、特にコロナ禍における2020年から2021年の熱狂は、金融財政政策による極端なゼロ金利(ZARP)と大規模な量的緩和が生み出したバブルだった。これにより、多くの企業が資金調達コストほぼゼロで立ち上がり、成長性の指標である売上(トップライン)だけを追うことが許された。しかし、その後の冬の時代を経て、市場は大きな選別と淘汰を経験した。
現在の市場回復は、金利が落ち着き、マクロ経済が健全な状態に戻りつつある、よりファンダメンタルズに裏打ちされたものだ。そのため、スタートアップに求められるKPIも、「トップライン拡大」から「利益(ボトムライン)重視」へと変化した。このシフトが、ソフトウェア単体ではなく、AIやハードウェアを含む「ディープテック」への投資を加速させ、「骨太のスタートアップブーム」を築いている。これは、より長期的な視点での成長と持続可能性を目指す、健全で粘り強い産業変革期と捉えられるだろう。
Q. AIの次に注目される「FDE」とは、どのようなビジネスモデルか?
AIの次に注目される潮流の一つに「FDE(Forward Deployed Engineer)」という概念がある。これは、AIの実装や導入支援を、各産業の特定の垂直市場(バーティカル)に深く入り込んで行う役割やビジネスモデルを指す。Palantir社はその代表的な例である。
FDEは、高度なAI技術を駆使する一方で、顧客企業の業務プロセスに密接に関わり、時には労働集約的な「ハイタッチな作業」が求められる。従来のSIerに似ている側面もあるが、AI技術を核とする点で差別化される。興味深いことに、AIの導入を進める企業ほど雇用が増える傾向にあるという統計データも、FDEが現場におけるAIの実装ニーズを満たす重要な役割を担っていることを裏付けている。AIによる効率化だけでなく、それを現実のビジネスに落とし込むための人的介入の重要性を示唆する。
Q. 中国のスタートアップ市場がV字回復を遂げた背景には何があるのか?

中国のスタートアップ市場も、冬の時代からV字回復を遂げている。米中デカップリング(分断)の影響で、ドル建てファンドによる投資は激減したものの、その空白を人民元(RMB)建ての資金が埋めている。その中心には、約200兆円(1.7〜2兆ドル規模)という世界最大規模の政府系ファンドが存在する。
これらの国家資金が、ベンチャーキャピタルやスタートアップへ直接・間接的に注入され、テック産業を強力に支援しているのだ。これは、「富国強兵」的な国家戦略として、テクノロジー開発を国主導で推進する中国特有の動きである。市場からは一見冷え込んでいるように見えても、実態は政府の強力な支援によって市場が再構築され、ディープテック分野で新たな成長を遂げているのが実情だ。これにより、官と民が再統合し、テクノロジーの地政学競争における競争力を高めている。
Q. 中国AI技術の進展度合いやその強みとは?
中国のAI技術は、米国と比べても遜色ないレベルにまで到達している。スタンフォード大学の調査によれば、米中のLLM(大規模言語モデル)の性能差は3%未満の誤差範囲に留まる一方、中国は米国の約23分の1という驚異的なコスト効率で同等のパフォーマンスを達成している。
これは、NVIDIA製の最先端半導体の禁輸措置に対し、HuaweiのAscendチップなどを活用して技術的自立と効率化を推進した結果である。AI以外にも、ヒューマノイドロボット領域では、世界の関連スタートアップの約半分、資金調達案件数の約2/3(65%)を中国勢が占め、質・量ともに米国を凌駕する存在感を見せる。
この強力な競争力を支える根底には、中国のエリート層に見られる「異次元の労働倫理」がある。かつて「996」(朝9時から夜9時、週6日)が話題となったが、現在は「907」(朝9時から深夜0時、週7日)とさらに過酷な労働環境で、博士号取得者などのエリートが自主的に働くという体制が定着している。これは中国のイノベーションにおける決定的な強みとなっている。

さらに中国政府は、技術流出防止策として「シンガポールウォッシュ」(地政学リスクを避けるために中国企業がシンガポールに本社を偽装移転する動き)を事実上終焉させた。AI企業「マナス」を巡る米Metaによる買収阻止や、創業者のパスポート没収といった強硬な手段を講じ、国家的な技術管理を徹底している。
Q. 米中対立が深まる中で、日本が取るべき戦略とはどのようなものか?
AIとディープテックがもたらす地政学的・産業的変化の中で、日本が生き残るためには明確な戦略が必要である。
まず、AIと特定のディープテック領域に国家リソースを集中的に投入する「えこひいき」的な支援が不可欠だ。政府が打ち出す「骨太の方針」のように、半導体、環境技術、バイオ、宇宙、高度製造業といった分野で、大学や研究機関に眠る優れたIP(知的財産)を最大限に活用し、潤沢な資金を投入する必要がある。
最大の課題は、これらの技術をグローバルに展開できる経営人材の不足だ。産学官が連携し、この「グローバル対応の経営人材」を徹底的に育成・供給できる体制を築けば、日本は米中といった巨大国家間の競争の中で、独自の強みを持つ存在となり得る。資源集中と人材育成によって、日本はAI時代における国際競争力を獲得するチャンスを掴むだろう。